笑ってはいけない悪役令嬢

小川コタ

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笑9

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 校門をくぐり抜けた瞬間、ファウストのおでこが光に包まれた。
 すると俺の予測通り、ファウストの髪留めが外れて上空へ跳ねた。その後、髪留めは頭上で光の粒となり、弾け飛んで消失した。
 強制力の執行される光が完全になくなると、ファウストの詰襟に八重桜形の記章、左腕には腕章が知らぬ間に現れていた。
 なお、髪留めが無くなった斜めに流していた前髪は、眉間に向かって左右から集まり、幼少時の三角形の前髪が復活してしまっていた。

 俺はイコリスを案じたが、横顔はスンとしていて無感情だ。
 トゥランと校門の強制力について、既存の情報だけでなく具体的な体験談も多数収集し、統計を取り精査して予想される姿絵を作成する等、模索しながら何度も厳しい訓練をしてきたことが今、成果として現れていた。

 仮面を着けた銀髪の旧生徒会副会長が、ファウストに手鏡を渡す。鏡の中の自分を見て肩を落とすファウストを、俺達は真顔で校門の外から見守るのだった。
 眼鏡をかけた紫髪の旧生徒会役員が、持っている書き換え率を測定する石板を見て告げる。
「ファウスト・オウラ7世、書き換え率5%。」
 一見、殆ど変わってないので、前髪と髪留めの分だろう。確か記章と腕章は書き換え率には含まれなかったはずだ。

「う゛う゛う゛う゛・・・・。」
 苦しそうな声を漏らしながらハル・エボニーが蹲り頭を手で押さえていた。生徒会の記章と腕章は既に消えていた。
 サラサラの金髪が白みがかった茶色へ徐々に変わっていくと、所々はねた癖毛となった。
 息を荒げながら顔を上げると、水色から焦げ茶色になった瞳が震えていた。

 バタバタと緊急救急班がハル・エボニーの元へ駆けつけ、担架を拡げた。医師や看護師に声をかけられ担架へ誘導されるが、前に伸ばした彼の手は空を切っていた。
 どうやら視力が大きく損なわれたらしく、俺はやり切れない気持ちになった。

 校外へ担架に乗せられたハル・エボニーを運び始めると、ファウストが右手を左胸に当てて号令をだした。
「ハル・エボニーへ敬意を表して、敬礼。」
 旧生徒会と五大貴族頭首の息子達全員が胸に手を当て、ハル・エボニーを送り出す。
 俺も同様に見送ったが、横にいるイコリスだけは異なっていた。
 指を伸ばし揃えた右手を、右のこめかみにかざし敬礼していた。俺はぎょっとしたが、その場では触れなかった。

 後日、イコリスに訳を聞いたら、扇子の長い柄を持つ手が胸にあったので着帽時の警察の敬礼にしたとのこと。
 そう、彼女はいつだって大真面目なのだ。
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