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第5章 35歳にして、愛について知る
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来店された麻奈美さんは、龍君たちに聞いた通り、物静かな雰囲気に包まれた女の子だった。
「あ、はじめまして。コ、コウと言います。今日は蓮さんが少し遅れるのでそれまでご一緒させて頂いますね」
挨拶をして僕は彼女の横に腰を下ろした。
自分には源氏名が分不相応な気がして恥ずかしさもあり、つい噛んでしまった。
しかし麻奈美さんはそんな僕を冷ややかな目で見ることもなく、優しい笑みで答えてくれた。
「麻奈美です。よろしくお願いします」
彼女が軽く会釈をすると、染めたことのなさそうなきれいな黒髪が鎖骨のあたりで揺れた。
白いふわふわのとっくりセーターに栗色の膝丈のスカート。
化粧も濃くなく、清楚な印象を与える子だ。
ホストクラブに来られる女性は派手な服装や化粧の方が多いので、龍君がホストクラブに来る子にしては珍しい、と言っていたのも頷ける。
派手な女性にどうしても萎縮してしまうので、彼女の大人しそうな雰囲気に、少しほっとした。
彼女の顔を見ながらふと思う。
年齢はいくつぐらいだろうか?
幼い顔立ちから二十代前半くらいに見える。
そんな若い子がホストクラブに来れるなんて収入のいい仕事に就いているのかもしれない。
年齢や職業を訊くのはバクダンと言われるタブー行為なので訊けないので、まずは当たり障りのない服や持ち物を褒めるところから入る。
右京君からこれが一番間違いないと教わった。
「あ、あの、服似合っていますね! 特に白いとっくりのセーターなんて清楚な雰囲気ですごく似合っています」
「とっくり……?」
麻奈美さんは僕の言葉に目を丸くしたが、次には笑い声を吹き出した。
何も面白いことを言ったつもりはなかったので、突然笑いだした彼女に僕はあたふたした。
「あ、あの、僕、何か変なこと言いました?」
「ふふっふ、いえ別に変ではないんですけど、とっくりってもしかしてこのハイネックのことですか?」
麻奈美さんがセーターの襟の部分を引っ張りながら訊いてきた。
「あ、そう! それそれ! それです。今の若い子ははいねっくって言うんですね。すみません、僕若い子のファッションに疎くて……」
「ふふふ、謝らなくていいですよ。すごく面白かったです。それにしても、とっくりなんて言葉が出るなんてコウさんっておいくつなんですか?」
「えっと、三十五です……」
「三十五!? 三十五歳でホストをされてるなんてすごいですね」
麻奈美さんは僕の年齢に目を見開きながら、感心したふうにそう言ってくれた。
もちろんその「すごい」が尊敬などの意味を含んでいるわけはなかったが、馬鹿にするような響きもなかった。
「ははは、この歳でホストなんてお恥ずかしい限りです」
「そんなことありませんよ。コウさんみたいな穏やかな大人のホストっていた方がいいと思いますよ。正直、派手な若いイケメンってちょっと萎縮しちゃいますし」
こっりと僕に耳打ちすると、彼女は肩をすくめて笑った。
三十五歳でホストという自分には不相応な仕事をしていることに後ろめたさと劣等感を覚えている僕には、その言葉と笑みはたとえ嘘だとしても嬉しいものだった。
「あはは、そう言って頂いてありがとうございます。お客様に励ましてもらっているなんて、どっちがお客か分からないですね」
苦笑しながら頭を掻く僕に、麻奈美さんは「楽しければどっちでもいいですよ」と柔らかく微笑んでくれた。
め、女神様……!
麻奈美さんのMは聖母マリアのMじゃないのかと一瞬本気で思ってしまったのも無理はない。
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