勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

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第2章 異世界でももふもふは正義!?

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 明らかに相手の隙を作るための嘘だ。あからさまでベタなやり方だが、効果はてきめんのようだった。素人の俺から見てもクロの攻勢が緩んだのが分かった。
 その隙をゲスの極みのアーロンが見逃すはずがない。剣の柄をクロの顎に下から強く打ち込む。
 
「――ッ!」

 そのまま肘でみぞおちを突き、クロを地に伏せさせた。そしてすかさず立ち上がろうとするクロの背後から跨がり、首筋に剣をあてた。

「……ッ」

 皮膚にぴとりと当てられた剣に動きを止めたクロに、アーロンがククッ、と喉を鳴らして笑った。

「お前相当あの淫乱に惚れてるらしいな。普通あんなくだらねぇ嘘に騙されねぇよ」
「……ッ、貴様!」

 ギリ……ッ、と奥歯を噛んでアーロンを睨みつけた。
 しかし殺気に満ちた睨みを受けながらもアーロンはハッと鼻で笑うだけで少しも怯むことはない。

「でも残念だが、あれは俺のものだ。……勇者様の所有物に手を出したこと死ぬほど後悔させてやる」

 アーロンにしては珍しく冷ややかな声でそう言い放つと、剣を振り上げた。

 やばい、クロが殺される……!

「や、やめろ! そいつはクロなんだ!」

 俺は咄嗟に叫んだ。

「え?」

 俺の言葉に剣を振り下ろしかけたアーロンの手が止まった。
 すると、その隙を突くようにクロが思い切りアーロンの胸元に肘鉄を食らわせた。

「ぐ……ッ!」

 アーロンが濁った呻きを漏らす。しかしクロは容赦なくその首を片手で鷲掴み、アーロンを地面に押し倒した。その上に覆い被さり、一瞬のうちに形勢は見事に逆転した。

「ッ、くそ、が……っ」
「貴様、さっき私に死ぬほど後悔させてやると言ったな? それはこっちの台詞だ。貴様は普段から嫌がるソウシに迫ってひどく不快な存在だった」

 冷たく吐き捨てるように言いながら、アーロンの首を絞める手の力をさらに強める。

「ぐ……っ!」

 アーロンが苦しげに顔を歪める。そんなアーロンを見るのは初めてで俺は慌ててクロに叫んだ。

「ちょっ、クロ! やめろ! そのままじゃアーロンが死んじゃうだろ!」

 するとクロはアーロンに向けていた冷たい怒りの表情から一転、柔らかな微笑みで俺の方を振り返った。

「大丈夫だ、殺しはしない。動けないようにして、ソウシが私の子を孕むところを見せつける。殺すのはそれからだ」

 ひ、ひえぇ……っ! なんだその狂った計画は……!

 色々と物騒な宣言に俺は震え上がった。

「まずは動けないようにするか」

 そう言って首を掴んだまま、クロは詠唱を紡ぎ始めた。

 や、やべぇ……! このままじゃ色々とやべぇ!

 とりあえずどうにかしてクロの詠唱を止めなければ、と思い口を開くと、

「……その色欲馬鹿を殺すのはいい案だ。だが、ソウシは俺のものだ」

 聞き覚えのある声が背後から聞こえて振り返る。そこにはドゥーガルドが立っていた。

「ドゥーガルド……っ!」

 目を見開く俺に、ドゥーガルドが優しく微笑みかけた。

「……遅くなってすまなかった。手柄を横取りしようとしたあの馬鹿に笛を奪われてしまってな」
「え?」

 その言葉に、そういえばアーロンがドゥーガルドは寝ていると歯切れが悪そうに言っていたことを思い出す。
 こんな時に仲間を出し抜こうとするなんて、さすがはアーロンというべきか……。
 俺はハァ、と溜め息を吐いた。

「でもよくそれでここまで来られたな」
「……精神を研ぎ澄まし、ソウシの気配を感じる方へ向かったらここに辿り着いた」
「いやそれすごすぎだろ!」

 なんだよ、その俺に特化した特殊能力は!? ストーカーって極めるとそんな能力が身につくわけ!?

「……まるで運命の赤い糸で繋がっているみたいだな」
「頬を赤らめるな! 乙女か!」

 思わず大きな声でツッコミを入れると、詠唱を紡いでいたクロがこちらに気付き振り返った。

「また邪魔が来たか……ッ」

 クロは忌ま忌ましそうに舌打ちをして、アーロンの首から手を離し立ち上がった。

「ゴホッ、ごほ……っ」

 咳き込むアーロンを無視してクロはドゥーガルドを睨みつけた。
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