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本編
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しおりを挟む「そうなのね……でもなぜそれが今回の件に繋がるの? 」
「アレックス様は、恐らくカリーナ様が未だにリンド様をお慕いしていらっしゃると思っているのでしょう。今回のリンド様の訪問も、ご存知だったのではないかと……」
聡いアレックスの事だ。
今回のリンドのこともお見通しであったと言うことか。
だからリンドがこの城の奥まで立ち入ることができたのだろう。
「ではなぜアレックス様はリンド様の立ち入りを許したというの? 」
カリーナがリンドの事を未だに少なからず思っていると知っていたならば、なぜ再会することを許したのか。
カリーナがリンドに絆されてアレックスの元を離れる可能性もあったかもしれないのに。
「アレックス様は、カリーナ様がリンド様の元へついて行かれるのだと思い込んでおります。それがカリーナ様の幸せならば、自分が身を引くお覚悟なのかと」
「だから、私とはしばらく会わないお覚悟をされているというのね……」
アレックスの無償の愛を今更になって思い知る。
アレックスとてカリーナの愛欲していると言うのに。
「私、アレックス様のところへ行くわ。お断りされても、何としてでも行くつもりよ。彼がどこにいるのか教えてメアリー」
カリーナの中で覚悟はできていた。
たとえ何を言われようとアレックスの元へ向かうと。
「アレックス様は、国王の執務室にいらっしゃるかと」
メアリーはそれ以上何も言わなかった。
カリーナはメアリーの見送りを背に、部屋を出て国王の執務室へと向かった。
「……なぜここへ来た!? 」
突然執務室へ現れたカリーナの姿を見て、アレックスは激しく狼狽した。
美しいエメラルドの瞳が溢れんばかりに見開かれており、このような彼の姿を目にすることは初めてだ。
カリーナはすぐにその問いには答えず、ゆっくりとアレックスの元へと近づく。
自身の執務室の机に向かって座っていたアレックスは、ガタッと立ち上がった。
「私が無理を言ってここまで来たのです。メアリーに非はありませんので、許してやってください」
カリーナが頭を下げると、アレックスが慌てて走り寄ってきた。
「頭を上げてくれ。そなたのその様な姿は見たくない」
そう言いながら、ゆっくりと頭を上げさせる。
「アレックス様、私……」
カリーナが口を開こうとすると、アレックスの表情が苦しげなものに変わった。
「言わないでくれっ……カリーナの口からその事を聞く勇気はない……だからそなたと距離を置こうとしたというのに」
「アレックス様、何の話をしているのですか!? 」
どうやらアレックスは何かを勘違いしているらしい。
両手で耳を塞ぐ様に頭を抱えたアレックスに、カリーナは戸惑う。
「今更何を……君が未だにリンドに惚れていることくらい知っている。あの首飾りを見ればな……。そしてリンドと共に城を出るであろう、ということも」
やはりメアリーの憶測は正しかったのだ。
アレックスはカリーナがリンドからもらった首飾りを大切にしまっている事を知っていたのだ。
その上でカリーナが未だにリンドの事を慕っており、リンドの迎えに応じたと思っているらしい。
「アレックス様、それは間違いなのです」
「何が間違いなのだ?そなたがあいつにもらった首飾りを大事に城へ持ってきて、ずっと手元に置いていた。それが真実であろう……」
私は……とアレックスは続ける。
「私はカリーナには幸せになってほしい。そなたは私が初めて心から愛した人だから。元はと言えば二人を無理矢理引き離したのは私だ。だからカリーナがリンドのことを選んでも、仕方がないと思っている」
カリーナの幸せはアレックスの幸せであるということだ。
初めて会った時からひたむきに向けられる愛情は、今も全く色褪せる事は無かったらしい。
カリーナは改めて知るアレックスのひたむきな想いと無償の愛に、胸がいっぱいになり言葉を失う。
「私のことは気にしなくていい。心配しなくても、リンドの事を罰したりはしないさ。そこまで狭量な男じゃない。だから……せめてもの優しさだと思って、もうこれ以上何も言わずに立ち去ってくれ」
アレックスはそう言ってカリーナに背を向けて俯いた。
いつもは自信に溢れて広く大きな背中が、今日は悲しそうに見える。
カリーナは思わずアレックスに駆け寄り、背後から抱き締めた。
きつく、きつく、離れていってしまわぬように両腕でしっかりとアレックスの背を包み込む。
「っ……カリーナっ!? 」
アレックスが突然の出来事に驚きカリーナの方を向き直した瞬間、カリーナはアレックスの顔を両手で包み込み、そっと触れる口づけを送った。
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