愛のない結婚を後悔しても遅い

空橋彩

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「こんにちは、おじさまおばさま!」


シリルを説得して応接室で公爵と夫人と一緒に伯爵親子を迎え入れる。女性らしい服装など持ってきていなかったが、トラティリアの使用人たちは大変優秀で、夫人の1番シンプルなドレスからさらに飾りをとり、シンプルなワンピースに見立ててくれた。


深い赤色のタイトなスカートが印象的な少し大胆なワンピースになってしまった。公爵夫妻はとても似合うと褒めてくれたが、これでは蹴りの威力が半減してしまう。
なんて非効率的な布なんだと内心思っている。


そんな私を見た瞬間、カイルだと思われる青年が目を見張った。何処か戦場であったのか?チラッと手に目をやるが実戦を経験しているふうには見えなかった。
サリアは何故か目つきをこわばらせてこちらを睨んでいる様だった。
コッソリ微笑み返したが「ひっ」と声を漏らしてから視線を合わせてくれなくなってしまった。


「はじめまして、私ブライトン辺境伯が娘。シーラ・ブライトンです。」

「やぁ、私はガードナー・サンドラだザガードの兄にあたる。こちらは息子のカイン。そっちは娘のサリアだ。よろしく」


トラティリア公爵は夫人の実家である。ガードナー伯爵は自分よりも弟の方が爵位が高いことを気にしているのであろう、決してその部分に触れてこなかった。

「ご紹介いただきありがとうございます。よろしくお願いします。」

「シリルは魅力的な方を婚約者にしたんだね。おめでとう」


私の返事など求めていないかの様にガードナーはフィッとそっぽを向いてしまった。敵から目を背けるとは腑抜けめ。と心の中で思ってしまいつい、口元が緩む。


私を除け者にする様にサンドラ一家はトラティリア公爵と夫人に話題をぶつける。やれどうやって婚約者を選んだのか、何故辺境伯?やらシリルとは対照的な女性だやら…つまりはと言っている。


公爵はニコニコと笑ったまま、すごく美人な子だろ?シリルを助けてくれるんだ。と天然で会話を交わしている。

なかなか真意が伝わらずガードナー伯爵はイライラしている様だ。こんなにあからさまに敵意を向けられているのに気がつかないとは、さすが、父上の殺気に当てられても倒れなかった鈍感力。


お土産にと持ってきてくれた中身の入れ替わっている安い紅茶に口をつけながらそれぞれの思惑を読み解いていく。

ふと、カイルと目が合う。なぜか、ニヤッと怪しげに笑いかけられる。それをみてサリアが慌てて席を立ち

「ねぇ、シリルの部屋で話そうよ!久しぶりに沢山話をしたいな!」

と提案した。シリルは黙って顔を青くしてしまった。カイルも「そうだな、それがいいな」と席を立つ。
公爵夫人がも「あら、じゃあ部屋に案内するわね」とつられて立ちあがろうとする。
私は夫人を手で制して代わりに立ち上がる。


「では、私がご案内いたしましょう。お義母さまはお茶を楽しんで。ガードナー伯爵、今年は隣国の紅茶がたくさん取れたらしいですわね。お土産の紅茶、ごちそうさまでした。とても懐かしい味がして久しぶりに実家に帰った様な気持ちになりました。ありがとうございますでは、こちらへ。どうぞ」

私の捨て台詞をきいて伯爵はサッと顔色を赤くした。隣国の紅茶はこの国の紅茶よりも安いのだ。それは、なぜかと聞かれれば大量生産をしているためだ。
隣国と接している辺境伯領ではこの国の紅茶だけでなく隣国の紅茶も多く親しまれている。つまり、


安物に入れ替えるなんてケチくさいな

と文句をつけたのだ。


私はシリルの隣に並んでサリアとカイルを3階へと案内をする。階段を登り切ったあたりでカイルが口火を切る


「おい、シリルのくせに婚約するなんてどういう事だよ。」


「そうよ!女の子に興味があったの?かわいーい趣味ばかりして全然そんなそぶりもなかったじゃない」


シリルがギュッと手に力を入れたのがわかった。


「女々しい男だからこんな男っぽい顔の女が来たのか?余計ナヨナヨして見えるぞ情けない。」

そういうとカイルは私の方をジロジロとみてふん、と鼻で笑った。

「体だけは良い体をしている。なぁ、俺が遊んでやるよ。こんな人形遊びが好きな男つまらないだろ?」

「やめなさいよ。こんなアバズレに手を出すの。」

「アバズレだから良いんだろ?後腐れなく捨てられる!!」


私は二人の会話に特に返事をせず、の扉を開けた。

「どうぞ。」


「あ、そうだ。この間来た時にあった黒曜石のカフスボタンもらうな。」

「私はブルーサファイアのピアスをもらうわね!あ!婚約指輪とかある?ねぇ、あんたのアクセサリーもみせてよ!あんた辺境伯でしょ?私たちは伯爵よ?逆らったらどうなるかわかるよね?」


二人は無遠慮に部屋にドカドカと入り込んでいく。
シリルはあっけに取られた様な表情をみせる。


私たちの返事も待たずにドレッサーの引き出しやケースを漁り始める二人に私はそっと囁く。


「物乞い風情がシリルを見下すとは、愚かだな」






ガシャーーーン!!



「なんだと?!もう一回言ってみろ!!」


カイルは、腰に差していた鈍刀を引き抜きドレッサーの、鏡を叩き割る。

その短慮さに思わず笑いが止まらなくなる。

「私はお前達の言いなりにはならない。お前たちとは金輪際関わり合いにならないので今すぐこの屋敷から出て行ってもらいたい」


「貴様!!伯爵家に楯突く気か?!おい!!シリル!お前何みてんだよ!この女を追い出せ!また殴られたいのか?!」


シリルはビクッと肩を振るわせ入り口の辺りで尻込みをしている様だ。かわいそうに顔が真っ青である。
私はどうしたらカイルを挑発できるか考えながら言葉を選ぶ。


「女一人追い出せないのか?あなたは。人に頼まなければできないなんて、情けないな。」

最高の侮蔑の気持ちを込めて笑いかけると、面白い様にカイルは真っ赤になった。


「おい、てめぇ、馬鹿にしてんのか?おい、サリア、シリルと廊下にでてろ。この女にわからせてやらなきゃな。」


カイルはイヤらしく笑い、私のドレスの胸元を思い切り掴んだ。


「触るな!!」


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