愛のない結婚を後悔しても遅い 離縁を望まれたスパダリ令嬢、溺愛の限りを尽くしたら孤独な公爵令息に懐かれすぎています

空橋彩

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王家の秘密

77.シリル視点

「ね、ねぇ、勝手に動いていいのかな?殿下に知らせた方が良いんじゃないかな?」

馬車の荷台に積み込まれた僕は隣にいるカイルにそっと近寄り耳打ちをする。馬を操る業者に聞こえない様にかなり小さな声でしゃべった。

「大丈夫だ、サフィーが師匠に手紙を届けているはずだ。」

「わたくしが目印を落としてきているから、お姉様とアレクは直に追いついてくるはずよ。」

少し離れた場所に座っているはずのスイさんも反応した。
かなり、小さな声だったと思ったんだけど、もしかして行者にまで聞こえているのかもしれない、と僕が顔を青くしたのをみてスイさんがニコッと笑った。

「大丈夫よ、わたくし少し耳がいいんですの。お姉様よりもいいのよ。」

「そ、そうなんだ。よかった。この後はどうなるのかな?もしかして…危ないところに連れて行かれるのかな?」

不安になって僕が質問すると、スイさんとカイルは僕のそばに移動してきた。

「“危ない所”ね。どうかしら。相手の目的が定かではないから、最終目的地に見当がつかないわね。大きな目的地はわかるのだけど。」

スイさんが、小さなため息をついて呟いた。その、つぶやきを聞いたカイルがうなずいて応える。

「関所を越えられると厄介だ、それまでに師匠達が間に合ってくれるといいんだけど」

カイルとスイさんが真剣に話している。これは、作戦会議、と言うものかもしれない。僕は急な展開に緊張を隠すことができなくて、ギュッと目をつぶる。
今までたくさん読んできた物語でも、ピンチの場面が多く出てきた。読んでいるだけなら次はどうなるんだろうとワクワクしたが、実際、自分がその場に身を置くとワクワクする暇はなかった。

『必ず助けに行く』

急に、耳元でシーラの声がした気がした。慌てて目を開けると、スイさんがこちらを見て笑っていた。

「似てましたか? わたくし、声真似も得意ですの。大丈夫ですわ。お姉様が必ず守ってくださるから。力を抜いて、貴方は貴方の役目を果たすのよ。シリル・トラティリア」

そう言われて、心臓の音が少し落ち着いた気がした。そんな話をしていると、馬車がガタンと少し跳ねて止まった。

荷台の入り口がほんの少し開いて、外から光が差し込んだ。店で僕たちに声をかけてきた男が、顔を覗かせた。

「これから、ブライトンの領地に入るよ。オレがいいと言うまでは、そこにある木箱の影に隠れてじっとしているんだよ。」

王都を出てから、まだ数日しか経っていないのに、もう辺境に辿り着いたらしい。夜通し馬車を走らせていたからだろう。
僕はこんなにピンチなのに、まだ見たことのないシーラが生まれ育った土地に足を踏み入れられる事に、喜びを感じてしまった。

「あの、少し外を見たいんですけど。」

考える間もなく、僕の口からそんな言葉が飛び出した。

「なんだ?こんな辺境の土地に興味があるのか?岩ばかりで、若い女の子が喜びそうなところはどこもねぇぞ?」

その言葉を聞いたスイさんがギッと男を睨みつける。ほんの少し、怒ったような気がした。

「へ…辺境には来たことがないから、見てみたかったの。ダメならいいんです…」

「ずっと、こんな狭い荷台の中じゃぁ、疲れちゃうわ!少しは手足を伸ばさせてくれない?!」

僕が余計なことを言ってしまったばかりに、と反省して発言を誤魔化そうとすると、スイさんが僕の言葉を遮った。

「うーん。まぁ、確かにずっとこの中じゃぁなぁ。よし、町を散策してみるか?って言っても要塞の町だ、綺麗なドレスや宝石みたいなものはないぜ?」

「ちっ」

薄暗い荷台の中を、キョロキョロと見回した後男はそう言って大きく入り口の布を開けた。

目の前にそびえ立つ、黒い煉瓦や石が積み上がった門。長く横に伸びる重々しい擁壁。僕は、目に飛び込んできた迫力のある景色に圧倒されてつい、「わぁ!」と声を出してしまった。

「この関所の向こうにある、町を越えたらブライトンのお膝元だ。鬼のような一族が暮らすドデカい要塞があるんだ。」

それは、シーラの家なのか?目を輝かせる僕をみて、怪しんだ男が少し、眉をひそめた。

「興味があるのか?お前、金持ちになりたいんだろ?」

「あっ!え、ええ、そう、です!そうよ!」

「こんなところで止まってたら、怪しまれる、行きましょう。」

アタフタする僕を、ぐいっと後ろに下がらせてカイルが男に向かってそう言うと、「ああ、そうだな」と言って男は歩みを進めた。
カイルはこっそり振り返り、僕に耳打ちをしてきた。

「お前、バレたら、どうするんだよ気をつけてくれよ。」

「え?」

「ブライトンを…愚弄するとは…あの男!!!」

カイルの一言に振り返ると、全身に怒りの炎をまとったスイさんが居た。

「さぁ、行こう。一応俺の後ろについてきて。」

カイルがスイさんを隠すように前へ出る。わなわなと震えながら怒るスイさんをなんとかなだめながら、辺境の地へ足を踏み入れた。
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