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公爵邸に着いた頃には使用人たちが帰って邸は静かになっている頃だった。
中には夜勤で体を休めながら働いている者達もいると思い、音を立てない様にそぅっと自分に当てがわれた部屋に向かう。
長い廊下を歩いていると奥の方に人の気配を感じ立ち止まる。よくを目こらすとシリルが立っていた。
「シリル?そこで何をしているんだ?」
また、近づきすぎると怒らせてしまうと思いある程度距離をとって話しかけてみる。
彼は勢いよくこちらを向くと怒った様な顔でじっと見つめてきた。
「し…食事の時間にも戻らないとは…どこへ行っていたんだ!」
「領地を見に行ったんだ。よく整備されたいい町だな。明るく清潔で領民達もとても穏やかだ。皆シリルのおかげだと褒めていたよっ…とまた余計なことを言ったかな?私はどうも、気が利かないらしいすまない」
「…僕は彼らの税で生きている。彼らに尽くすのは当たり前のことだ!!」
「そうだな。私が無礼だった。だが、町のあちこちにシリルの心配りが溢れている様で私は少し感動したんだ。だからついね。」
そう、ついだ。ついまた地雷を踏んでしまった様なので、早く彼を解放してやろうと直ぐに自分の部屋の扉を開けるそして、「嫌な思いをさせるつもりはなかったよ」と伝えて部屋に入る。ドアを閉めるもすぐにコンコンとノックをされる。
「なんだ?何か困っているのか?」
少しだけ扉を開けてノックに応答すると、ものすごく小さい声でシリルが呟く。
「食事は?」
「町でとってきたので心配無用だ。」
そう伝えると何故かシリルは傷ついた様な泣いている様な顔をして「じゃあいい!」とだけつげて自分の部屋へと帰って行った。我々は一応結婚する仲だ。部屋は隣同士である。お互いの部屋の中にある続き扉は固く閉ざされているが。
部屋のシャワールームで体を清めてベットに入る。
辺境では一晩中城壁に火を灯しているのでうっすらと明るい。横になって窓の方を見ると空に青白い星が輝いているのが見えた。
つい、近くで見たくなって小さなバルコニーに足を向けた。少し肌寒いがそのおかげで空気が澄んでいて空がよく見える。
ふぅ、とため息をつくと息が白く曇る。
無駄に長く伸ばした髪からぽたりと水滴が垂れる。
「夜は嫌い?随分冴えない顔をしている」
すぐ隣のバルコニーで息を殺してこちらの様子を伺っていたシリルに声をかける。
げっ!と小さな悲鳴を上げているところを見ると夜ではなく私が嫌いなようだ。
「嫌いじゃない」
小さな声だが、確かにシリルはそう答えた。
「そうか。私は嫌いだ。眠りについたまま消えて無くなってしまいそうで。」
ここへきて初めて彼がまともに答えてくれた。それなのに私は気の利かない返をしてしまった。
「…夕食を…」
「ん?」
「夕食を用意して…いた。君の分も」
「シリルが作ってくれたものだったら美味しかったろうに。食べたかったな」
あぁ、怒っていたのは食事時に私が帰らなかったからか。せっかく用意したものが無駄になってしまったから、怒ったのか。
「…明日の朝も何か作る」
私はシリルの横顔をじっと見つめたまま彼の小さな声に耳を傾ける。決してこちらを見ようとはしない、伏せ目がちな目線は決して私の姿をうつそうとはしない。
「シリル!!」
シリルをじっと見つめていると、彼の向こう側に見える空の星がすうっと落ちてきた。遥か彼方に弧を描いて消えていった。
火矢か、はたまた弾丸か…
思わずバルコニーの手すりに足をかけてシリルの元へ飛び移ってしまった。
「あ…ああああ!あれは流れ星だ!そんな事も知らないのか?!」
「流れ星?」
「あぁ、願い事を唱えると叶えてくれるんだ…あっ!いや…」
「へぇ、それは面白い。それで?唱え方は?」
「…」
シリルはもともと大きな瞳をスッと見開いてこちらをじっと見ている。聞いちゃいけない事だったのだろうか?一子相伝の秘術とか??
「秘密か?何か特殊な戦法でもあるのか?うーん…」
「男がそんな話をするなんて女々しくて気持ち悪いと。僕の友達だった者たち、皆が言う」
「はは、皆とは?どこの皆だ?人の話を笑うとは、随分と可愛らしいお友達だな。私はその話、興味がある。流れた星は、どこに辿り着くんだ?どうやって願いを叶えてくれる?」
「…昔読んだ本に書いてあった。星が落ちる前に願いを唱えられるとその願いが叶うんだと。」
「ふーん…やってみようかな!よし、シリル流れ星が出たらおし…あ!ほら流れた!だめだ。早すぎる」
もういっそ、あの星の到着地点を割り出して拾いに行くしかないな。そんなことを考えていると、シリルがクスリと笑った気がした。
シリルの部屋のバルコニーにある椅子に腰掛けたまま、しばらく空を見た。そのまま、気がついたら朝になっていた。いつのまにか暖かな布団が何枚もかけられていて、隣にはシリルが一緒になって布団に巻きついている。
屋敷の者たちに気がつかれる前に慌ててシリルをベットに運び込む。そのままバルコニーをつたって自室にもどる。
結局流れ星に願い事を唱えることはできなかった。
中には夜勤で体を休めながら働いている者達もいると思い、音を立てない様にそぅっと自分に当てがわれた部屋に向かう。
長い廊下を歩いていると奥の方に人の気配を感じ立ち止まる。よくを目こらすとシリルが立っていた。
「シリル?そこで何をしているんだ?」
また、近づきすぎると怒らせてしまうと思いある程度距離をとって話しかけてみる。
彼は勢いよくこちらを向くと怒った様な顔でじっと見つめてきた。
「し…食事の時間にも戻らないとは…どこへ行っていたんだ!」
「領地を見に行ったんだ。よく整備されたいい町だな。明るく清潔で領民達もとても穏やかだ。皆シリルのおかげだと褒めていたよっ…とまた余計なことを言ったかな?私はどうも、気が利かないらしいすまない」
「…僕は彼らの税で生きている。彼らに尽くすのは当たり前のことだ!!」
「そうだな。私が無礼だった。だが、町のあちこちにシリルの心配りが溢れている様で私は少し感動したんだ。だからついね。」
そう、ついだ。ついまた地雷を踏んでしまった様なので、早く彼を解放してやろうと直ぐに自分の部屋の扉を開けるそして、「嫌な思いをさせるつもりはなかったよ」と伝えて部屋に入る。ドアを閉めるもすぐにコンコンとノックをされる。
「なんだ?何か困っているのか?」
少しだけ扉を開けてノックに応答すると、ものすごく小さい声でシリルが呟く。
「食事は?」
「町でとってきたので心配無用だ。」
そう伝えると何故かシリルは傷ついた様な泣いている様な顔をして「じゃあいい!」とだけつげて自分の部屋へと帰って行った。我々は一応結婚する仲だ。部屋は隣同士である。お互いの部屋の中にある続き扉は固く閉ざされているが。
部屋のシャワールームで体を清めてベットに入る。
辺境では一晩中城壁に火を灯しているのでうっすらと明るい。横になって窓の方を見ると空に青白い星が輝いているのが見えた。
つい、近くで見たくなって小さなバルコニーに足を向けた。少し肌寒いがそのおかげで空気が澄んでいて空がよく見える。
ふぅ、とため息をつくと息が白く曇る。
無駄に長く伸ばした髪からぽたりと水滴が垂れる。
「夜は嫌い?随分冴えない顔をしている」
すぐ隣のバルコニーで息を殺してこちらの様子を伺っていたシリルに声をかける。
げっ!と小さな悲鳴を上げているところを見ると夜ではなく私が嫌いなようだ。
「嫌いじゃない」
小さな声だが、確かにシリルはそう答えた。
「そうか。私は嫌いだ。眠りについたまま消えて無くなってしまいそうで。」
ここへきて初めて彼がまともに答えてくれた。それなのに私は気の利かない返をしてしまった。
「…夕食を…」
「ん?」
「夕食を用意して…いた。君の分も」
「シリルが作ってくれたものだったら美味しかったろうに。食べたかったな」
あぁ、怒っていたのは食事時に私が帰らなかったからか。せっかく用意したものが無駄になってしまったから、怒ったのか。
「…明日の朝も何か作る」
私はシリルの横顔をじっと見つめたまま彼の小さな声に耳を傾ける。決してこちらを見ようとはしない、伏せ目がちな目線は決して私の姿をうつそうとはしない。
「シリル!!」
シリルをじっと見つめていると、彼の向こう側に見える空の星がすうっと落ちてきた。遥か彼方に弧を描いて消えていった。
火矢か、はたまた弾丸か…
思わずバルコニーの手すりに足をかけてシリルの元へ飛び移ってしまった。
「あ…ああああ!あれは流れ星だ!そんな事も知らないのか?!」
「流れ星?」
「あぁ、願い事を唱えると叶えてくれるんだ…あっ!いや…」
「へぇ、それは面白い。それで?唱え方は?」
「…」
シリルはもともと大きな瞳をスッと見開いてこちらをじっと見ている。聞いちゃいけない事だったのだろうか?一子相伝の秘術とか??
「秘密か?何か特殊な戦法でもあるのか?うーん…」
「男がそんな話をするなんて女々しくて気持ち悪いと。僕の友達だった者たち、皆が言う」
「はは、皆とは?どこの皆だ?人の話を笑うとは、随分と可愛らしいお友達だな。私はその話、興味がある。流れた星は、どこに辿り着くんだ?どうやって願いを叶えてくれる?」
「…昔読んだ本に書いてあった。星が落ちる前に願いを唱えられるとその願いが叶うんだと。」
「ふーん…やってみようかな!よし、シリル流れ星が出たらおし…あ!ほら流れた!だめだ。早すぎる」
もういっそ、あの星の到着地点を割り出して拾いに行くしかないな。そんなことを考えていると、シリルがクスリと笑った気がした。
シリルの部屋のバルコニーにある椅子に腰掛けたまま、しばらく空を見た。そのまま、気がついたら朝になっていた。いつのまにか暖かな布団が何枚もかけられていて、隣にはシリルが一緒になって布団に巻きついている。
屋敷の者たちに気がつかれる前に慌ててシリルをベットに運び込む。そのままバルコニーをつたって自室にもどる。
結局流れ星に願い事を唱えることはできなかった。
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感謝です*.*
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