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それからルクスは頻繁にエレノアの元を訪れ、執拗なほどに彼女の体を抱いた。
次第に彼色に染まっていく体を見て、ルクスは嬉しそうだ。
毎日のようにつけられる所有の証は、跡が消える前に上書きされるので、消えることはない。
「婚約を結ぶ前にエレノアが孕んでしまったら、どうする」
と、シオンに難色を示されたが、ルクスには一向に響かない。
「孕めばいい。そうしたらもっと確実に彼女は俺のものだ」
すっかり恋に狂い頭がおかしくなっている幼馴染の姿に、シオンは呆れ返るが、第二側妃派との争いはこちら側が有利になりつつあったため、静観することとした。
エレノアが宮殿へと連れ去られてから二週間以上が経過して、ようやくエレノアの実家であるモンターン公爵家が、アルマンとの婚約破棄を決定したらしい。
エレノアに深い恋心を抱いていたアルマンの気の触れようは、ルクスの耳にも届いていた。
「あいつは俺を殺しに来るかもしれない」
エレノアの両親にも、アルマンにも、エレノアを連れ去ったのが誰であるのかは想像がついていた。
わざとらしく寝台に残されていた破瓜の証と乱されたシーツで、彼女の身に何が起こったのかは一目瞭然である。
その証を目にしたエレノアの両親は、婚約破棄はやむを得ないと、悟ったことだろう。
アルマンはモンターン公爵夫妻から直接の報告は受けていないものの、突然の婚約破棄の打診に狼狽し、激怒した。
そのような一方的な決定は受け入れることができないと父に抗議したのだが。
父からは、向こう側に結婚が不可能となる理由ができた、と顛末を伝えられたのだ。
そこで初めてアルマンは、エレノアがルクスに連れ去られたこと、彼女の体をルクスが奪ってしまったことを知った。
事実を知ったアルマンは、気が触れたかのように叫び、父を震撼させた。
なぜもっと早くエレノアを自分のものにしておかなかったのか、そればかりが悔やまれる。
婚約者の立場となれたことで、勝手に安心感を得ていたのかもしれない。
思い返せば彼女とは抱擁すら交わしておらず、結局その仲を深めることができていたわけではなかった。
ようやくそのことに気づいた時には、憧れの人は永遠に手の届かない人になってしまったのだ。
「くそ、絶対あいつを殺してやる」
アルマンの中で、ルクスに対する憎しみの炎が燃え上がり始めていた。
「今日は天気も良い。気晴らしに庭にでも出てはどうか」
昨夜部屋を訪れ、朝が来るまでエレノアを抱き続けたルクスは、去り際にそう告げた。
朝まで精を注がれ続けたエレノアは、午前中は起き上がることができず、昼過ぎにようやく布団から出ることができたのだ。
「ごめんなさい。だらしがないわね」
側仕えのミラにそう謝れば、ミラはにっこりと微笑み返す。
「仲がよろしいのは何よりですわ。エレノア様がこちらにいらしてから、皇帝閣下に活気が戻られました」
「仲がいいというわけでは……」
ないのだけど、と言いかけて口を閉じた。
よくわからないが、ルクスが悲しむと思ったのだ。
されるがままにルクスに抱かれ続けるうちに、彼に情のようなものを抱いてしまったのかもしれない。
「この後お庭へ出られますか? 」
宮殿へやってきてからというもの、食事もこの部屋で摂っておりほとんど外へ出ていない。
「そうね、気晴らしに」
ミラはエレノアの髪を三つ編みにして片側へ流すと、今日着るためのドレスを取り出す。
今日のドレスはエメラルドを胸元にあしらった、これまた豪奢なものである。
これもルクスが用意させたであろうことは、聞かずともわかっていた。
ルクスはその言葉通り、今度こそ死ぬまでエレノアを側に置いておくだろう。
狂おしいほどの愛をぶつけてくるルクスに対して、同様の愛情を向けることのできない自分は、彼の側にいない方がいいというのに。
知らず知らずのうちにルクスに再び惹かれつつある自分にも、嫌気がさしていた。
あれほど二度と人を愛することはないと、心に決めておいたというのに。
両親とアルマンを裏切り、ルクスにも正面から向き合えていない。
宮殿にも居場所はなく、エレノアの心は追い詰められていた。
次第に彼色に染まっていく体を見て、ルクスは嬉しそうだ。
毎日のようにつけられる所有の証は、跡が消える前に上書きされるので、消えることはない。
「婚約を結ぶ前にエレノアが孕んでしまったら、どうする」
と、シオンに難色を示されたが、ルクスには一向に響かない。
「孕めばいい。そうしたらもっと確実に彼女は俺のものだ」
すっかり恋に狂い頭がおかしくなっている幼馴染の姿に、シオンは呆れ返るが、第二側妃派との争いはこちら側が有利になりつつあったため、静観することとした。
エレノアが宮殿へと連れ去られてから二週間以上が経過して、ようやくエレノアの実家であるモンターン公爵家が、アルマンとの婚約破棄を決定したらしい。
エレノアに深い恋心を抱いていたアルマンの気の触れようは、ルクスの耳にも届いていた。
「あいつは俺を殺しに来るかもしれない」
エレノアの両親にも、アルマンにも、エレノアを連れ去ったのが誰であるのかは想像がついていた。
わざとらしく寝台に残されていた破瓜の証と乱されたシーツで、彼女の身に何が起こったのかは一目瞭然である。
その証を目にしたエレノアの両親は、婚約破棄はやむを得ないと、悟ったことだろう。
アルマンはモンターン公爵夫妻から直接の報告は受けていないものの、突然の婚約破棄の打診に狼狽し、激怒した。
そのような一方的な決定は受け入れることができないと父に抗議したのだが。
父からは、向こう側に結婚が不可能となる理由ができた、と顛末を伝えられたのだ。
そこで初めてアルマンは、エレノアがルクスに連れ去られたこと、彼女の体をルクスが奪ってしまったことを知った。
事実を知ったアルマンは、気が触れたかのように叫び、父を震撼させた。
なぜもっと早くエレノアを自分のものにしておかなかったのか、そればかりが悔やまれる。
婚約者の立場となれたことで、勝手に安心感を得ていたのかもしれない。
思い返せば彼女とは抱擁すら交わしておらず、結局その仲を深めることができていたわけではなかった。
ようやくそのことに気づいた時には、憧れの人は永遠に手の届かない人になってしまったのだ。
「くそ、絶対あいつを殺してやる」
アルマンの中で、ルクスに対する憎しみの炎が燃え上がり始めていた。
「今日は天気も良い。気晴らしに庭にでも出てはどうか」
昨夜部屋を訪れ、朝が来るまでエレノアを抱き続けたルクスは、去り際にそう告げた。
朝まで精を注がれ続けたエレノアは、午前中は起き上がることができず、昼過ぎにようやく布団から出ることができたのだ。
「ごめんなさい。だらしがないわね」
側仕えのミラにそう謝れば、ミラはにっこりと微笑み返す。
「仲がよろしいのは何よりですわ。エレノア様がこちらにいらしてから、皇帝閣下に活気が戻られました」
「仲がいいというわけでは……」
ないのだけど、と言いかけて口を閉じた。
よくわからないが、ルクスが悲しむと思ったのだ。
されるがままにルクスに抱かれ続けるうちに、彼に情のようなものを抱いてしまったのかもしれない。
「この後お庭へ出られますか? 」
宮殿へやってきてからというもの、食事もこの部屋で摂っておりほとんど外へ出ていない。
「そうね、気晴らしに」
ミラはエレノアの髪を三つ編みにして片側へ流すと、今日着るためのドレスを取り出す。
今日のドレスはエメラルドを胸元にあしらった、これまた豪奢なものである。
これもルクスが用意させたであろうことは、聞かずともわかっていた。
ルクスはその言葉通り、今度こそ死ぬまでエレノアを側に置いておくだろう。
狂おしいほどの愛をぶつけてくるルクスに対して、同様の愛情を向けることのできない自分は、彼の側にいない方がいいというのに。
知らず知らずのうちにルクスに再び惹かれつつある自分にも、嫌気がさしていた。
あれほど二度と人を愛することはないと、心に決めておいたというのに。
両親とアルマンを裏切り、ルクスにも正面から向き合えていない。
宮殿にも居場所はなく、エレノアの心は追い詰められていた。
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