愛のない結婚を後悔しても遅い 離縁を望まれたスパダリ令嬢、溺愛の限りを尽くしたら孤独な公爵令息に懐かれすぎています

空橋彩

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63.アレキサンドライト視点

スイに会えた嬉しさはもちろんある。今すぐそばに行って手を取りたい。そうしたら君はいつものような迷惑そうな笑顔で俺をあしらってくれるだろうか。
それとも、冷ややかな目で俺を見つめて反応もしてくれないだろうか。

俺は怖い。シーラをまた彼女から奪ってしまうかもしれない。そして嫌われるのがこわい、嫌われるくらいなら忘れられたいとすらおもっている。


「殿下?」


スイが話しかけてくれているのに、返事も返さずボーッと考え込んでしまった。しかもきっと物凄く、顰め面をしていただろう。
スイが不思議に思ったのかもう一度問いかけてくれた。
スイの言葉にハッとして意識を取り戻すと不安そうな顔をしてこちらの様子を伺うスイと目があった。

ちなみに、スイの後ろに立っているシーラからは信じられないほどの殺気が放たれている。部屋の前を通る兵士達がガタガタと震えているくらいだ。


「その…今、立て込んでいて…話をしている時間がないんだ。」




シーン、と部屋の物音が一切なくなった音がした。おかしな言葉かもしれないが、本当にシーンと耳鳴りがするほどの静寂が訪れた。



「わたくし、お邪魔をしてしまったという事ですわね。ふふ、申し訳ございませんでしたわ。先触れもださず…と…殿方をたず…訪ねるなんて。はしたない…ですわね。」



ポロポロとスイの瞳から涙が溢れた。しまった!と思った時には遅かった。彼女は踵を返してものすごい速さで執務室を飛び出した。
追いかけようと足を踏み出すも、一瞬、入り口を塞がれてたじろいでしまった。シーラに。激怒の。


「あの子は、やっと勇気を出したんだ。お前を…お前を切り刻んでやりたい!!!!!」


そう言ってからシーラもスイの後を急いで追った。
俺はなんてことをしてしまったんだと思って慌てて追いかけた。門の所に着いた時にはすでに遅く、スイの後ろ姿さえも見えなかった。


「もう追いつかないぞ。アサギが乗せてやったみたいだ。さぁ、歯を食いしばれ、この、ヘタレクソヤロウ」


「アサギに?あんなドレスでどうやって跨ったんだ?!今追いかければ間に合…」


ドカッ!!!後ろからそっと近寄ってきたシーラの方に体を向けた瞬間に鉄球のような重いパンチが腹に食い込んできた。


「私の作ってもらった制服と一緒で、真ん中で分かれているんだろう。馬に跨るくらい簡単にできる。おい。何を地面を舐めているんだ。立ち上がれ。もう何発か入れてやる」


門番の兵士が慌ててシーラに駆け寄り、俺を殴ろうとするのを止めている。シーラが腕を振れば、2、3人の兵士は簡単に吹っ飛んでいった。すでに10人ほどの兵士が集まってきたところで、吹っ飛んだ兵士に「おやめください!お願いです!!」と懇願されてシーラはやっと止まった。



「見損なったぞ。見損なった!!!」


二回も同じ事を言った。よっぽど怒っているんだろう。俺はグッタリとそのまま地面に座り込んだ。
そして、みっともなく泣きべそをかいてしまった。


「だって!!スイの宝物を俺は!奪ったんだ。今回は良かったけど、今度は?その次は?!俺は…もうあの子を傷つけたくない!!」


「歯ぁ食いしばれぇ!!!」

シーラが再び暴れ出した。もう、殺されてもいいかもしれない。そう思って大人しく頬を差し出した瞬間に、オレンジのような爽やかな香りが鼻をくすぐった。
フワッとシーラの拳の風圧だけを感じ、恐る恐る目を開けるとそこには悲しそうな顔をしたシリルがいた。

暴れ女と化したシーラも大人しくなっていた。
シリルがそっと手を差し出したので、土で汚れたままの手を重ねると優しく立たせてくれた。
その優しさがものすごく心に染みた。

「殿下、だから言ったでしょ?憐れまないで欲しいって。謝らないで欲しいって。」


「いや、それは…」


「僕たちはシーラを愛しているんです。どんな事があっても信じているし、受け入れる覚悟をしている。その上で愛してるんだ。その思いを無駄にしないで欲しいって事なんですよ。」


シリルはニコッと笑った。ほんの少しも怒りは感じない。諭すような、穏やかな口調。シリルはいつもそうだ。
春の風のように気持ちよく、話をする。


「恋する乙女の決意をなめたらいけない。戦えない分、心は強いですよ。」

そう言って、少し強めに背中を叩いた。

スイ…スイに会いたい。俺は急いで軍馬を取りに走った。シーラは一言、「ばかもの。」と呟いた。
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