勇者様の荷物持ち〜こんなモテ期、望んでない!〜

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
244 / 266
第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?

69

しおりを挟む
 中性的な声や顔立ち、笑みとは無縁の鋭い無表情、細い体を包む燕尾服、一つに束ねた腰近くまである長い黒髪……、それらのせいで性別の判断に一瞬迷うが、それでも彼女が女であることを確信したのは――。
 
「その小袋がそのお方のものであることは、私が証言する。ちなみに貴様らの弟がそのお方から小袋を盗んだこともな」

 コツコツ……と高い靴音を響かせ、美女が階段を降りてくる。
 その豊満な胸を揺らしながら……。
 
 で、でかい……!
 
 テレビの向こうや二次元でしか見たことのないレベルの巨乳に、俺も男たちも思わず目を奪われる。
 いや、目どころか心まで奪われていたといってもいいだろう。
 その証拠に、美女が腰に携えた鞘から剣を抜き出し、俺の手を掴む男にその切っ先を向けるのを許した。
 
「貴様ら、人と話す時はちゃんと顔を見て話せと教わらなかったのか。それとも顔と乳の区別がつかないほどに愚昧なのか」
「ぐ……っ」

 鋭い剣先で顎をクイ、と上に向かせる美女に、男は今まで余裕に満ちたなめらかさでべらべらと口を動かしていたのから一転して、言葉を詰まらせた。
 彼女は俺の証人となるとまで言ってくれたので味方で間違いないのだろうが、いかんせん男の悲しい性ともいえる下品な反射ででかい胸を凝視してしまったので、俺の心境としては剣先を向けられている男たちに近い。
 
「……五秒時間をくれてやる。私が数え終わる前にその袋を置いてこの場から去れ」

 冷酷さすら感じられる鋭い声でそう言うと、彼女はカウントダウンを始めた。
 数からすれば自分たちが有利であるはずだが、彼女の纏う常人とは明らかに違う空気に男たちは瞬時に五秒先の惨状を予感したのだろう。
 男たちは俺の小袋を置いて脱兎のごとく逃げ出した。
 その背を見送りながら、美女はゆっくりと剣を鞘に戻した。
 そして男たちが放り捨てるように置いて行った小袋を拾うと俺の方に差し出した。
 
「どうぞ」
「あ、ありがとう、ございます……」

 俺は戸惑いつつも小袋を受け取った。
 窮地を脱したことにホッとすべきところなのだろうが、目の前に立つ美女の思惑が分からない限り安心しきるにはまだ早い。

「あ、あの、本当に助かりました……っ。なんとお礼を言っていいやら。本当に、ありがとうございます……っ!」

 似たような感謝の言葉を並べて頭を下げながら相手の動向を伺うが、彼女は黙ったままこちらを見つめているだけだった。
 表情は愛想の欠片もない無表情だが、今までの一連の言動から害意があるように思えなかったし、騙したり脅したりしてこの金を横取りしようとするような風にも見えない。
 それどころか「このお方」など、俺に対して敬意を払った言動すら見られた。
 だからこそ不気味で怪しく、窮地を助けてもらったことを諸手を挙げて喜べない。
 覚えのない敬意なんて胡散臭い。裏に何か思惑あるに違いないと思わせる。
 なのに彼女は黙ったままでその思惑を切り出そうとしない。
 何度も繰り返すお礼の言葉がいい加減白々しい時間稼ぎの風になったところで、俺は顔を上げた。
 
「いやぁ、でもたまたま通りすがっただけだろうに助けてくださるなんて本当にできた方ですね」
「たまたま?」

 真意を探るように口にしたお世辞に、美女が反応した。
 そしてずっとこれまで無表情を貫いていたその唇をくすりと綻ばせた。
 しかしそれはどこか不穏な影を纏っていた。
 
「たまたまではないですよ。――私は貴方が宿を出た時からずっと後をつけていました」
「え?」

 美女からの堂々としたストーカー発言に俺は目を剥いた。
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

人気俳優に拾われてペットにされた件

米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。 そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。 「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。 「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。 これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

処理中です...