魔王が最弱でスライムが最強の世界!?

クソニート

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第4章最弱魔王は勇者のために頑張るそうです

第98話 魔王VS人間の集団

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「俺が魔王だが……何か用か? 下等生物の人間共」

 サタンは出来るだけ魔王ということを演じた。

 1…10…100…100以上、か……

 サタンはその大勢いる人達を睨む。その中にはサタンの見覚えがある顔があった。

 アイツ等は――

 それは、この世界で初めてサタンを殺した三人の男。いきなり襲ってきて、サタンを殺し、アズラに乱暴しようとしたやつ達だ。

 その三人の男はメルに魔王の話をした後、ガドレアルにも伝えた。しかし、ガドレアルからその事を口外するなと言われずっと黙っていたのだ。

「何か用だと……? ふざけるな! 魔王というお前が誕生したことでこちらの生活は恐怖に怯え、夜もまともに寝られない者達がいるんだぞ! 分かっているのか!」

 一人の者が言い出すと、そうだそうだと続く。

「一人だと何も出来ない下等生物共が……そんな事、俺が知ったことじゃねーよ」

 一人だと何も出来ないのはサタンも同じこと。しかし、弱気は見せない。見せられない。このまま強気で押しきる――!

「知ったことじゃねー……だと……? 俺達は自分達で安心できる生活を取り戻すんだ! そのためにはお前が邪魔だ、魔王!」

「は……安心したいならこのまま帰れ! 俺に殺されない内にな……!」

 殺意を表すも、殺す気などサタンにはない。向こうは殺す気満々であるが。

 このまま帰ってくれ……! 俺が何をしたって言うんだよ? 何もしてないだろ! 俺に戦わせないでくれ――

 しかし、サタンの思いも虚しく叶わない。

「いいや、確実に安心するために魔界を滅ぼす! いくぞ、お前達!」

 剣と拳、それに言葉を掲げてサタンに向かって突っ込んでいく。

「チッ……」

 サタンは舌打ちをして迎えにいく。魔力を感じ、すぐに変身《マキシム》出来るよう頭の中には自分の中にいる悪魔の姿を思い描いておく。

「いいか、城の中にも仲間がいるかもしれない! 一匹逃さず見つけたら殺せ!」

「仲間は確実にいる。いい女が城の中にいるはずだ。探せ!」

 初めてサタンを殺した男はアズラの存在を知っている。あの時、盛大にサタンに殴られた恨みから、アズラの存在を打ち明ける。

 お前達は本当にウザい存在だな……次は命がないと言っただろう!

 先ずは、魔柱72柱――〈蛇の悪魔・アンドロマリウス〉を思い浮かべ、体に蛇の鱗を纏わせる。

「な、なんだ!? 姿が変わったぞ!」

「気にするな! 怯まずいくぞーーー!」

 サタンは右手に魔力を込め――

「久し振りだな……お前達だけは容赦しない――っ!」

 初めてサタンを殺した三人の男の前に立ち、動きが止まる三人の頭を――

「魔王パンチ――ッ!」

 上から叩き込んだ。グラグラとする意識。目を回し、そのまま倒れる三人。一瞬過ぎる出来事に立ち尽くすむ者も現れるが――

「怯むな……イケェーーー!」

 サタンに向けて武器を――拳を――掲げて勇敢に向かっていく。

「……ッ、ウラァァァァァァ――!」

 サタンも同じように、向かってくる人達に突撃した――。


 ◇


 サタンが魔界で一人戦っている頃、リエノア村では――

「サタンさん……」

 サタンを想い、アズラが夜空を眺めていた。

(きっと今頃サタンさんは一人で――)

 やはり、行かなくては――アズラは思い立って、魔界へ向かおうとする。

「アズラ~いつまでも外にいたら風邪をひきますよ。そろそろ、中に入って下さい」

 家からアズラを心配したメルが出てきた。濡れた髪を拭くためのタオルを肩にかけ、風呂を上がったばかりの体は少し火照っている。

「あ……」

 アズラは魔界へ向かおうとするところをメルに見つかり間抜けな声を出した。

「どこへ行こうとしてるんですか……って聞かなくても分かります。ダメですよ。サタンに言われてるでしょう」

 メルにはアズラがしようとしている行動が分かった。何故なら、自分も今すぐ魔界へ向かいたいからだ。アズラの考えが分かる。

「で、ですが……」

「サタンから、危険に晒したくないと言われてアズラもここに来たのでしょう。だったら、今はここにいないとですよ――」


 ――三日前、アズラはやはり、メルよりも早くリエノア村に着いた。そして、ラエルと出会った。ラエルは驚いていたが事情を話すと納得し一緒に住もうと提案した。当然、住む場所がないアズラにとってはありがたい話であり、頼むしかなかった。

「なっ……どうしてアズラがここに?」

 泣きながら帰ってきたメルは普通に家にいたアズラにキョトンとした。アズラはラエルに話したようにサタンから言われて来たということを話した。

 メルは涙を拭いながらアズラの話を受け止めた。

「じゃあ、住む場所が変わっただけで、生活は変わりませんね」

 少し元気が出たのか、笑いながら口にするメルにアズラも笑って答えた。

「ふふっ、そうですね。また、よろしくお願いしますね」

「ええ。こちらこそ」


「――約束したじゃないですか。サタンを信じて待つ、と。朝までの辛抱です……」

「そう、ですね……」

 アズラはワープを消すと小さく呟いた。分かってくれたと思ったメルは髪をタオルで拭きながら家に入っていく。アズラも続いて家に入った――。


「チッ……キリがねぇ……」

 サタンが倒しても倒しても立ち向かってくる人間界の者達。その姿はさながら、最後の敵である魔王を討ち滅ぼすために全力を注ぐ勇者のよう。

 けど、敗けてなんかいられねーんだ――っ!

 サタンは絶対に諦めない。一人であっても、戦力差がかけ離れていても敗けられない。

 アズラのために……メルのために……ラエルさんのために……魔王は独りだと思わせるために!

「敗けてなんかいられね――ッ――!?」

 サタンが一人の相手を蹴り飛ばした時だった。

「そこまでだ! 覚悟しろ、魔王――ッ!」

 突如としてサタンを囲むように周囲から立ち昇る円栓状の火柱。

「ッハ……」

 喉が熱い。焼ける……息が……

「蒸し焼けろ――炎の竜巻ブレイズ・トルネード――!!」

 火柱の中の温度はさらに上昇し、サタンの肌を焼き焦がしていく。やがて、火柱が消え、焼死体のサタンが横たわり現れる。

「ハハ……ハハハハ……やった、やったぞ! 魔王を殺した! 俺達の勝利だァ――!」

 火柱を起こした男は焼け死んだサタンを見て勝利を確信し高らかに笑う。そして、その笑いに続き、絶えることのない勝利の雄叫びが上がった。

「――ウルッセェ……」

 否、サタンの発した重い一言が周囲を黙らせる。勝利を確信した者の心を打ち砕き、恐怖に震え上がらせる。

「アッツイだろうが――!」

 元気よく起き上がり、片足で地を蹴り、もう片方の足で火柱を起こした男を蹴り飛ばす。

「ク……ッソガーー! かかれ、かかれーーー!」

 やられた仲間の仇を討つために再び立ち上がる人間。サタンの四方から一斉に剣を振り下ろす。四方に斬り裂かれるサタンの体。しかし、それは泡沫のように消える。

 実感がない四人の人間。首を動かし魔王の姿を探す。その瞬間、四人を頭から火が襲った。熱い、熱いと喚きながらのたうち回る。残っていた人間は火がきた方向へ目を向ける。

「上だ!」

 一人が叫んだ瞬間、降り注ぐ日の玉の数々が人間を襲う。日の玉を独自でくぐり抜け、凌ぐ。そして、事態が収まり、まともに上を見上げた時、既にサタンの姿はまた変わっていた。

 クソ……一回……!

 サタンは火柱の中で焼け死んだ。そして、起き上がり、蹴り飛ばした直後に力を使った。魔柱72柱の悪魔――“多顔の悪魔・ダンタリオン”の力を。
 さらに、残像を残すと気づかれない内に空へ飛び、魔柱72柱の悪魔――“狼の悪魔・マルコシアス”を思い浮かた。蛇の尾を生やし、掌を下へ向ける。そして、日の玉を作り、放った。

「まだまだ……いくぞ――!」

 サタンは急降下し、人間達に立ち向かう。剣を構え直す人間達。両者は再び真っ向からぶつかった。


 ◇


「ハァハァ……こ、今度こそ――今度こそ魔王を倒したぞーーー!」

「我々の勝利だァーーー!」

 ウォォォォォォオオオ―――ッ!

 再びの勝利の雄叫びを上げ、剣や拳を高らかに空へ突き上げる。人間達のすぐ側には傷つき倒れたサタンがいた。かろうじて意識はある。だが、戦う気力は残っていない。

 あれから、サタンは四度殺された。体全身を凍らされ、凍死。体に射ち混まれた針から出る、耐性のない毒による毒死。剣で体を斬られ一回、無数の弓撃ちにより一回。

 訂正だ。戦う気力が残っているないのではない。戦おうとしても、生き返る度に入ってくる魔力が多く、思うように体が動かせないのだ。

「あとは、仲間がいないかの確認だ。そして、城を破壊する。それでも完全勝利だ!」

 人間達は土足のまま魔王城へ踏み入れる。しかし、どれだけ探しても仲間がいたという痕跡は出てこない。

「おい! 仲間をどこに隠した!?」

「仲間なんて……いない……」

「そうか……ならば、城を壊せ!」

 魔王城に一斉に火を放つ。さらに、地の能力で魔王城に亀裂を次々といれる。崩壊していく魔王城。その光景を目の当たりにし――

「や、めろ……」

 俺達の居場所を壊すな……!

 サタンは止めるため、体をずるずると這いずっていく。
 しかし――

「死ね――雷の楽送――ッ!!」

「ガァァァァァァ……――」

 天から落ちた落雷により、サタンは死んだ。体を走る電流。焼ける肌。止まる心臓。意識は遠退き、なくなった――。

 結局、この戦いは死者一人を出した結末で人間の勝利となった。


(メルさん、ごめんなさい。約束を守れなくて……ですが、私はサタンさんのことが――)

 やはり、サタンのことが心配で寝つけなかったアズラ。メルとラエルが寝静まると静かに家を出て、リエノア村を発った。

(ワープは使えません……もし、戦いの最中の場合サタンさんは私を庇うでしょう。それで、大切な命を失ってほしくありません!)

 だから、アズラは歩いて魔界へ向かっていた。暗がりは怖い。しかし、大切なサタンが魔界にいる。行かなければ――。
 すると、すぐ側の草むらからガサゴソと物音が聞こえた。

「ヒッ……」

 恐怖に目を涙で潤ませ、ウルウルとしながら音がする方を見る。出てくるのは人か獣か化け物か――。

 しかし、アズラの目に飛び込んできたのは予想を大胆に外すものだった。


「カッ……!」

 久し振りのこの感覚。今日はいっぱい死にすぎたのか、サタンが目覚めるのにいつもより時間がかかった。死んだ時に見る、あの光景のことも覚えていない。果たして、新たな魔柱72柱の悪魔と会ったのか否なのか。

「今は、そんなことよりも……」

 倒れたまま顔を上げる。頬についた砂がパラパラと落ちていくが気にもならない。

「あ……あ……」

 目の前には瓦礫の山となった魔王城の残骸だけが残されていた。絶望にひしめくサタン。自分のせいだと責める。大切な居場所を守れなかった、と――。

 そんな、サタンの姿を遠くから見ている者がいた。本当に魔王は死んだのかと確認するために人間達が帰った後も一人、木の影に隠れてじっと動かなかった者が。

 しかし、ソイツはいち早く気づいた。奥から魔界に歩いて来る足音がすると。そして、その正体を確認すると一目散に魔界から離れた。


 砂利を踏む足音が聞こえサタンはやけくそに音のする方へ首を動かした。

「なんだ……まだ、残ってたのか――ッ!」

 人間にいい加減しつこいと思うサタンは目を見開き固まった。歩いて来たのは憎い人間等ではなく、いつもの姿だったからだ。腕に青色の毛並みをした猫を抱いている悪魔の姿。

「ア、ズラ……」

「サタンさん……」

 サタンが生きていることにホッとしたアズラは腕からアオニャンを降ろすと急いで駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」

 サタンの体を優しく支えながら起こすアズラ。起こされたサタンは弱々しく尻をついた。なんだか、座るのも久し振りな気がする。

「あ、ああ……それよりも、どうしてここに……」

「歩いている途中にアオニャンを見つけまして連れて来たのです!」

 草むらから出てくるのに恐怖していたアズラは出てきたのがアオニャンだったことに胸を撫で下ろした。そして、足に顔を擦りつけていたアオニャンを抱きながら一緒に魔界まで戻って来たのだ。

「アオニャンがいてくれて助かりました。一人だと何回泣いていたか……」

 少し照れた様子で話すアズラ。しかし、サタンはそんなアズラを一切見ずに下を向いたままだった。

「違う……俺が聞いてるのはなんで帰ってきたかを聞いてるんだ……!」

「サタンさん……」

 サタンの頭はゴチャゴチャになっていた。

 本当はこんなこと言いたいんじゃない。分かってる。アズラは俺を心配して帰ってきてくれたんだと……けど――

 人間に何度も殺され、大切な居場所さえも守れない自分の弱さに腹を立てた。

「答えろ、アズラ。危ないって言ってただろっ――!」

 サタンは単に八つ当りをしていた。どこにもぶつけることの出来ない苛立ちを自分のために怖いなかを帰ってきてくれたアズラにぶつけていたのだ。そして、思う――本当に情けない魔王だと。

「何度も言わせないで下さい……そんなのサタンさんが心配だからに決まってるじゃないですか!」

 やはり、そうだ。何度聞いても答えはいつもと変わらない……いつも俺を心配してくれている……

 サタンは分かっている。しかし、分かっているからこそどうにもならない。

「私がサタンさんと離れている間どれだけ心配したか分かりますか!? 少しは私の思いも知って下さい!」

「そんなの分かってるよ! けどな、俺だってアズラが心配なんだよ! 俺といたら確実に危なかった。だから、一人で戦って死んだ方がいいに決まってるって思っ――」

 何かがぶつかるようないい音が鳴り響いた。サタンの右頬は赤く腫れていく。

「ひ、一人じゃありません! 一人で戦って死んだ方がいいなんて二度と言わないで下さい!」

 珍しく怒ったアズラはサタンの右頬をビンタしていた。涙を流しながら、か弱い腕で精一杯に力強く叩いた。

 サタンには今の一撃が今日受けたどの攻撃よりも痛いと感じた。ジンジンと頬が痛むのではない、ズキズキと心が痛む。

「サタンさん……私達は独りではありません。サタンさんには私が、私にはサタンさんがいます。お互い、危なくなったら助け合えばいいんです。一人で背負わなくていいんです」

 ビンタした頬を優しく撫でながら語りかける。サタンへ手を上げたことによる恐怖で体が震えるが今はしっかりと伝えなければならない。この想いを――。

「サタンさんが魔王だからと言って逃げては駄目な決まりなどありません。逃げたって誰もあなたを責めません。だから、もう一人で戦って死んだ方がいいなんて言わないで下さい……お願いします……!」

 サタンの胸に顔を埋めながら泣く。体の震えが伝わり、その度にサタンの心臓は跳ね上げ、スーッと自分に感じていた苛立ちが消えていく。

 八つ当たりをしてアズラを泣かせた……それでも、俺のために怒って死なないでと言ってくれる……俺は本当に情けない魔王だ……!

 サタンは左手で自分の左頬をおもいきり殴った。口の中が切れ、血の味がする。

「サタンさん……!?」

 顔を上げ、キョトンとするアズラ。痛む口の中。苦い血を飲み込む。

「ごめん、アズラ……俺が悪かった。自分の弱さにどうにかしてんだ……本当にごめん」

 アズラの目についた涙を指で掬い上げながら何度も謝る。誰が見てもサタンが悪いこの喧嘩。

「こんな、弱くて情けない魔王だけどこれからも一緒にいてくれる……か?」

 照れながら弱々しく聞くサタンに胸の奥がキュット締めつけられたアズラは再びサタンの胸に顔を埋めた。そして、背中まで腕を回しながら答えた。

「もちろんです! 私はサタンさんと一緒にいます!」

 サタンは抱きつくアズラに戸惑いながらも恐る恐る同じように腕を伸ばし抱きしめた。思えば、これが、初めてのサタンの抱きしめ。今まで、アズラが抱きついてきたりしても一度も返していなかったサタン。

 しかし、今回は抱きしめ返してくれた。それが、アズラにとっては何よりも嬉しかった。しばらく抱き合った二人は離れると照れながら笑いあった。


 ◇


「ごめんな、アズラ……最後まで残っていた魔界としての大切な居場所だった魔王城を壊されて……」

 魔王城のかつてアズラが魔界の仲間達と過ごしてきた大切な居場所。そして、今はサタン、メル、ラエルにとっても大切な居場所だ。それを、意図も簡単に壊された。

 赦さない……必ず、いつか復讐にいく――!

 サタンは復讐を誓う。大切な居場所を奪った仕返しを。しかし、アズラは魔王城の瓦礫を優しく撫で、小さくお礼を言うと立ち上がった。

「大丈夫です、サタンさん。私達の魔王城は無くなってません!」


 そして、翌日――
 アズラのごめんなさいと書かれた置き手紙を起きて見たメルはいそいで魔界へと向かっていた。何を謝っているのかは言うまでもなく分かる。

 やがて、魔界に到着した。しかし、そこには既に二人の姿はどこにもなく、魔王城の瓦礫の山となった残骸だけが無痛にも遺されているだけだった。
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