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梨の王
ハンナの日記
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頼りすぎるのもいけないが、先生の元へ通ってしまう。
手土産は毎度、心から選んでいるが、最近数の多い物がいいのでは、と思うようになった。
なにせよく人が訪れていて、先生と話しているし、先生は自分の物を人に分ける事を厭わないのでそれの役に立てると嬉しい。
一つだけでも痩せた先生の口へと入るだけで安心出来るのだ。
毎度毎度これを彼らに分けても構わないだろうかと伺ってくれるがそんなに気にしなくて良いのに。
律儀な人だ。
私も先生が小さい頃から変わらずにくれるお菓子を食べるのが今だに好きで、一緒に入れてくれるお茶の味が故郷の味と言って良いかもしれない。
◆
秋になると、散らばった弟子達がフラッと寄ることが増える。
先生の手伝いをする為だ。
催促しているわけでは無いが、先生の元には梨が文字通り山ほど集まるので、加工の手伝いをしに行く。
国中から送られてくる梨は、果糖やジュースや干物になって孤児院や祝い事で振る舞われる。
傷んだ物も多くあるが、その部分を切り取りなるべく使うようにしているらしい。
先生曰く、
「友人と認めてもらった証は少し腐っているからと言って捨てられないだろう?
君たちだって、一つの欠点で友人を見捨てるような事をしないようにだ。」
だそうだ。
ジョニーが結婚も近いのに飲み屋の女の子に入れ上げてるのも許してやろうかと言うと、先生はにやりと
「そうだな。
足りないのなら与えてあげなさい。
思いっきり顔を張れば紅葉が咲くだろう。
それも秋の風物詩だ。」
と言った。
明日はジョニーも手伝いに来るらしいが、赤く腫らした顔を見て、先生はどう思うのだろうか。
笑ってくれそうな気がしている。
楽しみだ。
◆
私とジョニーの結婚式に先生は参加してくれた。
いつもと同じクシャクシャの笑顔で2人を撫でてくれたのが嬉しかった。
長生きしてもらって、自分たちの子供にも会わせてあげたい。
その為には、隠居したのにあんなに忙しくしてないで、まともなご飯を食べて欲しい。
独り身が大変なら、ウチに来たら良いのにとジョニーと話した。
それを先生に伝えると、
「ハンナとジョニーの新婚生活に巻き込まれた方が大忙しさ。」
と言っていた。
確かにそうかも。
でも、ジョニーは結婚して落ち着いてくれたし、真面目に働いている。
ジョニーは先生にお説教を貰ったらしい。
強く言うわけでは無いのだが、先生のお説教はすごく効く。
お父さんとお母さんの頃は怪しいおじさんだって言われてたらしいけど、今はみんなに尊敬されていて、凄いと思う。
お父さんとお母さんも度々訪ねて、話しているらしいけど、一体なにを話しているのだろうか。
小さい頃から内緒にされたままだが、それは私達も一緒だ。
先生は相談を他に言わないから、本人達しかわからないのだ。
色々な人に一緒に暮らそうと言われているようだが、妻の眠る梨の木から離れたくないと断っている。
素敵な話だ。
私が死んだ後に、そう思う人がいてくれると嬉しい。
◆
子供が出来て、先生に名付けをお願いしたが断られてしまった。
気持ちは嬉しいけど、子供は親を尊敬するものだから親が付けてあげなさいと言われた。
親として、尊敬されるように頑張らなくては。
バーンと名付けた我が子は元気に成長している。
どうしても預けなければいけない時に、先生が預かってくれた事があった。
急いで帰ると、バーンは先生の膝の上でよく眠っており、先生も優しい顔でバーンを撫でてくれていた。
今思うと、小さな子供を預かる事が多い様だった。
ジョニーや私みたいに、先生の弟子は地方へ行く事も多く、タイミングによっては子育てが出来ない時があるが、先生は快く預かってくれるのだ。
父母ももちろん手伝ってくれるのだが、先生は小さい子にたまに授業をしてくれるし、同年代がいる事が多いので、先生の所へ連れて行ってしまう事が多い。
「君達が国のために働いているのだから気にする事はないさ。
でも子供は寂しがるよ、親が一番なのだから。
ほら、おじいさんに構ってないで我が子を抱きしめなさい。」
先生は最近自分のことをおじいさんと呼ぶ。
多分いろんな子供におじいさんと言われている内にうつってしまったのだろう。
私達の親世代では、みんなの代表で家族みたいなものと言われていた。
私達世代には、みんなの父のようだと言われている。
それならこの子達にとってはやはり、みんなのおじいさんなのだろう。
◆
先生が少し体調を崩している事が多くなった。
年齢も年齢だし仕方ないのだろうが、寂しい。
私も含めて色んな人が先生の所へいつもより行く様になった。
様々な年齢の先輩や後輩がいることも多くなり、先生の慕われ方を見ると嬉しくなる。
恐らく彼らも私たちと同じで、寂しいのだ。
これも一つの家族の形なのではないかと思った。
そんな中で一つの提案がなされ、先生の言葉を纏めておきたいと言うことになった。
建国時に纏めたファーデンフロイデの内容に先生の見解を聞き追記したり、以前先生が話していたことから理解を深めた注釈を追加していくことにした。
この本がいつか子供達が悩んだ時、私たちが先生の所へ来た様に、彼らの先生の様な役割を担ってくれると嬉しい。
先生に負担をかけていないかだけが心配だが、先生は何もしていないよりはいいし、家族の相談も受けられない様な父は、死んでいるのと同じだと言ってくれた。
手土産は毎度、心から選んでいるが、最近数の多い物がいいのでは、と思うようになった。
なにせよく人が訪れていて、先生と話しているし、先生は自分の物を人に分ける事を厭わないのでそれの役に立てると嬉しい。
一つだけでも痩せた先生の口へと入るだけで安心出来るのだ。
毎度毎度これを彼らに分けても構わないだろうかと伺ってくれるがそんなに気にしなくて良いのに。
律儀な人だ。
私も先生が小さい頃から変わらずにくれるお菓子を食べるのが今だに好きで、一緒に入れてくれるお茶の味が故郷の味と言って良いかもしれない。
◆
秋になると、散らばった弟子達がフラッと寄ることが増える。
先生の手伝いをする為だ。
催促しているわけでは無いが、先生の元には梨が文字通り山ほど集まるので、加工の手伝いをしに行く。
国中から送られてくる梨は、果糖やジュースや干物になって孤児院や祝い事で振る舞われる。
傷んだ物も多くあるが、その部分を切り取りなるべく使うようにしているらしい。
先生曰く、
「友人と認めてもらった証は少し腐っているからと言って捨てられないだろう?
君たちだって、一つの欠点で友人を見捨てるような事をしないようにだ。」
だそうだ。
ジョニーが結婚も近いのに飲み屋の女の子に入れ上げてるのも許してやろうかと言うと、先生はにやりと
「そうだな。
足りないのなら与えてあげなさい。
思いっきり顔を張れば紅葉が咲くだろう。
それも秋の風物詩だ。」
と言った。
明日はジョニーも手伝いに来るらしいが、赤く腫らした顔を見て、先生はどう思うのだろうか。
笑ってくれそうな気がしている。
楽しみだ。
◆
私とジョニーの結婚式に先生は参加してくれた。
いつもと同じクシャクシャの笑顔で2人を撫でてくれたのが嬉しかった。
長生きしてもらって、自分たちの子供にも会わせてあげたい。
その為には、隠居したのにあんなに忙しくしてないで、まともなご飯を食べて欲しい。
独り身が大変なら、ウチに来たら良いのにとジョニーと話した。
それを先生に伝えると、
「ハンナとジョニーの新婚生活に巻き込まれた方が大忙しさ。」
と言っていた。
確かにそうかも。
でも、ジョニーは結婚して落ち着いてくれたし、真面目に働いている。
ジョニーは先生にお説教を貰ったらしい。
強く言うわけでは無いのだが、先生のお説教はすごく効く。
お父さんとお母さんの頃は怪しいおじさんだって言われてたらしいけど、今はみんなに尊敬されていて、凄いと思う。
お父さんとお母さんも度々訪ねて、話しているらしいけど、一体なにを話しているのだろうか。
小さい頃から内緒にされたままだが、それは私達も一緒だ。
先生は相談を他に言わないから、本人達しかわからないのだ。
色々な人に一緒に暮らそうと言われているようだが、妻の眠る梨の木から離れたくないと断っている。
素敵な話だ。
私が死んだ後に、そう思う人がいてくれると嬉しい。
◆
子供が出来て、先生に名付けをお願いしたが断られてしまった。
気持ちは嬉しいけど、子供は親を尊敬するものだから親が付けてあげなさいと言われた。
親として、尊敬されるように頑張らなくては。
バーンと名付けた我が子は元気に成長している。
どうしても預けなければいけない時に、先生が預かってくれた事があった。
急いで帰ると、バーンは先生の膝の上でよく眠っており、先生も優しい顔でバーンを撫でてくれていた。
今思うと、小さな子供を預かる事が多い様だった。
ジョニーや私みたいに、先生の弟子は地方へ行く事も多く、タイミングによっては子育てが出来ない時があるが、先生は快く預かってくれるのだ。
父母ももちろん手伝ってくれるのだが、先生は小さい子にたまに授業をしてくれるし、同年代がいる事が多いので、先生の所へ連れて行ってしまう事が多い。
「君達が国のために働いているのだから気にする事はないさ。
でも子供は寂しがるよ、親が一番なのだから。
ほら、おじいさんに構ってないで我が子を抱きしめなさい。」
先生は最近自分のことをおじいさんと呼ぶ。
多分いろんな子供におじいさんと言われている内にうつってしまったのだろう。
私達の親世代では、みんなの代表で家族みたいなものと言われていた。
私達世代には、みんなの父のようだと言われている。
それならこの子達にとってはやはり、みんなのおじいさんなのだろう。
◆
先生が少し体調を崩している事が多くなった。
年齢も年齢だし仕方ないのだろうが、寂しい。
私も含めて色んな人が先生の所へいつもより行く様になった。
様々な年齢の先輩や後輩がいることも多くなり、先生の慕われ方を見ると嬉しくなる。
恐らく彼らも私たちと同じで、寂しいのだ。
これも一つの家族の形なのではないかと思った。
そんな中で一つの提案がなされ、先生の言葉を纏めておきたいと言うことになった。
建国時に纏めたファーデンフロイデの内容に先生の見解を聞き追記したり、以前先生が話していたことから理解を深めた注釈を追加していくことにした。
この本がいつか子供達が悩んだ時、私たちが先生の所へ来た様に、彼らの先生の様な役割を担ってくれると嬉しい。
先生に負担をかけていないかだけが心配だが、先生は何もしていないよりはいいし、家族の相談も受けられない様な父は、死んでいるのと同じだと言ってくれた。
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