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 「なんだって!? ダメだよエスメラルダ、それは許可できない」

 案の定、フィリップ様は首を縦には振ってくださらない。
 薄らわかってはいたものの、私は落ち込んだ。

 「ああ、エスメラルダそんな顔をしないでくれ……僕だって君を行かせてあげたい。だがメイフィールドの屋敷への往復で何かあったらどうする? もし屋敷にいるときに産気づくようなことがあったら? 」

 「そんなに心配なら護衛をつければよろしいでしょう? それに、実家とて公爵家ですわ。万全の体制は整っております。私もお母様に出産のお話をお聞きしたいですし」

 「それならばお母上をこちらをお招きすれば良いだろう? 頼むエスメラルダ、もう産み月も近くなってくるんだ。これ以上僕を心配させないでくれ」

 その瞬間、私の中で我慢していた何かがプツリと切れたような気がした。

 「もう結構ですわ」

 「え、エスメラルダ……? 」

 「私のことを心配してくださっているように仰りますけど、実際は私のことを信じてくださっていないからでしょう? ご自分の不安を解消させたいだけなのでは? 」

 いつもなら我慢していたが、もう限界だ。
 次から次へとフィリップ様に言葉をぶつけていく。

 「大体、あなた様が心配なさるような原因を作ったのは、あなた様自身でございましょう!? 」

 「なっ……エスメラルダ……」

 「フィリップ様が元侯爵親子に騙されて、避妊魔法を無断で私にかけたことをお忘れですか? それも三年間も」

 「うっ……それは……」

 「あれから変わられたと思っておりましたが、やはりそう簡単に人は変わることができないようですね。失礼致します! 」

 私は転移魔法で自室へと飛んだ。
 そしてフィリップ様が続き扉からこちらへ入ってこれないように鍵をかけ、転移魔法も使えないように結界を張る。

 「エスメラルダ、エスメラルダ……僕が悪かったよ……君がいないと僕はダメなのに……」

 フィリップ様の叫ぶような悲痛な声が聞こえてきたけれど、今の私には逆効果だ。

 (泣きたいのはこちらの方ですわ)

 「リリー、私実家に帰りたいの」

 「そう仰るのではと思っておりましたよ」

 メイフィールド公爵家にいた時から私に仕えてくれているリリーは、ニッコリと笑って荷物をまとめる。

 「あの時とは違って、お荷物をゆっくりまとめることができて嬉しいですわ」

 「……そんなことよく覚えているわね」

 「ええ、エスメラルダ様の剣幕と言ったら……」

 クスクスと笑いながらリリーは素早く身支度を整える。
 リリーの言っているあの時とは、お世継ぎができないことを他の貴族令嬢に馬鹿にされた私がフィリップ様と喧嘩して、逃げるように実家へ転移魔法で飛んだ時のことである。

 「結局またこんなに喧嘩ばかりで……情けないわ」

 「エスメラルダ様は悪くありませんわ。フィリップ王太子殿下にはもう少し大らかなお気持ちを持っていただかないと。エスメラルダ様の息が詰まります」

 そうこうしているうちにリリーは荷物を纏めたようで、私はリリーを連れて実家のメイフィールド公爵家へと転移した。


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