35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
81 / 228
第5章 35歳にして、愛について知る

23

しおりを挟む

****

「桜季さんは最近誰かの帰りを待つことありましたか?」

晴仁が出張に行って二日目の夜。
皿洗いをしながら、隣に立つ桜季さんに問いかけた。
桜季さんは僕の質問に不思議そうに首を傾げた。

「おれ一人暮らしだからそういうことはないなぁ」

僕が洗ったお皿を乾燥機に仕舞いながら桜季さんが答えた。

「急にどうしたのぉ? あ! もしかしておれと一緒に住んでおれの帰りを待っていたいのぉ? それだったら大歓迎!」
「いえいえそういうことではなくて……」
「お風呂にしますか? ご飯にしますか? それとも僕にしますか? なんて野暮なことはきかないでねぇ。おれは青りんごとお風呂に入った後に、青りんごにご飯をあーんって食べさせてもらって、それから青りんごをいただく流れ一択だからぁ」

そう言ってちょんと僕の鼻の頭に人差し指をあてる桜季さんに、僕はこの冗談にどう反応していいか分からずただ曖昧に笑った。
僕みたいな冴えないおじさんが、新妻のような甘い台詞を口にするなんて冗談でも笑えない。

「あはは、僕がそんなこと言ったらコントみたいですね。僕が言いたかったのは、人を待つって寂しいな、と思って……」
「春巻きさん留守なのぉ?」
「はい、出張で明日までいないんです。いつも家にいるのが当たり前だからいないのがなんだか寂しくて……」

もともと広い部屋だけど、ひとりだともっと広く感じた。
広い空間にはただただ静けさが満ちていて、僕が動かなければ冷蔵庫や蛍光灯の微かな電子音しか聞こえないほどだ。
明日帰ってくると分かっていても寂しいし、待ち遠しい。
そんな気持ちの中、ふと蓮さんを待つ真奈美さんのイメージが脳裏をかすめて、胸が重くなった。
いつか帰って来るか分かっていても寂しい気持ちになるのだから、いつ帰って来るか分からない相手を待つのはもっともっと寂しいだろう。
もしかしたら帰って来ないかもしれないという不安と、今日は帰ってくるかもしないという期待に挟まれて押しつぶされそうな彼女の心情を想像したら胸が締め付けられる思いだった。

「どうしたのぉ?」

黙り込んだ僕の顔を桜季さんがのぞき込んできた。
僕はハッとして首を振った。

「だ、大丈夫です。何でもないです。ただやっぱり一人は寂しいなと思って。特に起きた時に隣に誰もいないと大きいベッドだから余計に寂しくて……」
「え! 青りんご、春巻きさんと一緒に寝てるのぉ?」

しまった!
目を丸くする桜季さんに、僕は自分の失言に気づき慌てて口を塞いだ。
三十五にもなって友人と同じベッドに寝ているなんて引かれてしまうかもしれない。

「あ、いや、一緒に寝ているといえば寝ているんだけど、あの、お金が貯まったらちゃんと僕用のベッドを買うつもりで、それまで一時的に寝させてもらっているだけで……」

弁解というにはあまりにまごまごとした言い訳を連ねる僕を「ふぅん」と言いながら桜季さんが目を細めて見ている。
う……、絶対言い訳くさいって思われてる……。

「青りんごって大胆だねぇ。ベッドでひとりが寂しいなんてぇ」
「え?」
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

転生したが壁になりたい。

むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。 ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。 しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。 今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった! 目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!? 俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!? 「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」

人気アイドルが義理の兄になりまして

三栖やよい
BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

彼はオレを推しているらしい

まと
BL
クラスのイケメン男子が、なぜか平凡男子のオレに視線を向けてくる。 どうせ絶対に嫌われているのだと思っていたんだけど...? きっかけは突然の雨。 ほのぼのした世界観が書きたくて。 4話で完結です(執筆済み) 需要がありそうでしたら続編も書いていこうかなと思っておいます(*^^*) もし良ければコメントお待ちしております。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...