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 「それで? 進展はあったのか? 」

 宮殿の一角にある広大な執務室で、ルクスは険しい表情を浮かべながらシオンをジロリと睨んだ。
 普通の者ならば縮み上がるような恐ろしさであるが、幼馴染のシオンにとっては大した事は無い。
 彼はさほど気にも留めず、淡々と状況を説明した。

 「いや。特に無いね。一時はこちらが優勢になりかけたのだが……向こう側も一筋縄ではいかないみたいだ」

 「くそっ……早くしないと……」

 ルクスはソファの肘掛けを思い切り叩き、怒りを露わにした。
 貴族令嬢がその様子を目の当たりにしたならば、卒倒してしまうほどの威力がある。

 「別に、結果が出ないのはこれまでと変わっていないだろう? 」

 「それではいけないんだ。早く始末をつけなければ……」

 「ルクス……お前は何に焦っている? 」

 「何だ、急にそのようなこと」

 シオンは何を考えているかわからない瞳で、ルクスをじっと見つめた。

 「これまでのお前とは、明らかに何かが違う。まるで急き立てられているかのように見える」

 シオンの指摘に、ルクスは黙り込んだ。

 「エレノアがアルマンと結婚する事を、恐れているのか? 」

 「……それも一理ある」

 本音を言えばそれが大きな理由なのだが、さすがに一皇帝としてそれを口に出すことは憚られた。

 「今更何を誤魔化す必要がある。それが理由なのだろう? 」

 図星を突かれたルクスは黙り込んだ。
 幼馴染は全てお見通し。
 隠し事はできないらしい。

 「前にも言ったはずだが? 皇帝が、私利私欲でその判断を左右されるようなことがあってはならないと」

 「……つまりお前は何が言いたい? 」

 「エレノアの事は諦めろ。彼女とお前では、生きる世界が違うんだ。お前はサリアナと、エレノアはアルマンとそれぞれ生きていくのが一番良い」

 アルマンの名がシオンの口から出たその瞬間、執務室を取り巻く空気が凍りついたように冷たくなる。

 「シオン……お前、さっきから誰に向かって物を申しているんだ? 」

 「俺は今、皇帝の側近として物申しているわけではない。お前の幼馴染として話している」

 「お前にエレノアとのことを、あれこれ指図されたくはない。俺は彼女のことを諦めることはできない。彼女は俺の全てだ、人生だ。あの時彼女を突き放したことを、死ぬほど後悔している」

 「俺は諦めたぞ? 」
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