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21・アンデット討伐部隊に参加しよう!

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「オリヴィア様、起きておいでですか?」

「アルフ?入って?どうしたの?」

あまりの扉のたたき様に驚いて、すぐにベットサイドに置いてあったベールを被り、扉を開けると転がり込む様にアルフレッドが部屋へ入ってきた。手には封筒を握りしめていた。

「森の外れにある洞窟近くの遺跡にアンデットの集団が現れたそうです。旦那様とオリヴィア様に討伐せよと…皇帝から緊急の勅命が届きました!!」

「なんてこと、急いで準備をしなくては…」

「その必要はない」

まだ寝巻きのままだった私は慌てて支度をしようとルビィをベルで呼ぶ。冒険者として討伐に行く時の服をクローゼットから出そうと取手に手をかけた瞬間に、アルフを押し除けてすでに金色の鎧を着たヴィクトール卿が部屋へと入ってきた。

「力のないものが討伐に出れば必ず命を落とす。お前が来る必要はない」

「いいえ。いいえ、ヴィクトール卿、私も行きます」

「お前の心配をしてるんじゃない。お前を守るために何人死ぬかな?戦いはお遊びじゃないんだ。邪魔なんだよ。癒しの力もないくせに、何ができる?幸いお前はベールを被ったままだ。アリーナがベールを被って代わりについてきてくれるそうだ。」

ルビィが一歩前にでるが、片手で大丈夫、と合図を出し制する。

「…アリーナさんは本当に癒しの力を持っているの?もし持ってなかったら?助かる人も助からないわ!私を連れて行って!!」

パン!!

一瞬何が起こったのか理解できなかったが、じわじわと頬が熱くなり、次第に痛みを感じる。ベールがあったため、衝撃が和らぎ強い痛みはないが、顔を打たれると言う初めての経験に心が揺れる。

『何してんだ!!!』

ルビィが怒りを露わにして私を背中に隠す。殺気が漏れ出ているのか、蜃気楼の様なモヤが足元から轟々と溢れ出ている。

『てめぇ、何したかわかってんのか!!オリヴィアに手を出してタダで済むと思うな!』

「なんだと?俺に逆らい公爵夫人であるアリーナを侮辱したそちらが悪いんだろう。ふん。子爵家のメイドか、さすが、下品だな。」

『燃やしてやる。何も残らないほどに燃えろ。地獄の炎インフェルノ

ルビィの足元に強烈な赤い光の魔法陣が発動する。
ブワッと熱い蒸気が天井まで一気にあがりる。

「だめよ!ルビィ、やめて!!わかった。私は行かないからはやく。ヴィクトール卿、早く出て行って!!」

「チッ」

と舌打ちをすると、踵を返してヴィクトール卿は部屋から出て行った。アルフレッドは深々とお辞儀をしてヴィクトール卿を追いかけていく。
瞳孔が開き切ったルビィは、なおも鎮まらない怒りの炎を燻らせていた。


「お願い、手を出さないで。貴方の手を汚すほどのことじゃ無いわ。」

『オリヴィア、残念ながらそのお願いは聞けない。私の一番に手を出したんだからあの男には罰を下すわ。それが命で償うのか、運命で償うのかは追って決めさせてもらうわ。絶対に許さないわ』

ギチギチと拳から骨が軋む音が響く。赤黒い液体がポタポタと絨毯に流れ落ちる様をみて、咄嗟にルビィの拳を手を包み魔力を流し込むとフッと握っていた力が弱まる。

『やぁね。泣かないで。大丈夫よ怖かったの?』

「争いが起こるのは怖いの。誰かが怒っていると、怖くて仕方ない。弱くてごめんね」

『オリヴィア、多分ギルドもこの討伐に出てると思うわ、一回我が家に帰りましょ。ね。大丈夫よ、もう怒ってないから』

「ありがとう。そうね。メソメソしている場合じゃ無いわ。早く帰ろう。」

クローゼットから服を取り出し、急いで着替える。ベールを床に捨て、バルコニーに出ると後ろから、「オリヴィア様!!」と呼び止められる。

「ベティ、アルフ、ごめんね。私が行けば何人もの人を助けられるの。指を咥えて待っているのはごめんだわ。うまく誤魔化しておいて」

目の前で竜に変わるルビィをみて、息を呑んだ二人は覚悟を決めた様に頷く。

「いってらっしゃいませ。必ず、無事に帰ってきてくださいね」

「待っています。オリヴィア様」

「ありがとう」

暖かく送り出してくれた二人に微笑みを返し、、ルビィにまたがるといつもより低めにバルコニーから飛び立つ。ちょうどツーデンの正門から部隊が出発しているところだった。10騎程の馬が先導し、中程に白いクーペが一台見える、そこにアリーナが乗っているのだろう。
護衛だろうか、3騎の馬が周りを囲んでいる。

力のないものを守るために力のあるものが死ぬ。先程のヴィクトール卿の言葉を思い出し唇を噛み締める。彼らは、生きて帰れるだろうかと、心の中で心配になった。

その時、わざとルビィが咆哮を上げる。
軍隊の者たちが一斉に空を見上げる。赤い竜が目の前をものすごい速さで通り過ぎるのを呆気に取られて見ていた。一番先頭にいたヴィクトール卿と目が合った気がした。あの美しい、金色の目を見開いてこちらを見ていた…そんな気がした。
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