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ヴァンパイア
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私たちを取り巻く空気が変わった。
時が止まったように息苦しく、言葉がうまく出てこない。
「え、なに……なんなの急に……」
「俺の一族はヴァンパイアだ。だから太陽の光に弱い。だが侯爵を継ぐにあたってある行為を行えば一人前のヴァンパイアとなり、陽の光も平気になるんだ」
「……ヴァンパイア? 吸血鬼ってこと……? お父様やお母様も? 」
「ああ、そうだ」
突然告げられた事実はまさかの内容で、うまく頭に入ってこない。
吸血鬼など、昔の物語の中だけの話だと思っていた。
そんな妖怪のような存在が実在するとは、私にはよもや信じられない。
「あなたは誰かの血を吸って生きているの? 」
「一人前のヴァンパイアになれば、生き血を飲まずとも生きていける。だが半人前の今は、人間や動物の生き血が必要なんだ。善人に牙を立てることは憚られるから、主に罪人の生き血だ」
私は思わず息を呑んだ。
「ヴァンパイアの子を宿す人間は、出産と共に命を落としてしまう。だから俺と結婚する女性はヴァンパイアでなければならない」
私は正真正銘の人間だ。
伯爵と侯爵の身分差を気にする以前に、そもそも彼とは結ばれることのない運命であったのだと思い知る。
「それではあなたには、もうヴァンパイアの婚約者がいるということなのね? 」
相変わらずなぜか彼に抱きしめられたまま、私はそう尋ねた。
すると私を抱きしめる彼の力はより一層強くなり、息苦しさが増す。
「一人前のヴァンパイアになるためには、ある行為が必要だと言っただろう? 」
「え、ええ。確かにあなたはそう言っていたわ」
「ある行為とは……心から愛しいと思う女性に牙を立て、その血を飲むことなんだ。我々ヴァンパイアの愛は恐ろしいほどに深い。父と母も、常に深い愛情で結ばれている」
血を飲む。
ヴァンパイアと聞いた時からそうだろうと思っていたが、目の前のカリュードがそれをおこなうのだと思うと、気が遠くなる。
「そ、そうなのね。ではあなたもその婚約者の血を飲めば、立派なミュラー侯爵となるのかしら? 」
なんでもないようなフリをしてそう言えば、カリュードは体を離して苦々しげにこちらを見つめた。
「まだわからないのか。俺が好きなのは君だ! 」
そして私の首元の香りを嗅ぐように、顔をすり寄せた。
「んっ……ちょ、カリュード! こんなところで何を……」
「もっと早くこうしておけばよかったか? ずっとずっと、我慢していた。だが君の血を俺が飲めば、君もヴァンパイアとなってしまう。永遠の命を得て、これまでとはガラリと違う生活になるだろう。ゆっくりその覚悟を持ってもらってから……と考えていたんだ。それなのに、君は……」
カリュードが私を好きだと言っている。
そして、私の血を飲みたいとも。
「悪いが、もう逃げられない。俺はもう限界だ。のんびりしていては、君は他の男の元へ嫁いでしまうことがわかった。力づくでも、俺は君を手に入れる」
「カリュード、まっ……! 」
首元に擦り寄っていた顔は離れず、彼は牙を剥いて私のそこにくらいつく。
カッと開いた口元からチラリと見えた牙は、人間離れした鋭いものであった。
ズキンと激しい痛みが首元に走り、私はそのまま気を失ってしまったのだ。
時が止まったように息苦しく、言葉がうまく出てこない。
「え、なに……なんなの急に……」
「俺の一族はヴァンパイアだ。だから太陽の光に弱い。だが侯爵を継ぐにあたってある行為を行えば一人前のヴァンパイアとなり、陽の光も平気になるんだ」
「……ヴァンパイア? 吸血鬼ってこと……? お父様やお母様も? 」
「ああ、そうだ」
突然告げられた事実はまさかの内容で、うまく頭に入ってこない。
吸血鬼など、昔の物語の中だけの話だと思っていた。
そんな妖怪のような存在が実在するとは、私にはよもや信じられない。
「あなたは誰かの血を吸って生きているの? 」
「一人前のヴァンパイアになれば、生き血を飲まずとも生きていける。だが半人前の今は、人間や動物の生き血が必要なんだ。善人に牙を立てることは憚られるから、主に罪人の生き血だ」
私は思わず息を呑んだ。
「ヴァンパイアの子を宿す人間は、出産と共に命を落としてしまう。だから俺と結婚する女性はヴァンパイアでなければならない」
私は正真正銘の人間だ。
伯爵と侯爵の身分差を気にする以前に、そもそも彼とは結ばれることのない運命であったのだと思い知る。
「それではあなたには、もうヴァンパイアの婚約者がいるということなのね? 」
相変わらずなぜか彼に抱きしめられたまま、私はそう尋ねた。
すると私を抱きしめる彼の力はより一層強くなり、息苦しさが増す。
「一人前のヴァンパイアになるためには、ある行為が必要だと言っただろう? 」
「え、ええ。確かにあなたはそう言っていたわ」
「ある行為とは……心から愛しいと思う女性に牙を立て、その血を飲むことなんだ。我々ヴァンパイアの愛は恐ろしいほどに深い。父と母も、常に深い愛情で結ばれている」
血を飲む。
ヴァンパイアと聞いた時からそうだろうと思っていたが、目の前のカリュードがそれをおこなうのだと思うと、気が遠くなる。
「そ、そうなのね。ではあなたもその婚約者の血を飲めば、立派なミュラー侯爵となるのかしら? 」
なんでもないようなフリをしてそう言えば、カリュードは体を離して苦々しげにこちらを見つめた。
「まだわからないのか。俺が好きなのは君だ! 」
そして私の首元の香りを嗅ぐように、顔をすり寄せた。
「んっ……ちょ、カリュード! こんなところで何を……」
「もっと早くこうしておけばよかったか? ずっとずっと、我慢していた。だが君の血を俺が飲めば、君もヴァンパイアとなってしまう。永遠の命を得て、これまでとはガラリと違う生活になるだろう。ゆっくりその覚悟を持ってもらってから……と考えていたんだ。それなのに、君は……」
カリュードが私を好きだと言っている。
そして、私の血を飲みたいとも。
「悪いが、もう逃げられない。俺はもう限界だ。のんびりしていては、君は他の男の元へ嫁いでしまうことがわかった。力づくでも、俺は君を手に入れる」
「カリュード、まっ……! 」
首元に擦り寄っていた顔は離れず、彼は牙を剥いて私のそこにくらいつく。
カッと開いた口元からチラリと見えた牙は、人間離れした鋭いものであった。
ズキンと激しい痛みが首元に走り、私はそのまま気を失ってしまったのだ。
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