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第4章 35歳にして、初のホストクラブ!!
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「おじさん、こっち来てお酒つくってよ。お手並み拝見~」
グラスを持ち上げて、愛果さんが手招きする。
お手並み拝見という言葉に体が緊張で固まったが、断るわけにもいかず、ぎこちない動きで愛果さんの隣に移動した。
蓮さんから送られてくる「俺の客の前で下手するなよ」とでもいうような鋭い視線に緊張が更に増す。
深呼吸をして、右京君に教えてもらったお酒づくりのマナーを頭の中でなぞりながらグラスを手にした。
まず、汚いと思われないようグラスの半分より上は絶対に触らない。
次に氷をグラスに入れる。
この時、お客様を不愉快な気持ちにさせないよう音は立てずそっと入れる。
そして、お酒を注ぐ時は、お客様にお酒がはねてしまわないようグラスのお客様側をもう片方の手で覆い隠す。
「お、お待たせしました。どうぞ」
「あははは! 超ぎこちない~、マジウケるんだけど」
僕が差し出したグラスをケラケラと笑いながら受け取ると、愛果さんはそれを一気に飲み干しまた僕に突き出した。
「うまいじゃん! もう一杯お願いね」
愛果さんの笑顔にほっと息を吐く。
けれどそれがいけなかった。
緊張の緩みは、手の先からやってきた。
ボトルを持ってグラスに注ごうとした時、つるりと手を滑らせてしまったのだ。
しまった、と思う暇もなくボトルは床に落下してしまい、悲鳴のような高い音を立てて割れ中の酒を撒き散らした。
その飛沫は愛果さんのロングスカートの裾にまでかかってしまった。
「な、なにすんのよ!」
今までの上機嫌な笑顔から一転して怒りの形相となった愛果さんに、僕は慌てて頭を下げた。
「す、すみません!」
「すみませんじゃないわよ! 人がせっかく気持よく飲みに来たのに最悪! このスカート気に入っていたのに! 染みができたらどうしてくれんのよ!」
「あ! それでしたら、酢か重層をつけた布でトントンと叩くととれるらしいです!」
「そんな問題じゃないわよ!」
よかれと思って言った僕の言葉は、火に油を注ぐ結果となってしまい、彼女の怒りの炎は鎮火不可能のレベルに達してしまった。
どうしよう……!
すると、蓮さんの手がおもむろに愛果さんの顎まで伸びた。
そしてクイッと彼女の顔を自分の方へ向かせた。
目を丸くする愛果さんに、蓮さんはにっこりと微笑んで耳元に唇を近づけた。
「じゃあさ、今から俺と服見にいかない? 俺に愛果に似合う服、選ばせてよ。……それでその服を今度は愛果のお気に入りにしてくれない?」
漏れ聞えた溢れんばかりの色気と甘さを含んだ声に、僕は息を呑んだ。
愛果さんの顔から怒りの形相はきれいに消え去り、淡い紅潮がその頬を染めた。
「蓮がそう言うなら……」
さっきまで吊り上げていた目をうっとりと蕩かせて愛果さんがそう答えると、蓮さんは「ありがとう」と言って彼女の額にキスをした。
一層頬を紅潮させて、「ちょっとお手洗いに言ってくるね!」と彼女は席を立った。
グラスを持ち上げて、愛果さんが手招きする。
お手並み拝見という言葉に体が緊張で固まったが、断るわけにもいかず、ぎこちない動きで愛果さんの隣に移動した。
蓮さんから送られてくる「俺の客の前で下手するなよ」とでもいうような鋭い視線に緊張が更に増す。
深呼吸をして、右京君に教えてもらったお酒づくりのマナーを頭の中でなぞりながらグラスを手にした。
まず、汚いと思われないようグラスの半分より上は絶対に触らない。
次に氷をグラスに入れる。
この時、お客様を不愉快な気持ちにさせないよう音は立てずそっと入れる。
そして、お酒を注ぐ時は、お客様にお酒がはねてしまわないようグラスのお客様側をもう片方の手で覆い隠す。
「お、お待たせしました。どうぞ」
「あははは! 超ぎこちない~、マジウケるんだけど」
僕が差し出したグラスをケラケラと笑いながら受け取ると、愛果さんはそれを一気に飲み干しまた僕に突き出した。
「うまいじゃん! もう一杯お願いね」
愛果さんの笑顔にほっと息を吐く。
けれどそれがいけなかった。
緊張の緩みは、手の先からやってきた。
ボトルを持ってグラスに注ごうとした時、つるりと手を滑らせてしまったのだ。
しまった、と思う暇もなくボトルは床に落下してしまい、悲鳴のような高い音を立てて割れ中の酒を撒き散らした。
その飛沫は愛果さんのロングスカートの裾にまでかかってしまった。
「な、なにすんのよ!」
今までの上機嫌な笑顔から一転して怒りの形相となった愛果さんに、僕は慌てて頭を下げた。
「す、すみません!」
「すみませんじゃないわよ! 人がせっかく気持よく飲みに来たのに最悪! このスカート気に入っていたのに! 染みができたらどうしてくれんのよ!」
「あ! それでしたら、酢か重層をつけた布でトントンと叩くととれるらしいです!」
「そんな問題じゃないわよ!」
よかれと思って言った僕の言葉は、火に油を注ぐ結果となってしまい、彼女の怒りの炎は鎮火不可能のレベルに達してしまった。
どうしよう……!
すると、蓮さんの手がおもむろに愛果さんの顎まで伸びた。
そしてクイッと彼女の顔を自分の方へ向かせた。
目を丸くする愛果さんに、蓮さんはにっこりと微笑んで耳元に唇を近づけた。
「じゃあさ、今から俺と服見にいかない? 俺に愛果に似合う服、選ばせてよ。……それでその服を今度は愛果のお気に入りにしてくれない?」
漏れ聞えた溢れんばかりの色気と甘さを含んだ声に、僕は息を呑んだ。
愛果さんの顔から怒りの形相はきれいに消え去り、淡い紅潮がその頬を染めた。
「蓮がそう言うなら……」
さっきまで吊り上げていた目をうっとりと蕩かせて愛果さんがそう答えると、蓮さんは「ありがとう」と言って彼女の額にキスをした。
一層頬を紅潮させて、「ちょっとお手洗いに言ってくるね!」と彼女は席を立った。
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