勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
242 / 266
第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?

67

しおりを挟む
 その転んだ拍子にお金の入った小袋が俺の手から離れた。
 慌てて拾おうとしたが、それよりも早く小柄な少年がそれをひょい、と拾い上げた。
 
「あ、どうもありが――」

 拾ってくれたお礼を口にしたと同時に、なんとその少年は小袋を持ったまま猛ダッシュで走り出した。
 
「……は? はぁぁぁぁ!?」
 
 あまりにも思いがけない突然のことで唖然としたが、状況を理解した俺はすぐさま立ち上がって少年の後を追った。
 
「こら待て! 返せ! 俺の全財産!」

 怒鳴りながら追いかけるが、少年は少しもこちらを振り向かない。
 周りには人が多くいるというのに、厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだとばかりに眉を顰めて人混みの中を突っ走る少年と俺から距離をとるばかりで、助けようとしてくれる人は皆無だった。
 
 く、くそ……っ! ふざけんな! なんで俺ばっかりこんな目にあわなきゃいけねぇんだよ!
 
 半泣き状態で追いかけていると、少年が突如右に曲がって狭い路地へと入っていった。
 薄暗い路地は一瞬俺の足に躊躇いを生じさせたが、相手は俺より小柄な子どもだ。
 小袋を取り返すために取っ組み合いになっても、体格差から俺が有利なのは火を見るより明らかだ。
 それに邪魔な人混みがない分、かえって路地の方が早く追いつけそうだ。
 少年に追いついて小袋を取り返すビジョンが明確に浮かんだ俺はさらにスピードを上げて少年の後を追って路地へと入っていった。
 路地は思った以上に入り組んでいて、その上細い階段まで現れて必然的に追う速度は下がる。
 だが、それは相手も同じこと。徐々に距離は縮まっていった。

「くそっ、もう少し……っ!」

 手を伸ばして少しでも少年の体に触れようとするが空振り。指先すらかすらなかった。
 走りながら無理に手を伸ばしたのがいけなかったのか、少しバランスをくずした俺は石畳に突っかかりそのまま前のめりに盛大に転んでしまった。本日二回目の転倒だ。
 
 くそ! なんでここで転ぶんだよ……ッ!
 
 自分の不注意と不運に大きく舌を打った。
 顔を上げると、前を行く少年の姿が消えた。
 一瞬、何かの魔法かと驚いたが何てことはない。
 道の先が下りの階段だっただけだ。その証拠に、タタタタタ……と階段を駆け下りる音が響いている。
 
 こうなったら階段から飛び降りて少年を下敷きにしてでも確保してやる……!
 
 幸いにもさっき駆け上った階段はそんなに高くはなかった。そうなれば必然的に下りの階段もそんなに高さはないはずだ。
 少し危ない乱暴な作戦だが、ことの元凶である少年と自分の連続する不運への怒りで頭に血が上っていた俺は鼻息荒く立ち上がって走り出した。
 そして道が切れたところで、俺はタンッ! と勢いよく地面を蹴った。
 
「俺の金、返せぇぇぇぇ!」

 叫びながら飛び降りてくる俺に、階段を降りきった少年は目を見開いてこちらを見上げていた。
 ――だが、そこにいたのは少年だけではなかった。俺より体格がよくガラの悪い男が二人、少年と同様に目を丸くして立っていた。
 
「……は? えぇぇぇ!?」
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。ユリウスに一目で恋に落ちたマリナは彼の幸せを願い、ゲームとは全く違う行動をとることにした。するとマリナが思っていたのとは違う展開になってしまった。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...