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王家の秘密
78.シリル視点
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「王都と違って、石造の家が多いんだね....」
カイルの後ろに隠れて、僕はスイさんにこっそりと話しかける。
「ここは、ブライトン邸の一つ前の関所、エルセの町よ。もし、ブライトンが突破されたら一番目に戦場になるところですわ。なるべく頑丈な建物で町を作ってますの。」
王都と違って、辺境は本当に戦いと隣り合わせなんだ。シーラはそんなところで育って、国のために戦っていたんだ。僕の知らないシーラが町の中にいるようでなんだか胸がギュッと苦しくなった。
「ほら、お前らが好きな美しい物はなんもねぇだろ?パッとしない町なのさ、ここは。さぁ、馬車に戻るぞ。」
町の中心であろう広場に着くと、男が振り返って大げさに両手を広げたかとおもえば、無遠慮にそう言い放った。
「お次はブライトンの要塞だ。あそこはこえーからな。大人しく馬車に乗ってろよ」
怒りで黙りこくったスイさんが、つまらなくて不機嫌なのだと思ったのか、ヘラヘラと笑いながら男はスイさんの肩をポンポンと叩いた。
「気にするな。奴がこの国にいい思いを持ってないのはもう分かっているだろう」
怒りで震えるスイさんにカイルがそっと囁いた。「分かってますわ」と男に触れられた肩をパパッと右手で払いながらスイさんは泣きそうな顔をしていた。
「僕はつまらないなんて思わない。重厚感があってとても素敵な町並みだし、露店もしっかりとしている。」
僕の言葉を聞いたスイさんは、ほんの少しだけ、顔から力が抜けたような気がした。
「ユリアナ王国の最後の関所は丸ごとブライトン邸なのです。そこにたくさんの兵士たちが寝泊まりしていますわ。そして、みんなこの町で買い物をしたりして非番の日を楽しみますの。そんな兵士たちのために、この町の人たちは精一杯商いを整えてくれているんですの。自慢の町なのですわ」
スイさんの言葉を聞いてから周りを見渡せば確かに、武器や道具を扱う大きな店や、動きやすそうな衣服の店、それに、色とりどりの花を扱う店にツヤツヤの果物が積まれた青果店、暮らしに必要なお店がしっかり揃っている。
店構えも立派で、並んでいる品物も良いものが多いように見える。
「そうなんですね。だから、どこか温かい町並みなんですね」
「それをあの男!!許せない!」
まだ、少し怒っているらしいスイさんは語尾が強めだった。先頭の男にばれてしまわないかハラハラした。
「それにしても、丸ごとブライトン邸の関所か、想像ができないけど…早く見たいな」
「王宮なんかよりもずっと大きいですわよ。見上げすぎて転ばないようにお気をつけて」
「そうなんだ、楽しみだな。無敵の要塞って感じだね!」
「そうよ。無敵の要塞を支えるこの町は、素晴らしい町なのよ!行商人が多くきた時なんかは、広場で市が開かれるのよ」
スイさんは優しく笑って噴水広場のほうに視線を向けた。
その時、ふわっと花の香りがして、僕はつい花屋の前で足を止めてしまった。
「おい、あちらに行けば花なんかよりももっと良いものを貢いでもらえるんだ。そんな物欲しそうに見るな」
男が足を止めた僕を気にして戻ってきた。
その、「花なんかより」の言葉が気になりつい言い返してしまう。
「花なんかじゃないよ、僕はプレゼントされれば嬉しいよ。素晴らしいプレゼントだよ」
「僕だあ?」
しまった、と思って慌てて口を押さえるが、出てきた言葉が口の中に戻るはずもなく、先ほどまでと口調を変えてしまった僕を怪しんで、男が顔を近寄らせて舐めるように僕の顔を見る。
「田舎者と思われるから、私と言いなさいと言ったでしょ」
すかさずスイさんがフォローに入った。それを聞いて納得したのか、男は僕から離れた。
「良いか、あちらにいったらお淑やかに美しく笑ってりゃあ金持ちになれるんだ。お前たち、金持ちになりたいんだろ?間違っても、僕なんて言うんじゃねぇぞ」
「ええ、もちろんよ!お金持ちになって悠々自適に暮らすのよ」
スイさんがわざと大きな声で言った。その声に驚いたのか、周りにいた町の人たちが僕たちに注目した。それに気付いた男は、「わかったから、そんな大声だすな」と言って浅くかぶっていた帽子を深くかぶり直した。
そう言えば、この町の人たちは“スイさん”が誰なのか知っているのではないか?そんな疑問が僕の心の中で生まれた。スイさんをチラッと見ると、心の中が読まれているのかなぜか勝ち誇ったような、自信満々な笑顔を向けられた。
「これでスイ・ブライトンがここにいた、と何人もの町人が記憶したわ。話しかけられる前に、急いで町を出ましょう。最後の関所、ブライトン邸へ行きますわよ」
カイルの後ろに隠れて、僕はスイさんにこっそりと話しかける。
「ここは、ブライトン邸の一つ前の関所、エルセの町よ。もし、ブライトンが突破されたら一番目に戦場になるところですわ。なるべく頑丈な建物で町を作ってますの。」
王都と違って、辺境は本当に戦いと隣り合わせなんだ。シーラはそんなところで育って、国のために戦っていたんだ。僕の知らないシーラが町の中にいるようでなんだか胸がギュッと苦しくなった。
「ほら、お前らが好きな美しい物はなんもねぇだろ?パッとしない町なのさ、ここは。さぁ、馬車に戻るぞ。」
町の中心であろう広場に着くと、男が振り返って大げさに両手を広げたかとおもえば、無遠慮にそう言い放った。
「お次はブライトンの要塞だ。あそこはこえーからな。大人しく馬車に乗ってろよ」
怒りで黙りこくったスイさんが、つまらなくて不機嫌なのだと思ったのか、ヘラヘラと笑いながら男はスイさんの肩をポンポンと叩いた。
「気にするな。奴がこの国にいい思いを持ってないのはもう分かっているだろう」
怒りで震えるスイさんにカイルがそっと囁いた。「分かってますわ」と男に触れられた肩をパパッと右手で払いながらスイさんは泣きそうな顔をしていた。
「僕はつまらないなんて思わない。重厚感があってとても素敵な町並みだし、露店もしっかりとしている。」
僕の言葉を聞いたスイさんは、ほんの少しだけ、顔から力が抜けたような気がした。
「ユリアナ王国の最後の関所は丸ごとブライトン邸なのです。そこにたくさんの兵士たちが寝泊まりしていますわ。そして、みんなこの町で買い物をしたりして非番の日を楽しみますの。そんな兵士たちのために、この町の人たちは精一杯商いを整えてくれているんですの。自慢の町なのですわ」
スイさんの言葉を聞いてから周りを見渡せば確かに、武器や道具を扱う大きな店や、動きやすそうな衣服の店、それに、色とりどりの花を扱う店にツヤツヤの果物が積まれた青果店、暮らしに必要なお店がしっかり揃っている。
店構えも立派で、並んでいる品物も良いものが多いように見える。
「そうなんですね。だから、どこか温かい町並みなんですね」
「それをあの男!!許せない!」
まだ、少し怒っているらしいスイさんは語尾が強めだった。先頭の男にばれてしまわないかハラハラした。
「それにしても、丸ごとブライトン邸の関所か、想像ができないけど…早く見たいな」
「王宮なんかよりもずっと大きいですわよ。見上げすぎて転ばないようにお気をつけて」
「そうなんだ、楽しみだな。無敵の要塞って感じだね!」
「そうよ。無敵の要塞を支えるこの町は、素晴らしい町なのよ!行商人が多くきた時なんかは、広場で市が開かれるのよ」
スイさんは優しく笑って噴水広場のほうに視線を向けた。
その時、ふわっと花の香りがして、僕はつい花屋の前で足を止めてしまった。
「おい、あちらに行けば花なんかよりももっと良いものを貢いでもらえるんだ。そんな物欲しそうに見るな」
男が足を止めた僕を気にして戻ってきた。
その、「花なんかより」の言葉が気になりつい言い返してしまう。
「花なんかじゃないよ、僕はプレゼントされれば嬉しいよ。素晴らしいプレゼントだよ」
「僕だあ?」
しまった、と思って慌てて口を押さえるが、出てきた言葉が口の中に戻るはずもなく、先ほどまでと口調を変えてしまった僕を怪しんで、男が顔を近寄らせて舐めるように僕の顔を見る。
「田舎者と思われるから、私と言いなさいと言ったでしょ」
すかさずスイさんがフォローに入った。それを聞いて納得したのか、男は僕から離れた。
「良いか、あちらにいったらお淑やかに美しく笑ってりゃあ金持ちになれるんだ。お前たち、金持ちになりたいんだろ?間違っても、僕なんて言うんじゃねぇぞ」
「ええ、もちろんよ!お金持ちになって悠々自適に暮らすのよ」
スイさんがわざと大きな声で言った。その声に驚いたのか、周りにいた町の人たちが僕たちに注目した。それに気付いた男は、「わかったから、そんな大声だすな」と言って浅くかぶっていた帽子を深くかぶり直した。
そう言えば、この町の人たちは“スイさん”が誰なのか知っているのではないか?そんな疑問が僕の心の中で生まれた。スイさんをチラッと見ると、心の中が読まれているのかなぜか勝ち誇ったような、自信満々な笑顔を向けられた。
「これでスイ・ブライトンがここにいた、と何人もの町人が記憶したわ。話しかけられる前に、急いで町を出ましょう。最後の関所、ブライトン邸へ行きますわよ」
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