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梨の王
空白期間の終わり
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この街に来てしばらく経った。
大体10日スパンのスケジュールが定まってきて、ようやく生活している、と言う感じになって来た。
10日のうち6日は練習をして、2日は何処かで披露して、残りは休みとスポンサー関係の対応がある。
そう、俺にはパトロンが付いた。
ノースヴェンの親父が表に出せる商売の名前で金を出してくれることになった。
ギルバートは貴族としてサポートしてくれているし、主催する企画には呼んでくれている。
ノースヴェンに気を遣っているのか、不自然なほど金銭は渡して来ようとはしないが、楽器のメンテナンス用具や、専用の職人を紹介してくれた。
彼らは俺に何かを望んではいない様だが、丁寧に友人として、または家族の様に接してくれる。
ならばスポンサー関係の対応とはなにか。
ギルバートからの依頼で、シェリルの音楽の家庭教師を月に1度行っている。
シェリルのレッスン自体は別に講師がいるが、技術面ではなく演出やメンタル面での講師と言う事だった。
俺が世に出る演奏家になり始めて、一番多く褒められるのは表現力だ。
曖昧な指標だが、リリアンの所に長くいたことが活きているようで、鳴らした音を整然と説明されて、頭の中に映像として浮かべるトレーニングが功を奏しているようだ。
もちろんそれが全てのミュージシャンに上手く作用するとは限らないし、本能のまま自分の中のものだけで弾き切るのに憧れないでもないが、向いていると言う話だ。
シェリルもそうで、俺との講義でレッスン内容を整理するというサイクルが上手くハマったらしく、ハンバート家の次女ではなくシェリル・ハンバートとしての演奏も少しずつ出来つつある。
更にもう一つ、これはギルバートからもノースヴェンの親父からもそうしておけ、と言われたことがあり、時間を取っている。
メディア露出を増やすことだ。
雑誌のインタビューを受けたり、大衆向けのおおらかなレッスンを行ったりの地域貢献や、広告を打つための打ち合わせに参加したりなど様々だ。
何故そうしなくてはならないか。
木が生えている奇異な見た目を、不気味や不快な印象から、見慣れることでネガティブなそれらの反応が反転することもあると言う。
意外な副産物としては、インタビューにて語った来歴は大衆の興味をそそるものだったらしい。
事故、記憶喪失、肩から木が生えている理由、古い名工のヴァイオリン、そして何より広めたいホールドウィンの姓と家紋の話。
記憶喪失を利用しての曖昧さで包んだ謎を含んだその話は大いに「そそる」ものだったらしく、1年が経つ頃には、街で有名なヴァイオリニストの1人と言っても過言ではなくなっていた。
大体10日スパンのスケジュールが定まってきて、ようやく生活している、と言う感じになって来た。
10日のうち6日は練習をして、2日は何処かで披露して、残りは休みとスポンサー関係の対応がある。
そう、俺にはパトロンが付いた。
ノースヴェンの親父が表に出せる商売の名前で金を出してくれることになった。
ギルバートは貴族としてサポートしてくれているし、主催する企画には呼んでくれている。
ノースヴェンに気を遣っているのか、不自然なほど金銭は渡して来ようとはしないが、楽器のメンテナンス用具や、専用の職人を紹介してくれた。
彼らは俺に何かを望んではいない様だが、丁寧に友人として、または家族の様に接してくれる。
ならばスポンサー関係の対応とはなにか。
ギルバートからの依頼で、シェリルの音楽の家庭教師を月に1度行っている。
シェリルのレッスン自体は別に講師がいるが、技術面ではなく演出やメンタル面での講師と言う事だった。
俺が世に出る演奏家になり始めて、一番多く褒められるのは表現力だ。
曖昧な指標だが、リリアンの所に長くいたことが活きているようで、鳴らした音を整然と説明されて、頭の中に映像として浮かべるトレーニングが功を奏しているようだ。
もちろんそれが全てのミュージシャンに上手く作用するとは限らないし、本能のまま自分の中のものだけで弾き切るのに憧れないでもないが、向いていると言う話だ。
シェリルもそうで、俺との講義でレッスン内容を整理するというサイクルが上手くハマったらしく、ハンバート家の次女ではなくシェリル・ハンバートとしての演奏も少しずつ出来つつある。
更にもう一つ、これはギルバートからもノースヴェンの親父からもそうしておけ、と言われたことがあり、時間を取っている。
メディア露出を増やすことだ。
雑誌のインタビューを受けたり、大衆向けのおおらかなレッスンを行ったりの地域貢献や、広告を打つための打ち合わせに参加したりなど様々だ。
何故そうしなくてはならないか。
木が生えている奇異な見た目を、不気味や不快な印象から、見慣れることでネガティブなそれらの反応が反転することもあると言う。
意外な副産物としては、インタビューにて語った来歴は大衆の興味をそそるものだったらしい。
事故、記憶喪失、肩から木が生えている理由、古い名工のヴァイオリン、そして何より広めたいホールドウィンの姓と家紋の話。
記憶喪失を利用しての曖昧さで包んだ謎を含んだその話は大いに「そそる」ものだったらしく、1年が経つ頃には、街で有名なヴァイオリニストの1人と言っても過言ではなくなっていた。
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