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王家の秘密
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「なあ、お前、平民だろ?」
ジャラ、と鎖の音を響かせながら牢屋の中の人物が声をかけてきた。毒と怪我の後遺症で少し足を引きずっている。
「俺を逃がしてくれれば金をやる!ここからだせ!逆らうとお父様に言いつけてお前の家族をみんな酷い目に合わせるぞ!」
ズリズリと足を引きずってやっと鉄格子まで辿り着いた奴は私とアーサーに手を伸ばしてそう命令した。懲りない奴だ。ここまで根性が腐ってしまってはもうダメだろう。
「相変わらずの様だな。ノートン」
地下牢、といってもこの国の地下牢は床には板が敷いてあるし、窓が個室になくても通路にはいくつかある。
寝床も用意され、排泄する場所も低くはあるが板で目隠しをされている。
手洗い出来る程の小さな桶は毎日水を変えて清潔だ。
他国では地下牢といえば、湿った洞窟の様な、劣悪な環境な事が多い。
この恵まれた地下牢で奴はまるで反省もせずに過ごしているらしい。私に声をかけられてグニャリと表情を歪ませる。
「お前!!お前のせいで俺がこんな目にあっているんだぞ!この国の貴重な公爵子息に対してたかだか辺境伯の娘がこんなことして許されると思ってるのか!!!」
激昂したノートンは力一杯鉄格子を掴みガシャンと勢いよく揺らす。手につけられた鎖が棒にぶつかって大きな音はしたがもちろん、びくともしない。
「お前はもう、公爵子息ではない。お前はキュア公爵家から除名され、平民にされているし、キュア公爵家は今代限りで取り潰しになることに決まった。」
「叔母上は責任を感じて修道院に入られる。お前の兄弟達も、平民となり生きていくために今、必死に働き口を探している。」
アーサーが苦しそうにそうノートンに告げる。それでも奴は眉間に皺を寄せ不満そうな顔をして私たちを見つめる。
「なぁ、俺の方が役に立つって、反省して一緒に辺境を守ってやるよ。俺は頭がいい、それに腕も立つ今回の事は水に流して…」
「そのセリフは加害者が言う言葉ではない。お前には罪を償う坂道はない。売国行為をした者がそう簡単に許されると思うな」
アーサーが私と奴の間に割りいって冷たく言い放つ。
危なかった。アーサーが出てこなかったら奴の首をへし折ってしまうところだった。拳につい、力を込めてしまった。
ノートンはそれでも、「俺は悪くない!」「何もしてない!」「あいつが悪いんだ!」と叫び続けている。
用事があるのはこいつではない。
私達は叫び続けるノートンを無視して更に奥にある独房に足を進める。
他の牢屋とは違い入り口が普通の部屋のドアぐらいしかなく、この部屋の周辺には窓はない。石造りの壁に囲まれて、ここに限り床も石で覆われている。
見張りの兵士が胸に手を当て私たちに挨拶をする。
「オトギリ、聞きたい事がある。」
アーサーが鉄格子でできた入り口に向かって声をかける。薄暗い個室の中からガサガサ、と音がする。
ヒューヒューと浅く、荒い呼吸音が少しずつ近づいてくる。
「なぁ、傷が治らないんだ。俺の目はどうなってる?」
ぼんやりと通路の電気で照らされた奴の顔は半分が包帯で覆われていた。清潔な包帯を巻いているはずだが、湿っていて見るからに痛そうではある。
しかし、自業自得である。あのナイフに毒を塗ったのは奴だ。粘膜部分(眼球)が毒にやられた事で治癒能力が追いついていないのだろう。
私が三日間も寝込んだ毒だ、相当強いはずだ。
アーサーがオトギリに穏やかに話しかける。
「さぁな。自業自得だろ。人を傷つけようとしたんだ、自分がやられても文句は言えないだろう」
「こんなはずじゃなかった。早く治してくれよ!わざとか?!あの女のせいでこんな風になったんだ!なぜあの女だけ許されるんだ?!俺は皇族だぞ?!あいつも捕まえろよ!連れてきてくれよ!!」
オトギリはどうも気が付いていないようだ、目の前に私がいるのに私を罰しろ、ここに連れてこいと文句を言い続けている。
「なぁ、お前の国にこう言う男はいるか?」
オトギリの言葉に構わずアーサーは一枚の姿絵を奴に見せる。その絵を見た途端にオトギリはニタリと、ねちっこく笑った。
「なんだ、親父が攻めてきたのか?だから言っただろ?俺にこんな事すれば帝国が黙っていないって!ざまあミロ!!!滅びろ!こんな国滅びてしまえ!!」
あははははは!とオトギリが壊れたように高笑いをした。
「やはり、帝国の者だったか。」
「それも皇帝に近い者。だけど、皇帝はオトギリを捨て駒にすることに決めたんだろう?なぜ今更?」
「わからない。急に惜しくなったか?でも現皇帝は自分の子供に慈悲を与える程優しくはないはずだ。おい!オトギリ!こいつは誰なんだ!」
今だに高笑いをつづけるオトギリにアーサーは少し怒ったように声をかける。
「言うわけないだろう。せっかく助けが来たんだ!邪魔したら助からないじゃないか!」
流石にそこまで馬鹿ではないらしい。オトギリはニヤニヤと笑いを浮かべたまま独房の中へと戻っていった。
「無理にでも吐かせるか?」
アーサーが小さな声で呟く。
「帝国が、奴を欲しがっているなら無理はしないほうが良いだろう。“返せ”と言ってきた時に瑕疵があっても困る。銀軍の影を動かす。時間はかかるが、そちらの方が安全だろう」
私とアーサーは不気味な高笑いを背に地下牢を後にした。
ジャラ、と鎖の音を響かせながら牢屋の中の人物が声をかけてきた。毒と怪我の後遺症で少し足を引きずっている。
「俺を逃がしてくれれば金をやる!ここからだせ!逆らうとお父様に言いつけてお前の家族をみんな酷い目に合わせるぞ!」
ズリズリと足を引きずってやっと鉄格子まで辿り着いた奴は私とアーサーに手を伸ばしてそう命令した。懲りない奴だ。ここまで根性が腐ってしまってはもうダメだろう。
「相変わらずの様だな。ノートン」
地下牢、といってもこの国の地下牢は床には板が敷いてあるし、窓が個室になくても通路にはいくつかある。
寝床も用意され、排泄する場所も低くはあるが板で目隠しをされている。
手洗い出来る程の小さな桶は毎日水を変えて清潔だ。
他国では地下牢といえば、湿った洞窟の様な、劣悪な環境な事が多い。
この恵まれた地下牢で奴はまるで反省もせずに過ごしているらしい。私に声をかけられてグニャリと表情を歪ませる。
「お前!!お前のせいで俺がこんな目にあっているんだぞ!この国の貴重な公爵子息に対してたかだか辺境伯の娘がこんなことして許されると思ってるのか!!!」
激昂したノートンは力一杯鉄格子を掴みガシャンと勢いよく揺らす。手につけられた鎖が棒にぶつかって大きな音はしたがもちろん、びくともしない。
「お前はもう、公爵子息ではない。お前はキュア公爵家から除名され、平民にされているし、キュア公爵家は今代限りで取り潰しになることに決まった。」
「叔母上は責任を感じて修道院に入られる。お前の兄弟達も、平民となり生きていくために今、必死に働き口を探している。」
アーサーが苦しそうにそうノートンに告げる。それでも奴は眉間に皺を寄せ不満そうな顔をして私たちを見つめる。
「なぁ、俺の方が役に立つって、反省して一緒に辺境を守ってやるよ。俺は頭がいい、それに腕も立つ今回の事は水に流して…」
「そのセリフは加害者が言う言葉ではない。お前には罪を償う坂道はない。売国行為をした者がそう簡単に許されると思うな」
アーサーが私と奴の間に割りいって冷たく言い放つ。
危なかった。アーサーが出てこなかったら奴の首をへし折ってしまうところだった。拳につい、力を込めてしまった。
ノートンはそれでも、「俺は悪くない!」「何もしてない!」「あいつが悪いんだ!」と叫び続けている。
用事があるのはこいつではない。
私達は叫び続けるノートンを無視して更に奥にある独房に足を進める。
他の牢屋とは違い入り口が普通の部屋のドアぐらいしかなく、この部屋の周辺には窓はない。石造りの壁に囲まれて、ここに限り床も石で覆われている。
見張りの兵士が胸に手を当て私たちに挨拶をする。
「オトギリ、聞きたい事がある。」
アーサーが鉄格子でできた入り口に向かって声をかける。薄暗い個室の中からガサガサ、と音がする。
ヒューヒューと浅く、荒い呼吸音が少しずつ近づいてくる。
「なぁ、傷が治らないんだ。俺の目はどうなってる?」
ぼんやりと通路の電気で照らされた奴の顔は半分が包帯で覆われていた。清潔な包帯を巻いているはずだが、湿っていて見るからに痛そうではある。
しかし、自業自得である。あのナイフに毒を塗ったのは奴だ。粘膜部分(眼球)が毒にやられた事で治癒能力が追いついていないのだろう。
私が三日間も寝込んだ毒だ、相当強いはずだ。
アーサーがオトギリに穏やかに話しかける。
「さぁな。自業自得だろ。人を傷つけようとしたんだ、自分がやられても文句は言えないだろう」
「こんなはずじゃなかった。早く治してくれよ!わざとか?!あの女のせいでこんな風になったんだ!なぜあの女だけ許されるんだ?!俺は皇族だぞ?!あいつも捕まえろよ!連れてきてくれよ!!」
オトギリはどうも気が付いていないようだ、目の前に私がいるのに私を罰しろ、ここに連れてこいと文句を言い続けている。
「なぁ、お前の国にこう言う男はいるか?」
オトギリの言葉に構わずアーサーは一枚の姿絵を奴に見せる。その絵を見た途端にオトギリはニタリと、ねちっこく笑った。
「なんだ、親父が攻めてきたのか?だから言っただろ?俺にこんな事すれば帝国が黙っていないって!ざまあミロ!!!滅びろ!こんな国滅びてしまえ!!」
あははははは!とオトギリが壊れたように高笑いをした。
「やはり、帝国の者だったか。」
「それも皇帝に近い者。だけど、皇帝はオトギリを捨て駒にすることに決めたんだろう?なぜ今更?」
「わからない。急に惜しくなったか?でも現皇帝は自分の子供に慈悲を与える程優しくはないはずだ。おい!オトギリ!こいつは誰なんだ!」
今だに高笑いをつづけるオトギリにアーサーは少し怒ったように声をかける。
「言うわけないだろう。せっかく助けが来たんだ!邪魔したら助からないじゃないか!」
流石にそこまで馬鹿ではないらしい。オトギリはニヤニヤと笑いを浮かべたまま独房の中へと戻っていった。
「無理にでも吐かせるか?」
アーサーが小さな声で呟く。
「帝国が、奴を欲しがっているなら無理はしないほうが良いだろう。“返せ”と言ってきた時に瑕疵があっても困る。銀軍の影を動かす。時間はかかるが、そちらの方が安全だろう」
私とアーサーは不気味な高笑いを背に地下牢を後にした。
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