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第5章 35歳にして、愛について知る
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麻奈美さんと三十分くらい話していると、蓮さんがようやく店にやってきた。
同伴の女性と一緒にだ。
店の入り口の方へ何度も目を遣り、蓮さんがやって来るのを今か今かと待ちわびていた彼女には、辛いものだったに違いない。
蓮さんの登場に明るくなった表情が、隣の女性の存在に気づくと瞬く間に暗く沈んだ。
同伴で彼が遅くなることを知っていた身としては、ひどく申し訳ない気持ちになった。
「す、すみません。でもたぶんもう少しで来ると思いますので……」
罪悪感に押されて安易な慰めじみた謝罪が出てきたけれど、罪滅ぼしにもなりはしない。
彼女は僕の言葉にはっとしたように顔をこちらに向け、薄く笑みを浮かべた。
その寂しげな笑みが、いっそう僕の罪悪感に拍車を掛けた。
「ごめんんさい。気にしないでください。彼から電話で予約した時に同伴で遅くなることは聞いていましたから。それでも無理矢理予約を入れたのは私だから」
「……蓮さんのことがすごく好きなんですね」
麻奈美さんの健気な言葉に僕は思わず呟いた。
彼女は僕の言葉に目を丸くしたが、その後すぐに恥ずかしそうに笑った。
「ふふ、そうですね、蓮のことが好きです。馬鹿みたいですよね、ホストとお客って関係なのに。……でも好きなんです。初めて田舎からこんな都会に出てきて、仕事も何も上手くいかない私を蓮は優しく接してくれました。今でもそうです。いつも私のくだらない愚痴を聞いてくれて励ましてくれます。蓮の他のお客さんみたいにお金は持っていないけど、ちゃんと私のために時間をとってくれるんです。……でも、やっぱり蓮は私みたいなお金のない地味な女より、ああいう綺麗でお金持ちの女の人を相手にした方がいいんでしょうね」
彼女は悲しげに言って、蓮さんが連れの女性と消えていったVIPルームの方へ視線を遣った。
その視線に切なさで胸が締め付けられる思いだった。
どうにかして、少しでも彼女を励ましたい。
そう思った。
もちろん蓮さん以上に彼女を励ますことのできる存在はない。
でも、ほんの少しでいいからさっき僕を励ましてくれた彼女に恩返ししたい。
僕は口を開いた。
「そんなことないですよっ」
彼女は蓮さんの後を追っていた視線をこちらに戻して僕を見た。
僕はまっすぐ彼女の瞳を見据えた。
「蓮さんはちゃんと麻奈美さんのこと好きですよ! そうじゃないときっとこんな風に麻奈美さんの希望を聞き入れて同伴のすぐ後に予約なんていれないでしょうし、もしお金持ちの女の人が好きならそもそも予約も入れさせないかもしれないですよ。それに他のホストの子が言っていました。麻奈美さんは初めて蓮さんを指名したお客さんできっと特別なんだろうって」
「特別……」
麻奈美さんは割れ物を扱うような繊細さで僕の言葉を呟いた。
「少しの間麻奈美さんと話させてもらいましたけど、僕、なんで蓮さんが麻奈美さんを大事にするか分かりました。きっと麻奈美さんの優しさに蓮さんも励まされているんですよ。だから他のお客様の予約が入っていても、麻奈美さんの予約も入れたんですよ」
きっとそうに違いない。
蓮さんの気持ちを代弁するように僕が力説すると、彼女は最初目を開いて固まっていたが、次第にぽろぽろと涙をこぼし始めた。
僕は慌てて彼女にハンカチを差し出した。
「す、すみません、僕、何か悪いこといいましたか?」
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