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第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?
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王都にやってきて二日目の朝、俺はチェルノが手配してくれた宿のベッドの上で目を覚ました。
さすがは王都の宿というべきか、今まで泊まったどの宿よりきれいだった。
ベッドも柔らかく、おかげで久しぶりにゆっくり眠れた。
「むにゃ……、ソウ、シ……」
俺が体を起こすと、隣で眠るクロがむにゃむにゃと口を動かして俺の名前を呼んだが、すぐに規則正しい寝息に包まれた。
その姿が可愛くて思わず笑いが零れた。
「はは、寝てれば本当に可愛いのになぁ」
指先で軽く耳の後ろを掻くと、クロの目元が気持ちよさげに緩んだ。
「ふふ……だめだぞ、お前たち……むにゃむにゃ……」
クロが寝言を漏らす。
その声はとても幸せそうで口元が笑っているように見えた。
どんな夢を見てんだろう?
お前たちという言葉から、もしかすると昔の仲間との夢を見ているのかもしれない。
だとしたら、もうしばらく起こさないようにしてやらないとな。
俺は微笑ましい気持ちで頭を優しく撫でた。
「ふふ、寝てる時だけは無害な癒やし系ペット――」
「むにゃ……こら、お前たち……母さんの……ソウシのおっぱいはお父さんのものだ……むにゃむにゃ……」
……前言撤回!!
寝ても覚めてもこいつは俺のケツを狙う獣だった!
無害な癒やし系ペットとか、俺はなに寝ぼけたことを……!
というか、どんな夢見てんだよ!
俺におっぱいはないし、あったとしても断じてお前のものではないっ!
本当は昨日の疲れもあり二度寝をしようと思っていたが、妙な夢を見ている奴の隣でだなんて眠れたものじゃない。
身の危険を感じた俺はそーっとベッドから抜け出した。
そして素早く着替えると、テーブルの上に『少し出かけてくる。すぐ戻る』と置き手紙を残してそのまま部屋を出た。
外は朝のすがすがしい空気に満ちていた。
「んー、いい朝だ」
俺は柔らかい日差しを浴びながらひと伸びした。
こんなに気持ちのいい朝は久しぶりだ。
これまではアーロンやドゥーガルドと一緒に旅をしていたため、起きた瞬間から警戒モードに入らざる得ない日々だったが、今は奴らは昨日から実家へ戻っている。
ドゥーガルドにはしつこく家へと誘われたが、嫁だの婚約だの言っている奴の実家などに誰が行くものか。断固拒否してやった。
まさか断られるとは思っていなかったようで俺の返事にうろたえるドゥーガルド。どうにか俺の気持ちを変えようとあの手この手でしつこく粘ったのは言うまでもない。
もちろん俺は、振り下ろされる剣の猛攻をなぎ払うようにそれら全てを拒否、拒否、拒否……! 確固たる意思で断り続けた。
俺の固い意志が通じたのか、ドゥーガルドは渋々だが一人で実家に帰って行った。
自分たちは相思相愛だと信じて疑わない妄想の塊であるあのドゥーガルドが、しつこく粘ったとはいえ最後は諦めてくれたことに、明日は槍でも降るんじゃないかと思わず空を見たほどだ。
何はともあれ、奴らの不在は俺の尻の安寧を意味する。
数日後には邪神討伐についてまた王様から招集がかかるらしく、この安寧も束の間ではあるものの、異世界に来てようやく得た緊張の日々からの解放だ。満喫しない手はない。
それにせっかくの王都なのだ。存分にいい意味での異世界らしさを楽しむぞ!
期待を胸に、俺は宿周辺を散策し始めた。
しばらく歩くと、他より少し広い道で店がずらりと並んでいるのを見つけた。
朝だというのに市場は人で賑わっていて、店頭に並ぶほとんどが新鮮な野菜や果物、肉などの食べ物類だった。
中には調理したものもあって、いかにも焼き立て出来立てといった旨そうな匂いを漂わせるていた。
起きてからそのまま逃げるように宿を出たので当然朝ご飯など食べていない。その匂いに思わずよだれが溢れるのも仕方のない話だ。
俺はいそいそとポケットに入れていた小袋を取り出して中身を確認した。
中には硬貨が数十枚。ゲルダさんのところで働いてもらったお金だ。
自分で得た貴重なお金なので慎重に使いたいところだが、今までいろいろとがんばってきたし少しくらい自分にご褒美をやっていいよな? ……うん、いい。絶対いいに決まってる。ご褒美、大事。
そう自分に言い聞かせ、俺はほくほくとした気持ちで店を見回した。
さて、何を買おうかな……とにやけながら店頭に並ぶ商品を見ていると、ドン! と背後から人がぶつかってきた。
いや、ぶつかるなんてそんな生やさしいものではなかった。
「うわ……っ!」
突進ともいえるくらい強い衝撃を背後から受けた俺はそのまま前のめりに倒れた。
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