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「シリル、おはよう。よく眠れた?」
打ち込み稽古をしていると3階のバルコニーからシリルが顔を出した。朝日がホワイトブロンドの髪を照らしてとても綺麗に輝いてみえた。
死人の様な真っ白な顔色も多少マシになっている様な気がする。斧をを左手に持ち替えて手を振るとシリルはコクンとうなづいて部屋へ戻って行ってしまった。
まだ朝日が上り切っていないが、屋敷の中の者たちは働き始めている。私もタダ飯ぐらいにならないように打ち込みついでに薪割をやらせてもらった。
汗をかいたので軽く水浴びをしてから食堂に顔を出す。
ふんわりと優しいパンの香りが漂っていた。
シリルと公爵夫妻がすでに席について待っていた。
「昨晩は申し訳ありませんでした。これからは黙って外食してこない様にします。」
シリルの顔を見ながら昨晩の非礼を詫びる。夫妻はにっこりと笑って「気にしないで」と言ってくれた。
シリルはじっと朝食を見つめている。
つられて自分の先に用意された食事をみる。ワンプレートにもられたサラダ、ベーコン、卵焼き。
焼きたてのクロワッサンと黄金色のスープ。
プレートには星型にくり抜かれた黄色い何かが飾ってあった。
「シリル、流れ星を捕まえてくれたのか?ありがとう」
そうお礼を告げるとシリルはとても儚げに、美しく薄らと笑って見せた。
「…」
不覚にも言葉を出すことができず、見惚れてしまった。
「そ、そういえば、シリルの婚約を祝うためにサリアやカイルが今日顔を出すそうですよ。」
夫人も息子の顔に見張れてでもいたのだろうか、言葉がつまりながらシリルに来客の予定を伝えた。その瞬間、穏やかだった笑顔は消え、蒼白になった。
ガタッと立ち上がると、
「また、そうやって、勝手に…僕は会いませんから!」
そう言い放つと食事も始まっていないのに部屋へ戻って行ってしまった。夫人と公爵は「まって!」と声をかけるが振り返ることもなく扉は閉められた。残された私はいささか気まずい雰囲気を感じつつもとりあえずは席につくことにした。
「サリアとカイルとはどなたですか?」
聞いてくれるのを待ってました、と言わんばかりに公爵が食い気味に答える。
「シリルの従兄弟たちだよ。私の兄の子だね。シリルと仲良く…してくれてるんだが、シリルは関わるのを嫌がるんだ」
「なぜ嫌がるのか聞いたことはありますか?」
公爵が釈然としない様な顔をしていたので少し深掘りしてみたが
「ただ、会いたくないと」
そう呟いてから、公爵と夫人は困った様にお互いに顔を合わせてふぅ、と小さなため息をついただけだった。
「婚約のお祝いなら、私も同席させていただきます」
その言葉を聞いて夫人は俯いていた顔をぱっとあげて「いいの?!」と喜びの声をあげた。
ちょうどメイドが食後のコーヒーをワゴンに乗せて運んでいたので、そのワゴンにシリルの分の朝食と自分の分のコーヒーを乗せて部屋へ運ぶことにした。
私がやります!というメイドから無理やりワゴンを奪ってシリルの部屋の戸をたたく。
返事はないが何処かへいけとも言われないので思い切って扉を開けてみると窓際の椅子に深く座り込んで膝を抱えているシリルがいた。
「…せっかく作ってくれた食事の感想を言っていないから、伝えに来た。こんなに美しい食事をみたのは初めてだありがとう」
「…大袈裟だな。」
「私の食事といえば大鍋で煮たスープや肉だ。こんなに彩豊かな美しい食べ物があるとは驚いた。それに、この星の形に切られた野菜が可愛らしので気に入ったんだ。」
「それはパプリカという。というか、その朝食は誰のだ?」
「シリル」
「僕はいらない。食欲がない」
「従兄弟殿がくるからか?」
「…そう、会いたくない。どうせまた馬鹿にするんだ、それにいつも部屋のものを盗まれるし殴られる」
「部屋に入れなきゃ良いじゃないか。その前にその事実を公爵に言えば良い。」
「父上に一度言ったことがあるが、“また買ってやる、カイルたちはお前が羨ましいんだろう許してやってくれ”と言われた。部屋には母上が一緒に入って来てしまうから入れざるを得ない」
「ふむ。なるほどな。」
公爵夫妻は優しすぎる。それは息子にだけじゃない。他人にもだ。よく領地経営をしてこれたなと思うほどにお人好しである。(父が割った床のことも何も言ってこないし)
「では、一つ目の任務だな。」
「え?」
「守ってやると言っただろ?」
「カイルは一応アカデミーの騎士科に通っている力任せではどうにもならないぞ、それにサリアはすぐに泣く。そうすると怒られるのはいつも僕だ」
「じゃあ、守らなくて良いのか?」
「っ!」
「いいか、先ずは自分がどうしたいのかちゃんと伝えて欲しい。どうせ伝わらないから誰も信じてくれないから、そう思ってしまっているのは仕方ない。そこを変えていこう。私はシリルの言葉を信じるよ。流れ星を捕まえてくれたお礼だ。」
「あの二人には会いたくない。金輪際。もう奪われるのは嫌だ。」
「わかった。私が必ずシリルを守ると誓おう。」
打ち込み稽古をしていると3階のバルコニーからシリルが顔を出した。朝日がホワイトブロンドの髪を照らしてとても綺麗に輝いてみえた。
死人の様な真っ白な顔色も多少マシになっている様な気がする。斧をを左手に持ち替えて手を振るとシリルはコクンとうなづいて部屋へ戻って行ってしまった。
まだ朝日が上り切っていないが、屋敷の中の者たちは働き始めている。私もタダ飯ぐらいにならないように打ち込みついでに薪割をやらせてもらった。
汗をかいたので軽く水浴びをしてから食堂に顔を出す。
ふんわりと優しいパンの香りが漂っていた。
シリルと公爵夫妻がすでに席について待っていた。
「昨晩は申し訳ありませんでした。これからは黙って外食してこない様にします。」
シリルの顔を見ながら昨晩の非礼を詫びる。夫妻はにっこりと笑って「気にしないで」と言ってくれた。
シリルはじっと朝食を見つめている。
つられて自分の先に用意された食事をみる。ワンプレートにもられたサラダ、ベーコン、卵焼き。
焼きたてのクロワッサンと黄金色のスープ。
プレートには星型にくり抜かれた黄色い何かが飾ってあった。
「シリル、流れ星を捕まえてくれたのか?ありがとう」
そうお礼を告げるとシリルはとても儚げに、美しく薄らと笑って見せた。
「…」
不覚にも言葉を出すことができず、見惚れてしまった。
「そ、そういえば、シリルの婚約を祝うためにサリアやカイルが今日顔を出すそうですよ。」
夫人も息子の顔に見張れてでもいたのだろうか、言葉がつまりながらシリルに来客の予定を伝えた。その瞬間、穏やかだった笑顔は消え、蒼白になった。
ガタッと立ち上がると、
「また、そうやって、勝手に…僕は会いませんから!」
そう言い放つと食事も始まっていないのに部屋へ戻って行ってしまった。夫人と公爵は「まって!」と声をかけるが振り返ることもなく扉は閉められた。残された私はいささか気まずい雰囲気を感じつつもとりあえずは席につくことにした。
「サリアとカイルとはどなたですか?」
聞いてくれるのを待ってました、と言わんばかりに公爵が食い気味に答える。
「シリルの従兄弟たちだよ。私の兄の子だね。シリルと仲良く…してくれてるんだが、シリルは関わるのを嫌がるんだ」
「なぜ嫌がるのか聞いたことはありますか?」
公爵が釈然としない様な顔をしていたので少し深掘りしてみたが
「ただ、会いたくないと」
そう呟いてから、公爵と夫人は困った様にお互いに顔を合わせてふぅ、と小さなため息をついただけだった。
「婚約のお祝いなら、私も同席させていただきます」
その言葉を聞いて夫人は俯いていた顔をぱっとあげて「いいの?!」と喜びの声をあげた。
ちょうどメイドが食後のコーヒーをワゴンに乗せて運んでいたので、そのワゴンにシリルの分の朝食と自分の分のコーヒーを乗せて部屋へ運ぶことにした。
私がやります!というメイドから無理やりワゴンを奪ってシリルの部屋の戸をたたく。
返事はないが何処かへいけとも言われないので思い切って扉を開けてみると窓際の椅子に深く座り込んで膝を抱えているシリルがいた。
「…せっかく作ってくれた食事の感想を言っていないから、伝えに来た。こんなに美しい食事をみたのは初めてだありがとう」
「…大袈裟だな。」
「私の食事といえば大鍋で煮たスープや肉だ。こんなに彩豊かな美しい食べ物があるとは驚いた。それに、この星の形に切られた野菜が可愛らしので気に入ったんだ。」
「それはパプリカという。というか、その朝食は誰のだ?」
「シリル」
「僕はいらない。食欲がない」
「従兄弟殿がくるからか?」
「…そう、会いたくない。どうせまた馬鹿にするんだ、それにいつも部屋のものを盗まれるし殴られる」
「部屋に入れなきゃ良いじゃないか。その前にその事実を公爵に言えば良い。」
「父上に一度言ったことがあるが、“また買ってやる、カイルたちはお前が羨ましいんだろう許してやってくれ”と言われた。部屋には母上が一緒に入って来てしまうから入れざるを得ない」
「ふむ。なるほどな。」
公爵夫妻は優しすぎる。それは息子にだけじゃない。他人にもだ。よく領地経営をしてこれたなと思うほどにお人好しである。(父が割った床のことも何も言ってこないし)
「では、一つ目の任務だな。」
「え?」
「守ってやると言っただろ?」
「カイルは一応アカデミーの騎士科に通っている力任せではどうにもならないぞ、それにサリアはすぐに泣く。そうすると怒られるのはいつも僕だ」
「じゃあ、守らなくて良いのか?」
「っ!」
「いいか、先ずは自分がどうしたいのかちゃんと伝えて欲しい。どうせ伝わらないから誰も信じてくれないから、そう思ってしまっているのは仕方ない。そこを変えていこう。私はシリルの言葉を信じるよ。流れ星を捕まえてくれたお礼だ。」
「あの二人には会いたくない。金輪際。もう奪われるのは嫌だ。」
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