愛のない結婚を後悔しても遅い

空橋彩

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「はぁ?俺に言ってんのか?」


なんと、シリルが私のところまできてカイルの手を払い除けた。


「シーラは僕の婚約者だ…」

「ちょっと、シリルはこっちに来てなさいよ!お兄様が命令してるでしょ!?」

サリアがシリルの手を引いて私から引き離そうとする。

「シーラに触らないで!」

カイルはシリルの一言で切れたのか剣を思い切り振り上げた。シリルの首根っこを引っ張って後ろへ放り投げると、
ついでにサリアもどさっと床に倒れ込む。

荒く振り下ろされた剣先は前髪を掠めてワンピースの前見頃を切り裂く。
無駄に育った胸が役に立った様で肌には傷がつかず布だけが無惨に臍のあたりまで切れた。
そうなる様に避けたのだけど。


「おそいな。」

つい本音が…ポロリと漏れてしまった。

「てめぇ!!!」

それに反応したカイルは拳で私の腹を殴りつけた。
が、片手でそれを受け止めて逆にカイルの頬を平手で思い切り叩く。
まるで埃の様にピューっと壁に向かって飛んで行った。


サリアがきゃーー!っと悲鳴をあげてシリルに抱きつこうとした。
髪留めを素早く引き抜きサリアに向かって投げる。サリアとシリルのちょうど間の床にザクっとそれが刺さる。


「さわるな。私の旦那様だ(未来の)」


ほんの少し威圧をかけると、サリアはその場でボロボロ泣き出してしまった。

そこへバタバタと大人たちが到着した。



「どういうことだ!!!!!!」

伯爵は怒り狂って私につめよる。

「貴様!!!貴様!何をした!!」


「お二人が急に部屋に入ってきて宝石類を盗み始めたので止めたら襲われたので反撃したまで。」


ほら、と切り裂かれた胸元を見せる。公爵と夫人が短く悲鳴をあげる。


「そんなことどうでも良い!!息子と娘に暴力を働いてタダで済むと思うなよ、そもそもこの家のものは我が家の物と同然なんだ!ここの嫁になるんだからお前もそれをわきまえて…」


「なぜ?」


「、…は?」


「何故伯爵ごときが偉そうにしているのかと聞いている。」

伯爵は突然の口答えに驚き池の魚の様に口をパクパクさせている。そこだけは血筋なのか、最近こんな人を見た気がする。


「お義父さま。なぜシリルを守らずこんな男の言いなりになっているのです?」


「そ…それは…」


「シーラちゃんそれは私達が…」


「元の婚約者であったガードナー伯爵を裏切ったから逆らえない、そう思ってます?」


公爵夫人は両手を口に当ててハッと息を呑む。
公爵も目を見開いて驚いている様子を見せる。


「そ…そうだ!この裏切り者のせいで俺はな、人生をメチャクチャにされたんだ!だから…」

ガードナー伯爵は今だと言わんばかりに反撃を開始する。

「浮気三昧だったからだろ。メイドとの間にカイル殿を授かってこちらに婿入りできなくなったお前が悪い。あと、そのカイルは私に向かって剣を抜いた。この私に向かってだ。それは、“やられても文句は言えない騎士の決闘”だあまり文句を言うとご子息が恥をかきますよ。」


反論しようのない真実だったからかガードナーはグッと唇を噛んで悔しそうな顔をする。


「お義父さま、こいつらは婚約指輪まで差し出せと言ってきました。いままでもシリルの唯一や大切なものをそうやって奪ってきているはずです。報復が怖いですか?伯爵程度の男の。そんなもの、私が全部弾いてやります。むしろ、報復するのならお覚悟を。この私がその前に捻り潰して差し上げましょう」


「お…お前みたいな小娘に何ができる!!」


「そう思うならやってみろ。私が助けを求めれば、助けてくれるものがいるぞ。覚悟を持って怒らせてみろ」



100%の殺気を向けるとガードナー伯爵は顔を真っ青にして倒れてしまった。
吹っ飛んだ意識を失っていたカイルが体を起こし再び剣を握る。

「引き際も知らない小僧が。死にたいのか?」

その持ち上げようとしていた剣を足で踏みつける。グッと力を入れると刃がバキンと音を立てて折れた。

「え?い…いつの間にここに…」

「次に刃を向けたら私も剣を抜く」

「…!!!!」

カイルはそのまま泡をふいて倒れてしまった。後から来た使用人たちは皆、手を叩いて喜んでいる。伯爵は今までこの屋敷でやりたい放題だったようだ。
公爵夫妻はシリルの元へいき、すまなかった、と誤っている。

私は伯爵親子の足を引きずって玄関前のポーチにポイポイと捨ておく。サリアは意識を取り戻し自らの脚で転がる様にして逃げて行った。

玄関の扉を閉め振り返ると、少し怒った様な顔をしたシリルが立っていた。

「どうした?もう大丈夫だ」

「…君が傷つくとは聞いてない!」

そう言って真っ白なシーツを私の体に優しく巻きつける。私よりも身長が高いシリルを少し見上げるとプイッと横を向いてしまった。よく見える様になった白く滑らかな頬に指を添わせて優しく撫でるとかぁ、と赤くなった。


「優しいな。」



「よ、弱虫だと、おもっ、思ってるんだろ?」


青く透き通る瞳から一粒ずつ綺麗な雫が静かにこぼれ落ちる。時々しゃくりあげる様にしてシリルは泣いている。


「いいや、思わないが?」


「男のくせに、やられっぱなしで、情けないって」


「思わない」


「…君は変だ。」


「ふっ…」

いじける様につぶやいたシリルがおかしくてつい、吹き出してしまった。私の顔を見てシリルが驚いた様に目を見開いたので、失礼なことをしてしまったかと思ったがそのまま後ろを向いて歩き出してしまったので謝ることはできなかった。

それから、メイドの者たちが慌てて私を風呂へ連れて行き身支度を整えてくれた。動きやすい服は洗濯に出してしまったので屋敷で用意してくれた簡単なドレスに着替えさせられてしまった。
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