8 / 84
8
しおりを挟む
「こんにちは、おじさまおばさま!」
シリルを説得して応接室で公爵と夫人と一緒に伯爵親子を迎え入れる。女性らしい服装など持ってきていなかったが、トラティリアの使用人たちは大変優秀で、夫人の1番シンプルなドレスからさらに飾りをとり、シンプルなワンピースに見立ててくれた。
深い赤色のタイトなスカートが印象的な少し大胆なワンピースになってしまった。公爵夫妻はとても似合うと褒めてくれたが、これでは蹴りの威力が半減してしまう。
なんて非効率的な布なんだと内心思っている。
そんな私を見た瞬間、カイルだと思われる青年が目を見張った。何処か戦場であったのか?チラッと手に目をやるが実戦を経験しているふうには見えなかった。
サリアは何故か目つきをこわばらせてこちらを睨んでいる様だった。
コッソリ微笑み返したが「ひっ」と声を漏らしてから視線を合わせてくれなくなってしまった。
「はじめまして、私ブライトン辺境伯が娘。シーラ・ブライトンです。」
「やぁ、私はガードナー・サンドラだザガードの兄にあたる。こちらは息子のカイン。そっちは娘のサリアだ。よろしく」
トラティリア公爵は夫人の実家である。ガードナー伯爵は自分よりも弟の方が爵位が高いことを気にしているのであろう、決してその部分に触れてこなかった。
「ご紹介いただきありがとうございます。よろしくお願いします。」
「シリルは魅力的な方を婚約者にしたんだね。おめでとう」
私の返事など求めていないかの様にガードナーはフィッとそっぽを向いてしまった。敵から目を背けるとは腑抜けめ。と心の中で思ってしまいつい、口元が緩む。
私を除け者にする様にサンドラ一家はトラティリア公爵と夫人に話題をぶつける。やれどうやって婚約者を選んだのか、何故辺境伯?やらシリルとは対照的な女性だやら…つまりはこの婚約は認めないと言っている。
公爵はニコニコと笑ったまま、すごく美人な子だろ?シリルを助けてくれるんだ。と天然で会話を交わしている。
なかなか真意が伝わらずガードナー伯爵はイライラしている様だ。こんなにあからさまに敵意を向けられているのに気がつかないとは、さすが、父上の殺気に当てられても倒れなかった鈍感力。
お土産にと持ってきてくれた中身の入れ替わっている安い紅茶に口をつけながらそれぞれの思惑を読み解いていく。
ふと、カイルと目が合う。なぜか、ニヤッと怪しげに笑いかけられる。それをみてサリアが慌てて席を立ち
「ねぇ、シリルの部屋で話そうよ!久しぶりに沢山話をしたいな!」
と提案した。シリルは黙って顔を青くしてしまった。カイルも「そうだな、それがいいな」と席を立つ。
公爵夫人がも「あら、じゃあ部屋に案内するわね」とつられて立ちあがろうとする。
私は夫人を手で制して代わりに立ち上がる。
「では、私がご案内いたしましょう。お義母さまはお茶を楽しんで。ガードナー伯爵、今年は隣国の紅茶がたくさん取れたらしいですわね。お土産の紅茶、ごちそうさまでした。とても懐かしい味がして久しぶりに実家に帰った様な気持ちになりました。ありがとうございますでは、こちらへ。どうぞ」
私の捨て台詞をきいて伯爵はサッと顔色を赤くした。隣国の紅茶はこの国の紅茶よりも安いのだ。それは、なぜかと聞かれれば大量生産をしているためだ。
隣国と接している辺境伯領ではこの国の紅茶だけでなく隣国の紅茶も多く親しまれている。つまり、
安物に入れ替えるなんてケチくさいな
と文句をつけたのだ。
私はシリルの隣に並んでサリアとカイルを3階へと案内をする。階段を登り切ったあたりでカイルが口火を切る
「おい、シリルのくせに婚約するなんてどういう事だよ。」
「そうよ!女の子に興味があったの?かわいーい趣味ばかりして全然そんなそぶりもなかったじゃない」
シリルがギュッと手に力を入れたのがわかった。
「女々しい男だからこんな男っぽい顔の女が来たのか?余計ナヨナヨして見えるぞ情けない。」
そういうとカイルは私の方をジロジロとみてふん、と鼻で笑った。
「体だけは良い体をしている。なぁ、俺が遊んでやるよ。こんな人形遊びが好きな男つまらないだろ?」
「やめなさいよ。こんなアバズレに手を出すの。」
「アバズレだから良いんだろ?後腐れなく捨てられる!!」
私は二人の会話に特に返事をせず、部屋の扉を開けた。
「どうぞ。」
「あ、そうだ。この間来た時にあった黒曜石のカフスボタンもらうな。」
「私はブルーサファイアのピアスをもらうわね!あ!婚約指輪とかある?ねぇ、あんたのアクセサリーもみせてよ!あんた辺境伯でしょ?私たちは伯爵よ?逆らったらどうなるかわかるよね?」
二人は無遠慮に部屋にドカドカと入り込んでいく。
シリルはあっけに取られた様な表情をみせる。
私たちの返事も待たずにドレッサーの引き出しやケースを漁り始める二人に私はそっと囁く。
「物乞い風情がシリルを見下すとは、愚かだな」
ガシャーーーン!!
「なんだと?!もう一回言ってみろ!!」
カイルは、腰に差していた鈍刀を引き抜きドレッサーの、鏡を叩き割る。
その短慮さに思わず笑いが止まらなくなる。
「私はお前達の言いなりにはならない。お前たちとは金輪際関わり合いにならないので今すぐこの屋敷から出て行ってもらいたい」
「貴様!!伯爵家に楯突く気か?!おい!!シリル!お前何みてんだよ!この女を追い出せ!また殴られたいのか?!」
シリルはビクッと肩を振るわせ入り口の辺りで尻込みをしている様だ。かわいそうに顔が真っ青である。
私はどうしたらカイルを挑発できるか考えながら言葉を選ぶ。
「女一人追い出せないのか?あなたは。人に頼まなければできないなんて、情けないな。」
最高の侮蔑の気持ちを込めて笑いかけると、面白い様にカイルは真っ赤になった。
「おい、てめぇ、馬鹿にしてんのか?おい、サリア、シリルと廊下にでてろ。この女にわからせてやらなきゃな。」
カイルはイヤらしく笑い、私のドレスの胸元を思い切り掴んだ。
「触るな!!」
シリルを説得して応接室で公爵と夫人と一緒に伯爵親子を迎え入れる。女性らしい服装など持ってきていなかったが、トラティリアの使用人たちは大変優秀で、夫人の1番シンプルなドレスからさらに飾りをとり、シンプルなワンピースに見立ててくれた。
深い赤色のタイトなスカートが印象的な少し大胆なワンピースになってしまった。公爵夫妻はとても似合うと褒めてくれたが、これでは蹴りの威力が半減してしまう。
なんて非効率的な布なんだと内心思っている。
そんな私を見た瞬間、カイルだと思われる青年が目を見張った。何処か戦場であったのか?チラッと手に目をやるが実戦を経験しているふうには見えなかった。
サリアは何故か目つきをこわばらせてこちらを睨んでいる様だった。
コッソリ微笑み返したが「ひっ」と声を漏らしてから視線を合わせてくれなくなってしまった。
「はじめまして、私ブライトン辺境伯が娘。シーラ・ブライトンです。」
「やぁ、私はガードナー・サンドラだザガードの兄にあたる。こちらは息子のカイン。そっちは娘のサリアだ。よろしく」
トラティリア公爵は夫人の実家である。ガードナー伯爵は自分よりも弟の方が爵位が高いことを気にしているのであろう、決してその部分に触れてこなかった。
「ご紹介いただきありがとうございます。よろしくお願いします。」
「シリルは魅力的な方を婚約者にしたんだね。おめでとう」
私の返事など求めていないかの様にガードナーはフィッとそっぽを向いてしまった。敵から目を背けるとは腑抜けめ。と心の中で思ってしまいつい、口元が緩む。
私を除け者にする様にサンドラ一家はトラティリア公爵と夫人に話題をぶつける。やれどうやって婚約者を選んだのか、何故辺境伯?やらシリルとは対照的な女性だやら…つまりはこの婚約は認めないと言っている。
公爵はニコニコと笑ったまま、すごく美人な子だろ?シリルを助けてくれるんだ。と天然で会話を交わしている。
なかなか真意が伝わらずガードナー伯爵はイライラしている様だ。こんなにあからさまに敵意を向けられているのに気がつかないとは、さすが、父上の殺気に当てられても倒れなかった鈍感力。
お土産にと持ってきてくれた中身の入れ替わっている安い紅茶に口をつけながらそれぞれの思惑を読み解いていく。
ふと、カイルと目が合う。なぜか、ニヤッと怪しげに笑いかけられる。それをみてサリアが慌てて席を立ち
「ねぇ、シリルの部屋で話そうよ!久しぶりに沢山話をしたいな!」
と提案した。シリルは黙って顔を青くしてしまった。カイルも「そうだな、それがいいな」と席を立つ。
公爵夫人がも「あら、じゃあ部屋に案内するわね」とつられて立ちあがろうとする。
私は夫人を手で制して代わりに立ち上がる。
「では、私がご案内いたしましょう。お義母さまはお茶を楽しんで。ガードナー伯爵、今年は隣国の紅茶がたくさん取れたらしいですわね。お土産の紅茶、ごちそうさまでした。とても懐かしい味がして久しぶりに実家に帰った様な気持ちになりました。ありがとうございますでは、こちらへ。どうぞ」
私の捨て台詞をきいて伯爵はサッと顔色を赤くした。隣国の紅茶はこの国の紅茶よりも安いのだ。それは、なぜかと聞かれれば大量生産をしているためだ。
隣国と接している辺境伯領ではこの国の紅茶だけでなく隣国の紅茶も多く親しまれている。つまり、
安物に入れ替えるなんてケチくさいな
と文句をつけたのだ。
私はシリルの隣に並んでサリアとカイルを3階へと案内をする。階段を登り切ったあたりでカイルが口火を切る
「おい、シリルのくせに婚約するなんてどういう事だよ。」
「そうよ!女の子に興味があったの?かわいーい趣味ばかりして全然そんなそぶりもなかったじゃない」
シリルがギュッと手に力を入れたのがわかった。
「女々しい男だからこんな男っぽい顔の女が来たのか?余計ナヨナヨして見えるぞ情けない。」
そういうとカイルは私の方をジロジロとみてふん、と鼻で笑った。
「体だけは良い体をしている。なぁ、俺が遊んでやるよ。こんな人形遊びが好きな男つまらないだろ?」
「やめなさいよ。こんなアバズレに手を出すの。」
「アバズレだから良いんだろ?後腐れなく捨てられる!!」
私は二人の会話に特に返事をせず、部屋の扉を開けた。
「どうぞ。」
「あ、そうだ。この間来た時にあった黒曜石のカフスボタンもらうな。」
「私はブルーサファイアのピアスをもらうわね!あ!婚約指輪とかある?ねぇ、あんたのアクセサリーもみせてよ!あんた辺境伯でしょ?私たちは伯爵よ?逆らったらどうなるかわかるよね?」
二人は無遠慮に部屋にドカドカと入り込んでいく。
シリルはあっけに取られた様な表情をみせる。
私たちの返事も待たずにドレッサーの引き出しやケースを漁り始める二人に私はそっと囁く。
「物乞い風情がシリルを見下すとは、愚かだな」
ガシャーーーン!!
「なんだと?!もう一回言ってみろ!!」
カイルは、腰に差していた鈍刀を引き抜きドレッサーの、鏡を叩き割る。
その短慮さに思わず笑いが止まらなくなる。
「私はお前達の言いなりにはならない。お前たちとは金輪際関わり合いにならないので今すぐこの屋敷から出て行ってもらいたい」
「貴様!!伯爵家に楯突く気か?!おい!!シリル!お前何みてんだよ!この女を追い出せ!また殴られたいのか?!」
シリルはビクッと肩を振るわせ入り口の辺りで尻込みをしている様だ。かわいそうに顔が真っ青である。
私はどうしたらカイルを挑発できるか考えながら言葉を選ぶ。
「女一人追い出せないのか?あなたは。人に頼まなければできないなんて、情けないな。」
最高の侮蔑の気持ちを込めて笑いかけると、面白い様にカイルは真っ赤になった。
「おい、てめぇ、馬鹿にしてんのか?おい、サリア、シリルと廊下にでてろ。この女にわからせてやらなきゃな。」
カイルはイヤらしく笑い、私のドレスの胸元を思い切り掴んだ。
「触るな!!」
972
あなたにおすすめの小説
好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。
豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」
「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」
「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
いつまでも甘くないから
朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。
結婚を前提として紹介であることは明白だった。
しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。
この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。
目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・
二人は正反対の反応をした。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる