無気力聖女は永眠したい

だましだまし

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順調すぎる旅

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三人での旅は楽しかった。

ただ、行商は難航した。
「ラーウェイ…行商中は悪いけどどっか行ってくれ」
レバンスが冷たく言い放ったのも無理は無い。
「え!?何故です?」
助けを求める目でこっちを見てくる。
「もしくはあそこの離れた木陰とか…」
ちょっと遠慮がちに言うがガーンとショックを受けた顔をされてしまった。
「ナーシャ様まで…!!!」

こう言われるのも仕方が無い。
愛想笑いの顔が怖いのだ。

笑顔はナーシャから見れば可愛いのだが、どうも愛想笑いというものが下手らしい。
ぎこちなく、警戒されるのも無理はないと思う悪い笑顔に見える。
加えて真顔も怖い。
「鏡見ろ!客が脅えて旅費が稼げねぇんだよっ」
「そんな…!資金なら稼がなくてムグッ」

めしゃりと口にパンがつっこまれている。
レバンスがおやつに食べていた食べかけだ。

「そーか、そーか。腹減って休憩に行きたいか」
レバンスがいつになく圧をかけてラーウェイを追い払ってしまった。
今日の売り物はラーウェイに出会った街の近くの村の特産品であるハーブを小分けにしたものだ。
通りがかりに仕入れ、少し離れた地の今、売りに出している。
ポプリの材料にもなるものなのでターゲットは女性客。
仕方ないよねとナーシャは深く考えていなかった。



夜ー

「昼間は申し訳ありません」
ラーウェイがレバンスに頭を下げる。
「領主様からの密命なんだから本当に外で下手なこと言うなよ。それに情報収集兼ねての行商なんだから邪魔すんな」
「しかしナーシャ様にはお教えしても宜しいのでは…」
「そりゃ一緒に来るって言うなら伝えるけど…まだ分からない状態なのに気を遣わせたくないんだよ」

少しの沈黙が流れる。
ラーウェイはレバンスの表情から少し思うことがあった。

「好いたのなら口説けば良いのでは?」
「なっ…!」

反射的にラーウェイを見たレバンスは真っ赤である。

「レバンス殿も若いですね~。モテるでしょうに…あまり男女のやり取りはされてこなかったんですか?」
ちょっと揶揄い調のラーウェイにレバンスは逆に落ち着きを取り戻したらしい。

「それなりに色恋の経験はある。が、…その…なんか違うってゆーか…」
段々ゴニョゴニョと戸惑う気持ちを吐露する。

「おぉ、初めて恋したのですね。おめでとうございます」

「…恋…じゃあ今までそう思ってたのは…」
「無自覚でしたか…。多分今までのは何となくなのでは?別れとか辛かったりしました?」
「いや…」
「初恋おめでとうございます」
「…」

しばしの沈黙を破ったのはラーウェイだった。

「では、戯れはこの程度にして報告です」
「戯れ…か。あぁ、で、報告とは?」
「昼間レバンス殿に追い払われたあと情報収集してたんですよ」

パンを突っ込まれ追い払ったラーウェイと合流したのはこの宿だ。
しかもラーウェイの方が帰りが遅かった。

「…真面目だな…ってそのドヤ顔やめろ」
てっきり羽を伸ばしていると思っていたので素直に驚く。

「いえ、実は思うことがあったもんで」

その思うことというのはレバンスも感じていた。

三人で旅をしてもう一週間は経つ。
その間一度も魔物と戦闘が無いのだ。

「この町は規模としては小さめですが情報伝達の機具は設置されています。もし王都で聖なる者が見つかり結界が張られた等の大ニュースがあればすぐに伝わります」


これはほんの30年ほど前までの話しである。

王都の大神殿には強い力を持つ聖者がいた。
彼は魔物を遠ざけ力を弱める破邪の結界の魔法を使えた。
結界は彼を中心に円状に展開していたが、その力は大神殿にある大きな水晶柱から主要な都市部にある神殿の大水晶を通じて国中に広がっていた。

彼が生きている間、魔物の討伐をしようと思えば余程の田舎か、近隣に大きな神殿の無い僻地や森までわざわざ行かねばならなかったのだ。

今でこそ村や町のはずれ、都市部近隣以外の街道など旅をしていて当たり前に見る魔物だがそれは彼の没後なのである。


「こんなに魔物を見ないのですから話しに聞いた結界でも張られたのかと思ったんですが違いました。やはり魔物の目撃情報はあるんです。ただ、ここまで遭遇しないのを運だけで片付けるには…」

「俺も旅をして一週間、一度も見かけてすらいないのは初めてだな…」

魔物に脅えることが無い。


喜ばしくも不自然さがある順調すぎる日々だった。
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