無気力聖女は永眠したい

だましだまし

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永眠しそこねました

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「シスター…」

消え入りそうな呼びかけにそっと微笑む。

私ももう80。
誰よりももうずっとずっと長く生きた。

声をかけたのはまだ教会に来て間もない新人の修道女。
おばあさまと慕ってくれたこの子が慣れる前に逝くのは少々申し訳ない気もするが私は自分の生に十分満足している。

ぐすりぐすりと鼻をすする声が幾つも聞こえる。
教会の修道女たちが、世話していた孤児や村の知人たち、大勢が私を見守り見送ってくれている。

「ありが…とう…」

私は力を振り絞り最後の言葉を口にした。
眠るように意識が吸い込まれるような、落ちていくような、ああ、これが死か、と納得できる感覚が起きる。


私は天に召されるのだ。



…召され……たのよね?


目は閉じていたはずなのに何だか明るい。
目を開けようにもまばたきの感覚が無い。

天国?こんな意識ってあるものなのかしら。

ぼんやり不思議に思っていると男とも女ともいえない声が響いてきた。
「ナーシャさん!ごめんなさいねぇ、こんなとこに来てもらってぇ~」

ずいぶん軽い調子だ。

「実は申し訳ないんですけどー、やり直して欲しいんですよー」

は?何を?

「あ、人生をですー。ちょーっと人生の選択で困っちゃいまして~」

いやいや、もう十分生きて満足しました。

「そんな事言わないでー、感覚も感性も若返らせますから~」

いえいえ、必要ないです。

「そっちは良くてもこっちが困るんですよー。血を遺してくれないとー…そういう運命だったはずですよー。」


血を遺す。
要は子供を産むという話だろうか。
そういう運命かは知らないが私は男運が悪かった。


ある伯爵の庶子として生まれた私。

本妻との間には男の子1人しかいない伯爵が政略結婚に使える娘が欲しいと出産で死んだ母に変わって育ててくれていた叔父の元から引き取った事で伯爵令嬢となった。
この時、私10才。

嫌味ばかり言ってくる性格の悪い兄にうんざりしながらも淑女となるべく勉強三昧の6年間を過ごして婚約者をあてがわれた。

ところがコレがろくでなしだった。

浮気はするわ賭け事はするわの遊び人。
それでも仕方がないと思っていたのに賭けの景品に貞操を掛けられ、流石の父も嫁入り前に娘の価値を失うわけにいかないと怒った程の男だった。

そんな男だったので婚約は破談となり、次にあてがわれたのが病弱な男。
そして彼はマザコンだった。

婚約者として彼の家で暮らすことになった時、彼とその母の情事を見てしまったのだ。
浮気は前の男にもされた。
されたけど相手が義母とか流石にキツい。

ここで私は逃げ出した。

途中親切な人に助けられ、散々引き留められたが若い男だったのでまたとんでもないのだと困ると村の修道女にサッサとなった。

その後は若さと元貴族令嬢ということで何度か還俗し嫁にとの話しはあったが逃げ切り年を取り平和に…が、私の半生である。


…子を残したいって相手と出会ったこと、無くない?

「それは…ナーシャのお父上がねー!平民たちはマトモだったんだよー?」

そうでももうあんなシンドい人生、お断りである。

「それだと世界が滅ぶんだよー」

それでもお断…は?

「世界がねー、魔に飲まれて滅ぶからー!君って実は魔を抑えてたんだよー」

そんなん知らないんですけど?

「聖女の特性でそこそこ治癒魔法とか破邪魔法とか出来たはずだよー?でも本当のすごい聖女は君の子孫なんだー。だから血を遺してもらわないと困るー!」

たしかに治癒魔法は使えたけど聖女だとは知らなかった。
通りで修道女としての暮らしが快適なはずだわ。

「修道女が快適だったのは他の環境が悪かったからだよー。てなわけでやり直してねー!」

やだ!めんどくさい!!!



そう叫んだはずなのに気が付くと私は安宿のベッドに横たわっていた。
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