愛のない結婚を後悔しても遅い

空橋彩

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6.シリル視点

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「結婚?!そんなもの必要ありません!」


僕は、このままでよかった。他人とは人の才能を妬み、僻み、攻撃してくる。関わらない様にしていても、こちらが潰れるまで徹底的に潰しにかかってくる。

アカデミーにいってよかったと思ったことは、唯一その事に気がつけたことだ。

人は醜い。

それ以上に…自分の愚かさや弱さが許せなかった。

幸いアカデミーの単位をまとめてとれるほどの頭があったのでほとんど行かずに済む。テストだけ受けても学年で一位はかるくとれる。
だから僕は領地に引きこもった。誰も傷つけてくることのない、安全な領地に。

ズタボロで帰ってきた僕に向かって無理を言うものは誰もいなかった。
みな、腫れ物を触る様にそっと、大切にしてくれた。


なのに


「シリル、いつまでも私たちがあなたを守ってはあげられないのよ。だからね、結婚してあなたの味方をつくるの」

母と父が勝手に結婚を決めてしまった。しかも、相手は辺境伯令嬢。大人しく穏やかな娘が来るらしい。

それなら、口答えをさせず関わらなければ良いかと作戦をねっていたのに、顔合わせ当日に現れたのはデカい馬に跨った3人。
どうみても穏やかそうじゃない。

真っ黒な艶やかな毛並みの馬から降りてきた僕の婚約者であろう女、髪は柔らかな黄金色だった。瞳はその髪によく似た金色。すっと伸ばした背筋とブレることのない堂々とした歩き方。

目はキリッとしているし鼻も高くとても凛々しい顔立ちをしている。顔だけ見ると男と言われても納得する程だが、スタイルが良く一目で女性だとわかる。

白いトラウザースと黒いブーツがとても似合っている。

しかし、口を開けばこちらを攻撃ばかりする。

やはり、こいつも僕の事をバカにしに来たんだ、そう思った。
その日から彼女は花嫁修行と称して我が家に滞在することになったらしい。

母のせいで僕がお菓子作りをしていることがバレた。アカデミーでは女みたいだと散々馬鹿にされた。せっかく作ったものを捨てられた、踏み躙られた。マズイと、罵られもした。


だけど、彼女はそんな事しなかった。

「すごいな」

と褒めてくれた。

褒められたことが嬉しくて夕食を作ったが彼女は帰ってこなかった。そういえば、もう食べない様にすると言っていた。僕が嫌がったから。

やっと夜更けに帰ってきたと思ったら、外で食事をしてきたと言った。勝手に裏切られた気持ちになって、もういい、と突き放してしまった。

ドアを閉める瞬間の彼女の寂しそうな顔が頭から離れず、バルコニーで頭を冷やしていると、彼女まで外に出てきた。白いナイトガウン姿が美しかった。

白いシャツに黒いベスト、白いトラウザース。彼女のその姿しかみていなかったが、深く空いた胸元から白いレースのネグリジェが見える。もちろん、パツンと弾けるような胸も3分の1ほどにあらわになっている。

先程傷つけたはずだったのに彼女はニコニコして話しかけてきた。言葉は乱暴だが…暖かい言葉だった。


僕は、幼い頃から可愛いものが好きだ。人形、絵本、お菓子。
黒や銀よりピンクや金色が好きだ。
夢物語を読んで胸をドキドキさせることや、魔法の様な奇跡の話も。

それを知った者たちは一様に「男のくせにきみが悪い」と非難した。
女性たちも、女々しい。と僕を馬鹿にした。


でも彼女は違った。もっと教えてほしいと話を聞いてくれた。一緒に楽しもうとしてくれた。


こんな風にされたのは初めてだ。


あんなに嫌がったのに、しかも無礼なことまで言ってしまったのに、少しずつ歩み寄ろうとしてくれる彼女がとても美しく見えた。いつの間にか眠ってしまった彼女が冷えない様に部屋にありったけの布団を巻いた。
それでも暖かくならなかったので、僕が一緒に入り温めることにした。

ふと、目を覚ますと朝になっていて、僕はベットで眠っていた。


彼女に掛けたはずの布団は綺麗に畳んで足元に置いてあった。外から微かに固いものをうつ音が響いていた。
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