愛のない結婚を後悔しても遅い

空橋彩

文字の大きさ
86 / 89
王家の秘密

78.シリル視点

しおりを挟む
「王都と違って、石造の家が多いんだね....」

カイルの後ろに隠れて、僕はスイさんにこっそりと話しかける。

「ここは、ブライトン邸の一つ前の関所、エルセの町よ。もし、ブライトンが突破されたら一番目に戦場になるところですわ。なるべく頑丈な建物で町を作ってますの。」

王都と違って、辺境は本当に戦いと隣り合わせなんだ。シーラはそんなところで育って、国のために戦っていたんだ。僕の知らないシーラが町の中にいるようでなんだか胸がギュッと苦しくなった。

「ほら、お前らが好きな美しい物はなんもねぇだろ?パッとしない町なのさ、ここは。さぁ、馬車に戻るぞ。」

町の中心であろう広場に着くと、男が振り返って大げさに両手を広げたかとおもえば、無遠慮にそう言い放った。

「お次はブライトンの要塞だ。あそこはこえーからな。大人しく馬車に乗ってろよ」

怒りで黙りこくったスイさんが、つまらなくて不機嫌なのだと思ったのか、ヘラヘラと笑いながら男はスイさんの肩をポンポンと叩いた。

「気にするな。奴がこの国にいい思いを持ってないのはもう分かっているだろう」

怒りで震えるスイさんにカイルがそっと囁いた。「分かってますわ」と男に触れられた肩をパパッと右手で払いながらスイさんは泣きそうな顔をしていた。

「僕はつまらないなんて思わない。重厚感があってとても素敵な町並みだし、露店もしっかりとしている。」

僕の言葉を聞いたスイさんは、ほんの少しだけ、顔から力が抜けたような気がした。

「ユリアナ王国の最後の関所は丸ごとブライトン邸なのです。そこにたくさんの兵士たちが寝泊まりしていますわ。そして、みんなこの町で買い物をしたりして非番の日を楽しみますの。そんな兵士たちのために、この町の人たちは精一杯商いを整えてくれているんですの。自慢の町なのですわ」

スイさんの言葉を聞いてから周りを見渡せば確かに、武器や道具を扱う大きな店や、動きやすそうな衣服の店、それに、色とりどりの花を扱う店にツヤツヤの果物が積まれた青果店、暮らしに必要なお店がしっかり揃っている。
店構えも立派で、並んでいる品物も良いものが多いように見える。

「そうなんですね。だから、どこか温かい町並みなんですね」

「それをあの男!!許せない!」

まだ、少し怒っているらしいスイさんは語尾が強めだった。先頭の男にばれてしまわないかハラハラした。

「それにしても、丸ごとブライトン邸の関所か、想像ができないけど…早く見たいな」

「王宮なんかよりもずっと大きいですわよ。見上げすぎて転ばないようにお気をつけて」

「そうなんだ、楽しみだな。無敵の要塞って感じだね!」

「そうよ。無敵の要塞を支えるこの町は、素晴らしい町なのよ!行商人が多くきた時なんかは、広場で市が開かれるのよ」

スイさんは優しく笑って噴水広場のほうに視線を向けた。
その時、ふわっと花の香りがして、僕はつい花屋の前で足を止めてしまった。

「おい、あちらに行けば花なんかよりももっと良いものを貢いでもらえるんだ。そんな物欲しそうに見るな」

男が足を止めた僕を気にして戻ってきた。
その、「花なんかより」の言葉が気になりつい言い返してしまう。

「花なんかじゃないよ、僕はプレゼントされれば嬉しいよ。素晴らしいプレゼントだよ」

「僕だあ?」

しまった、と思って慌てて口を押さえるが、出てきた言葉が口の中に戻るはずもなく、先ほどまでと口調を変えてしまった僕を怪しんで、男が顔を近寄らせて舐めるように僕の顔を見る。

「田舎者と思われるから、私と言いなさいと言ったでしょ」

すかさずスイさんがフォローに入った。それを聞いて納得したのか、男は僕から離れた。

「良いか、あちらにいったらお淑やかに美しく笑ってりゃあ金持ちになれるんだ。お前たち、金持ちになりたいんだろ?間違っても、僕なんて言うんじゃねぇぞ」

「ええ、もちろんよ!お金持ちになって悠々自適に暮らすのよ」

スイさんがわざと大きな声で言った。その声に驚いたのか、周りにいた町の人たちが僕たちに注目した。それに気付いた男は、「わかったから、そんな大声だすな」と言って浅くかぶっていた帽子を深くかぶり直した。

そう言えば、この町の人たちは“スイさん”が誰なのか知っているのではないか?そんな疑問が僕の心の中で生まれた。スイさんをチラッと見ると、心の中が読まれているのかなぜか勝ち誇ったような、自信満々な笑顔を向けられた。

「これでスイ・ブライトンがここにいた、と何人もの町人が記憶したわ。話しかけられる前に、急いで町を出ましょう。最後の関所、ブライトン邸へ行きますわよ」
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

記憶のない貴方

詩織
恋愛
結婚して5年。まだ子供はいないけど幸せで充実してる。 そんな毎日にあるきっかけで全てがかわる

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...