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 「エスメラルダ、庭へ出るなどそんな危険なこと……頼むからずっと僕のそばに座っていておくれ……」

 「フィリップ様、私とてたまにはお外の空気が吸いたいのです! いつもいつもお城の中ばかりで……息が詰まりそうですわ」

 ああ、もう嫌になる。
 最近毎日顔を合わせればこんな言い争いばかりだ。

 私エスメラルダはユーカリ国の王太子妃である。
 そして夫のフィリップ様は王太子で、未来の国王となる予定のお方だ。

 結婚してからの三年間、フィリップ様に無断で避妊魔法をかけられていたことが原因でお世継ぎに恵まれず。

 私は周囲の貴族達からの冷たい視線にさらされることとなった。
 結局下心を持った侯爵親子にフィリップ様が騙されていたことがわかり、私たちは和解の後に待望のお世継ぎを懐妊したのだけれど……

 「だってエスメラルダ、今の時期外は肌寒い。もし風邪でも引いてしまったらどうするんだ」

 「この前は、今はまだ暑さが残るからと仰っていたばかりですわ」

 「……ぐっ……それでも僕は心配なんだよエスメラルダ! 」

 全てがこの調子である。
 少しでも部屋の外に出れば無理は禁物だと部屋に戻され、庭に出ようものなら大反対される。
 どうしてもとお願いすると、フィリップ様の同伴でかつ十五分なら許された。
 でもそれもいつのことであったか……

 とにかく、毎日自分の部屋に押し込められて息が詰まりそうなのだ。
 子どもが生まれたら今のように自由には動けなくなるだろう。

 ……もはや今ですら自由は無いけれども。
 体的には身軽なはずの今のうちに、好きな事をしておきたいのだ。
 その気持ちをフィリップ様は全くと言っていいほど理解してくれない。

 以前無断で避妊魔法を使用していたことが明らかになった際に私が離縁をチラつかせて以来、フィリップ様は私から離れることを極端に恐れるようになっていた。

 常にどこにいて何をしているのか、私の行動を把握していないと不安になるらしく。
 執務がひと段落するたびに私の様子を確認しにきては、少しでもその姿が見えないとこの世の終わりのような顔で探し回っているという。

 そんなフィリップ様のことが大切なお方であることには変わりはないのだけれど。

 「なんだか疲れてしまったわ……」


 そんな折、実家であるメイフィールド公爵家から手紙が届いた。
 久しぶりに上の兄二人が帰宅するため、私も実家へ遊びに来ないかという誘いである。 

 私には兄が四人いて、歳が離れた上の二人の兄とはもう数年会っていない。
 皆揃いも揃って私に甘いのは同じなのだけれど……
 幼い頃から大好きだったお兄様たちに会って気分転換がしたくなった私は、早速フィリップ様にその事をお話しした。
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