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第4章 35歳にして、初のホストクラブ!!
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二人の甘い様子を傍から眺めていた僕は、彼の見事なまでのあざやかな女性の扱いに目を瞠った。
間抜けに感嘆の溜め息を零す僕に蓮さんが鋭い視線を送ってきた。
そこで自分の粗相があんな事態を招いてしまったことをようやく思い出し、慌てて頭を下げた。
「あ、あのご迷惑お掛けしてすみませんでした!」
「……あんたさ、オーナーの知り合いって本当?」
僕の謝罪を無視して、蓮さんが問い掛けてくる。
こちらに寄越される視線と声の冷たさに、背筋に鳥肌が走った。
「あ、はい、そうですけど……」
それがどうしたのだろうかと不思議に思いながら次の彼の言葉を待つが、彼は「ふぅん」と呟いただけで、そのまま黙りこんでしまった。
鏡張りの部屋の中で、沈黙が鏡の数だけ増殖していく。
そんな不気味な沈黙に耐えきれず、口を開きかけた時、それより早く蓮さんが言葉を発した。
「俺の嫌いなものトップスリーって何だと思う?」
こちらを見向きもせずに、膝の上に肘を吐いて訊いてきた。
脈絡のない質問に首を傾げながらも、少し考えて答えた。
「えっと、そうですね……。うーん、実はお酒が嫌いとかですか?」
僕の答えに蓮さんはフッと鼻先で笑った。
そして相変わらずこちらには目を向けず、前の壁の鏡に映る自分に視線を据えたまま続けた。
「まず一つめは、ホストなんかにはまる馬鹿女」
「え!」
思いもよらない答えに驚く。
ホストは言わずもがな、彼らに会うために来てくれる女性たちのおかげで成り立っている。
にも関わらずナンバーワンホストである彼がそんな彼女たちに嫌悪を示すのはなんだか胸がもやもやした。
「二つめは、そんな馬鹿女たちに媚びて金を巻き上げるクソホスト」
「ええ!」
ふたつめの答えに僕はさらに驚いた。
ナンバーワンホストの口からまさか自分の仕事を蔑む言葉が出てくるとは思いもしなかった。
「そして三つめは……自分の尻も拭えないいい歳したおっさん」
「え……」
それってつまり……――。
自分の中で答えを得るより先に、蓮さんが言葉を紡いだ。
「つまり、俺さ、」
蓮さんが、にっこりと笑った。
女性を魅了してやまない綺麗な笑みに、男でもドキッとする。
「あんたのことが……――、大っ嫌いなんだ」
嫌いという言葉が結びつかない程の爽やかな笑みで持って彼は言い切った。
しかし顔を顰めるよりも、その笑みは饒舌に僕への嫌悪をあますことなく伝えていた。
突然の大嫌い発言に茫然とする僕に、彼は顔を歪めて続けた。
「あんたみたいな、いい歳してちゃんとしていない男って、すっげぇイライラする。オーナーの知り合いらしいけど、いい歳してコネで入社とか恥ずかしくないわけ?」
ハッと鼻で笑われたが、彼の言うことは事実であり情けないことに返す言葉もなかった。
「しかも客は取れそうにないし、足は引っ張るし、店にメリットゼロじゃん。あんたみたいな売れねぇホストの給料って、俺らの稼ぎから出るんだよな。そう思うとさ、やる気がすっげぇ下がるんだわ」
苛立ちを含んだ大きな溜め息をつくと、僕に向き直った。
そして冷たく鋭い目で僕をしっかり見て言った。
「もうとっくに自分でも分かってるだろうけど、あんたホスト向いてねぇよ。……辞めれば? オーナーの知り合いだから誰も言わないんだろうけど、みんないい迷惑してるんだよ。あんたみたいな無能がいると」
嫌悪と蔑みを露わにした瞳と声、そして的確な言葉は、容赦なく心臓を抉った。
彼は僕の反応を窺うようにじっとこちらを見詰めている。
その冷たい視線に射すくめられて僕は呼吸すらまともにできないでいた。
「ごめんね~、待たせちゃって」
「いいよ、気にしないで」
すっかり機嫌がよくなった愛果さんが戻って来ると、蓮さんはすぐに甘い表情を浮かべて立ち上がった。
「あのおじさんと何話した? ジェネレーションギャップってやつ感じたんじゃないの?」
「いや別に。人生の先輩に、ホストの先輩としていろいろ教えてあげただけだよ」
「え~! 蓮、超やさしいじゃん」
VIPルームを去って行く蓮さんたちの会話が遠のいていく。
早く追いかけてお見送りをしないと。
あとこの部屋の片づけをしないと。
それから……――。
やらなければならないことが頭の中でせっついてくるのに、体は全く動かなかった。
床に広がるお酒の水たまりをただ茫然と見詰めることしかできなかった。
間抜けに感嘆の溜め息を零す僕に蓮さんが鋭い視線を送ってきた。
そこで自分の粗相があんな事態を招いてしまったことをようやく思い出し、慌てて頭を下げた。
「あ、あのご迷惑お掛けしてすみませんでした!」
「……あんたさ、オーナーの知り合いって本当?」
僕の謝罪を無視して、蓮さんが問い掛けてくる。
こちらに寄越される視線と声の冷たさに、背筋に鳥肌が走った。
「あ、はい、そうですけど……」
それがどうしたのだろうかと不思議に思いながら次の彼の言葉を待つが、彼は「ふぅん」と呟いただけで、そのまま黙りこんでしまった。
鏡張りの部屋の中で、沈黙が鏡の数だけ増殖していく。
そんな不気味な沈黙に耐えきれず、口を開きかけた時、それより早く蓮さんが言葉を発した。
「俺の嫌いなものトップスリーって何だと思う?」
こちらを見向きもせずに、膝の上に肘を吐いて訊いてきた。
脈絡のない質問に首を傾げながらも、少し考えて答えた。
「えっと、そうですね……。うーん、実はお酒が嫌いとかですか?」
僕の答えに蓮さんはフッと鼻先で笑った。
そして相変わらずこちらには目を向けず、前の壁の鏡に映る自分に視線を据えたまま続けた。
「まず一つめは、ホストなんかにはまる馬鹿女」
「え!」
思いもよらない答えに驚く。
ホストは言わずもがな、彼らに会うために来てくれる女性たちのおかげで成り立っている。
にも関わらずナンバーワンホストである彼がそんな彼女たちに嫌悪を示すのはなんだか胸がもやもやした。
「二つめは、そんな馬鹿女たちに媚びて金を巻き上げるクソホスト」
「ええ!」
ふたつめの答えに僕はさらに驚いた。
ナンバーワンホストの口からまさか自分の仕事を蔑む言葉が出てくるとは思いもしなかった。
「そして三つめは……自分の尻も拭えないいい歳したおっさん」
「え……」
それってつまり……――。
自分の中で答えを得るより先に、蓮さんが言葉を紡いだ。
「つまり、俺さ、」
蓮さんが、にっこりと笑った。
女性を魅了してやまない綺麗な笑みに、男でもドキッとする。
「あんたのことが……――、大っ嫌いなんだ」
嫌いという言葉が結びつかない程の爽やかな笑みで持って彼は言い切った。
しかし顔を顰めるよりも、その笑みは饒舌に僕への嫌悪をあますことなく伝えていた。
突然の大嫌い発言に茫然とする僕に、彼は顔を歪めて続けた。
「あんたみたいな、いい歳してちゃんとしていない男って、すっげぇイライラする。オーナーの知り合いらしいけど、いい歳してコネで入社とか恥ずかしくないわけ?」
ハッと鼻で笑われたが、彼の言うことは事実であり情けないことに返す言葉もなかった。
「しかも客は取れそうにないし、足は引っ張るし、店にメリットゼロじゃん。あんたみたいな売れねぇホストの給料って、俺らの稼ぎから出るんだよな。そう思うとさ、やる気がすっげぇ下がるんだわ」
苛立ちを含んだ大きな溜め息をつくと、僕に向き直った。
そして冷たく鋭い目で僕をしっかり見て言った。
「もうとっくに自分でも分かってるだろうけど、あんたホスト向いてねぇよ。……辞めれば? オーナーの知り合いだから誰も言わないんだろうけど、みんないい迷惑してるんだよ。あんたみたいな無能がいると」
嫌悪と蔑みを露わにした瞳と声、そして的確な言葉は、容赦なく心臓を抉った。
彼は僕の反応を窺うようにじっとこちらを見詰めている。
その冷たい視線に射すくめられて僕は呼吸すらまともにできないでいた。
「ごめんね~、待たせちゃって」
「いいよ、気にしないで」
すっかり機嫌がよくなった愛果さんが戻って来ると、蓮さんはすぐに甘い表情を浮かべて立ち上がった。
「あのおじさんと何話した? ジェネレーションギャップってやつ感じたんじゃないの?」
「いや別に。人生の先輩に、ホストの先輩としていろいろ教えてあげただけだよ」
「え~! 蓮、超やさしいじゃん」
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早く追いかけてお見送りをしないと。
あとこの部屋の片づけをしないと。
それから……――。
やらなければならないことが頭の中でせっついてくるのに、体は全く動かなかった。
床に広がるお酒の水たまりをただ茫然と見詰めることしかできなかった。
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