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 「……なぜあなたがここに? ルーシー嬢」

 一時間後、ルーシーの目の前には戸惑いの表情を浮かべるカイルの姿があった。
 あれからルーシーは騎士たちが利用する仮住まいを訪れていた。
 ここは急な出立などに備えて騎士たちが寝泊まりをする、いわば騎士専用の宿泊所のような所であった。

 「以前父に聞いたことがありました。騎士様たちはご自宅とは別に、寝泊まりをする場所をお持ちだと」

 「そうか……とりあえず、立ち話もなんだ。入れ」

 カイルはルーシーをカフェテリアのような場所へ連れて行き、座らせる。
 席へ着くと、ルーシーはカイルの目を正面からまっすぐ見つめてこう切り出した。

 「まずは、謝らせてください。先日は大変失礼な事を致しました。あなた様は私の命を二度も救ってくださった、命の恩人ですのに。本当に申し訳ありません」

 そう言って深々と頭を下げるルーシーの姿を見て、カイルは慌てて頭を上げさせた。

 「いや、私の方こそあれから何も連絡もせずに、申し訳ない。あなたが謝ることはないのだ」

 「それから……これを」

 そう言って袋の中からジャケットを取り出しカイルに向けて差し出すと、彼は目を丸くした。

 「これは……てっきり無くしたかと思っていた。あなたが持っていてくれたのか」

 「すぐにお返しできず、申し訳ありませんでした。あの日あなた様に助けていただいたその日から、このジャケットが私の支えだったのです。ですがそれでは気持ちが前に進めません。今日、きちんとお返しいたします」

 カイルが少し戸惑った後に、ジャケットを受け取ったのを確認すると、ルーシーはホッと肩の力が抜けた。

 「それでは。私はこれで失礼致します。お忙しいところを申し訳ありませんでした。お元気で」

 精一杯の微笑みをカイルに送り頭を下げると、くるりと背を向けて入り口のドアへ向けて歩き出す。

 ……と、その時。

 「待て」

 不意に後ろから手首を掴まれる。
 驚いて振り向くと、眉間に皺を寄せ苦しそうな表情をしたカイルの姿が。

 「あなたに話しておきたいことがある」


 カイルに引き止められたルーシーはそのまま手首を引っ張られる形で、困惑しながらも再び先ほどの席に戻った。

 「……それで、お話とは? 」

 実を言うとあのまま帰ってしまいたかった。
 ただでさえ無理矢理笑みを浮かべて別れを告げたと言うのに、これ以上彼と一緒にいてはまた涙が溢れてしまうかもしれない。

 「……あなたにずっと黙っていたことがある。アルマニア公爵家と王家の間に起きている事についてだ」

 そこからカイルが話した内容は、ルーシーにとって信じ難く驚くべきものばかりであった。

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