80 / 228
第5章 35歳にして、愛について知る
22
しおりを挟む****
「それじゃあ、行ってくるね。留守はよろしくね」
晴仁は靴を履き終えると、くるりと僕の方を振り返って言った。
「うん、留守は任せて。出張がんばってね」
「ありがとう。でも最近物騒だから戸締まりはちゃんとするんだよ。それからインターホンが鳴っても絶対出ないこと。それから……」
「だ、大丈夫だよ。子供の留守番じゃあるまいし」
子供に留守を頼む母親のような口振りに僕は苦笑した。
「でもこの間、変なセールスマンに泣きつかれて追い返せないでいたし……」
「う……」
それを言われては何も言い返せない。
この間、セールスマンを玄関先まで上げてしまい、話を聞き込んでしまったのだ。
彼は病気の娘さんがいて高額な手術代が必要なこと、今月の売り上げが悪かったらクビになってしまうことなど、涙を流しながら切々と話した。
何かしてあげたい気持ちは山々だったが、彼の売る商品は高く、簡単に買ってあげられるようなものではなかった。
けれど、彼の事情を聞けば聞くほど無碍に追い返すのは申し訳ない気がして、どうすべきか思いあぐねていた。
そこに晴仁が帰って来て丁寧に断ると、セールスマンは暴言を吐き捨てて去って行った。
そこでようやく彼の話が嘘だということを知ったのだ。
晴仁が帰ってくるのがあと少し遅かったら、僕は商品を買っていたかもしれない。
「あのことは反省しているよ……。本当にもう絶対誰が来ても開けないから」
「はは、まぁでもそこがこーすけのいいところでもあるけどね」
しゅんと縮こまって反省すると、晴仁が笑って優しく肩を叩いた。
「でも本当に物騒だから誰彼構わず中に入れちゃいけないよ」
「大丈夫だよ。この間の一件で学習したしね」
もう同じ轍は踏まないぞ!
胸をドンと叩いて大丈夫アピールをすると、晴仁は穏やかな笑みを深めた。
「それなら大丈夫そうだね。お土産は茶団子でよかったよね?」
「うん。あ、お金を渡してなかったね。ちょっと待ってて。お財布取ってくるから」
「あはは、いいよいいよ。お土産なのにこーすけがお金払ったらお土産じゃなくなるよ」
財布を取りに居間へ戻ろうとする僕の手を掴んで、晴仁は首を横に振った。
「でも何だか申し訳ないなぁ」
「気にしないで。留守を守ってくれるお礼だよ」
いや、むしろ僕が家にいさせてもらってるお礼をしなきゃいけないと思うのだけど……。
なかなか首を縦に振らないでいると、晴仁が僕の耳元に顔を寄せて言った。
「こーすけ明後日休みだったよね? それなら僕が帰って来た時にご飯作って出迎えてよ、ね?」
にっこりと微笑む晴仁に感心する。
晴仁は相手に気を遣わせない気遣いが上手だ。
僕なんかよりよっぽどホストに向いているのかもしれない。
「うん、じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうよ。晴仁が好きなもの作って待ってるね」
「あはは、楽しみだなぁ。それを励みに出張がんばるよ。それじゃあいってきます」
「いってらっしゃい!」
手を振って見送った後、明後日は何の料理を作ろうかなと考えながら僕は夜の仕事のため眠りについた。
31
あなたにおすすめの小説
転生したが壁になりたい。
むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。
ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。
しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。
今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった!
目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!?
俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!?
「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」
人気アイドルが義理の兄になりまして
三栖やよい
BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?
彼はオレを推しているらしい
まと
BL
クラスのイケメン男子が、なぜか平凡男子のオレに視線を向けてくる。
どうせ絶対に嫌われているのだと思っていたんだけど...?
きっかけは突然の雨。
ほのぼのした世界観が書きたくて。
4話で完結です(執筆済み)
需要がありそうでしたら続編も書いていこうかなと思っておいます(*^^*)
もし良ければコメントお待ちしております。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
平々凡々な高校生、茂部正人«もぶまさと»にはひとつの悩みがある。
それは、親友である八乙女楓真«やおとめふうま»の兄と弟から、尋常でない敵意を向けられることであった。ブラコンである彼らは、大切な彼と仲良くしている茂部を警戒しているのだ──そう考える茂部は悩みつつも、楓真と仲を深めていく。
友達関係を続けるため、たまに折れそうにもなるけど圧には負けない!!頑張れ、茂部!!
なお、兄弟は三人とも好意を茂部に向けているものとする。
7/28
一度完結しました。小ネタなど書けたら追加していきたいと思います。
【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる