35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

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第5章 35歳にして、愛について知る

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「何が言いたいんだよ、テメェは……」
「え~、はっきり言わないと分からないのぉ。だからぁ……」

気だるげなため息を吐いたと同時に、ガンっ! とドア横のロッカーが歪んだ。
へこんだロッカーの側面には桜季さんの拳が強く握られていた。
拳の隙間からぽたぽたとキウイの果汁が落ちている。

「自分の甘さが招いたことを青りんごのせいにしてんじゃねぇよ。さっさとテメェの失敗はテメェで拭いやがれ」

笑みを消した桜季さんに僕も蓮さんも息をのんだ。
しかしすぐに桜季さんはまたいつもの穏やかな笑みを浮かべた。

「まぁ、ここで寝るのはぶっちゃけどうでもいいんだけどさぁ、青りんごをいじめるのだけはやめてねぇってこと~。それじゃあ、青りんごは向こうでおれとキウイ食べよぉ」

そう言うと、まだ果汁の滴る右手にキウイを持ちかえて、桜季さんは僕の手を引いた。

「あ、レンコンはこれ食べていいよぉ」

潰れていないキウイを蓮さんに投げて、桜季さんはドアを閉めた。
桜季さんが僕を引いて歩みを進めてしばらくすると、ドアの向こうで何かを殴る鈍い音と舌打ちのような小さくけれど怒りが凝縮された声が響いた。

「あはは怒ってる怒ってる~。さてと、青りんごはおれとおいしいキウイを食べよぉ」

歌い出しそうな声で言いながら桜季さんが厨房へ向かう。
けれど僕は歩みを止めた。
桜季さんも立ち止まって、僕の方を振り返った。

「どうしたのぉ? キウイ嫌い?」
「いえ、キウイは好きです。でも、今は食欲がなくて……」

僕はお腹をおさえて俯いた。
お腹の中はもやもやとした気持ちでいっぱいで、食べ物を受け入れられる余裕などなかった。
僕の心の中を察したのか、桜季さんはスッと僕の手を離した。

「そっかぁ、それなら仕方ないねぇ。今日は早く帰ってぐっすり寝なよぉ」

桜季さんはぐしゃぐしゃとと僕の頭を撫でた。
僕の暗い気持ちを掻き消そうとするような、優しい荒っぽさがそこにはあった。

「……はい、ありがとうございます」

僕は頭を下げてから、パラディゾを後にした。
一度、振り返った時、桜季さんは優しげに微笑んで手を振ってくれていた。
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