139 / 266
第2章 異世界でももふもふは正義!?
69
しおりを挟む
「……ッ!?」
俺とクロしかいないはずのその場所に突然現れ、その上抱き付いてきたその人物に俺は息を呑んだ。
最初は、山賊か何か危険な奴で俺を殺すかさらうかするつもりなのかと恐怖を覚えたが、その腕の力は強いものの、乱暴な気配は一切なかった。
おかしな話だが、見知らぬ他人だというのにそれはまるで恋人の甘い抱擁のようでもあった。そのことがまた違った意味の、薄気味の悪い恐怖を誘った。
「やっと、抱き締められた……」
男が溜め息交じりにぽつりと呟いた。深い感慨と淡い恍惚が滲んだその声に、背中がぞわぞわと粟立った。
な、なんなんだ、こいつは!? というか、クロはどこに行ったんだ!?
まさかあのクロが俺を置いて逃げるとは考えにくい。しかしクロがいるなら、この状況に黙っているはずがない。
すぐに男に襲いかかるはずだ。いや、クロなら男が俺に抱き付く前にどうにかしてくれているはずだ。
それなのにクロの気配が少しもしない。嫌な予感に胸がざわついた。
「ク、クロ!」
緊張で強ばった喉を何とか動かしてクロを呼ぶ。しかしいつもの可愛らしく心強い「わふっ」という返事はなかった。
最悪な事態にサァと全身から血の気が引いた。
「クロ! 嘘だろ! そこにいるんだろ! クロ! クロ!」
「落ち着け、クロはここにいる」
腕の中でもがきながら半狂乱になって叫ぶ俺に、男は落ち着いた声で囁いた。
誰のせいで落ち着けないと思ってんだよ! と怒りを覚えつつもクロはここにいるという言葉に、俺は叫ぶのを止めた。
男が体を離したので急いで振り返る。しかしクロの姿はない。
代わりにいるのは、褐色肌のえらく顔の整った男だった。しかしその頭上には獣の耳がついていて、後ろにはゆらりと揺れる長い尻尾が見える。どうやら普通の人間ではないようだ。
下半身は布を巻いているが、上半身は裸でしっかりとした筋肉が褐色の肌に影を作っていた。
アフリカなどにいそうな民族のような出で立ちの屈強な男に少し怯みながらも、俺は虚勢を張ってキッと睨み付けた。
「ここにいるって、いないじゃねぇか! どこにいるんだよ! クロに何かあったら承知しないからなっ」
怖がっていると悟られたら負けだ。俺は精一杯強がって大声で怒鳴った。
しかし男は嬉しそうに目元を細めて、少しも怯んだ様子を見せない。その余裕が腹立たしかった。
「なんだよ! 人が真剣に話してるのに笑うな!」
「ああ、すまない。つい嬉しくてな。こんなにも私のことを案じてくれるとは」
「はぁ?」
男の勘違い発言に俺は顔を思いっきり顰めた。
誰がいつお前を案じた? これはあれだろうか、ドゥーガルドと同じく人の話を自分の都合がいいように解釈するパターンか?
正直、面倒な奴と絡んでしまったという気持ちが重い溜め息のように胸の底に淀んだ。
胡乱な目で見る俺に気付いたのか、男がにっこりと笑って口を開いた。
「安心しろ、クロはここにいる。――私がクロだ」
「……は?」
俺とクロしかいないはずのその場所に突然現れ、その上抱き付いてきたその人物に俺は息を呑んだ。
最初は、山賊か何か危険な奴で俺を殺すかさらうかするつもりなのかと恐怖を覚えたが、その腕の力は強いものの、乱暴な気配は一切なかった。
おかしな話だが、見知らぬ他人だというのにそれはまるで恋人の甘い抱擁のようでもあった。そのことがまた違った意味の、薄気味の悪い恐怖を誘った。
「やっと、抱き締められた……」
男が溜め息交じりにぽつりと呟いた。深い感慨と淡い恍惚が滲んだその声に、背中がぞわぞわと粟立った。
な、なんなんだ、こいつは!? というか、クロはどこに行ったんだ!?
まさかあのクロが俺を置いて逃げるとは考えにくい。しかしクロがいるなら、この状況に黙っているはずがない。
すぐに男に襲いかかるはずだ。いや、クロなら男が俺に抱き付く前にどうにかしてくれているはずだ。
それなのにクロの気配が少しもしない。嫌な予感に胸がざわついた。
「ク、クロ!」
緊張で強ばった喉を何とか動かしてクロを呼ぶ。しかしいつもの可愛らしく心強い「わふっ」という返事はなかった。
最悪な事態にサァと全身から血の気が引いた。
「クロ! 嘘だろ! そこにいるんだろ! クロ! クロ!」
「落ち着け、クロはここにいる」
腕の中でもがきながら半狂乱になって叫ぶ俺に、男は落ち着いた声で囁いた。
誰のせいで落ち着けないと思ってんだよ! と怒りを覚えつつもクロはここにいるという言葉に、俺は叫ぶのを止めた。
男が体を離したので急いで振り返る。しかしクロの姿はない。
代わりにいるのは、褐色肌のえらく顔の整った男だった。しかしその頭上には獣の耳がついていて、後ろにはゆらりと揺れる長い尻尾が見える。どうやら普通の人間ではないようだ。
下半身は布を巻いているが、上半身は裸でしっかりとした筋肉が褐色の肌に影を作っていた。
アフリカなどにいそうな民族のような出で立ちの屈強な男に少し怯みながらも、俺は虚勢を張ってキッと睨み付けた。
「ここにいるって、いないじゃねぇか! どこにいるんだよ! クロに何かあったら承知しないからなっ」
怖がっていると悟られたら負けだ。俺は精一杯強がって大声で怒鳴った。
しかし男は嬉しそうに目元を細めて、少しも怯んだ様子を見せない。その余裕が腹立たしかった。
「なんだよ! 人が真剣に話してるのに笑うな!」
「ああ、すまない。つい嬉しくてな。こんなにも私のことを案じてくれるとは」
「はぁ?」
男の勘違い発言に俺は顔を思いっきり顰めた。
誰がいつお前を案じた? これはあれだろうか、ドゥーガルドと同じく人の話を自分の都合がいいように解釈するパターンか?
正直、面倒な奴と絡んでしまったという気持ちが重い溜め息のように胸の底に淀んだ。
胡乱な目で見る俺に気付いたのか、男がにっこりと笑って口を開いた。
「安心しろ、クロはここにいる。――私がクロだ」
「……は?」
53
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。ユリウスに一目で恋に落ちたマリナは彼の幸せを願い、ゲームとは全く違う行動をとることにした。するとマリナが思っていたのとは違う展開になってしまった。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる