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しおりを挟むよい時間はいつまでも続くかと思いましたが、ブランがいつものように家に帰ると、おじいさんが倒れて、亡くなっていました。
自然におとずれた死でした。結構なお年でしたが、ブランはまだまだ一緒にいれると思っていたので、とてもショックでした。
ブランはわんわん泣き、おじいさんを大事に大事にとむらいました。
毎日、町のはずれにある墓地まで、おじいさんのお墓参りに出かけました。
ふたりで飲んだスープを持っていったり、ワインを持っていったり。サンドイッチを用意したり。
ブランのお墓参りがすこしピクニックじみてきたころ、墓地の近くの草原で、遊んでいる小さな女の子に出会いました。まずしい家の子のようで、ぼろを着ています。
その子はブランを見て、にっこりほほえみました。
「何をしているの?」
きれいな声でした。
「大事な人に会いにきた帰りに、ピクニックをしている」
ブランはそのままを伝えました。少女はすぐそばに来て、
「とってもおいしそうね」
ブランの手に持っている具だくさんのサンドイッチを見て、そう言いました。
ブランは自分の料理をほめてくれる人が長くいなかったので、「もしよかったら食べるかい?」と少女に持ってきた料理をふるまいました。
少女はひもじい思いをしていたのでしょう、顔をかがやかせてよろこび、「おいしい!こんなにおいしいの、食べたことがないわ」とたくさん食べました。
ブランはまたあたたかい気持ちが胸に宿るのをおぼえました。
少女はお礼にと、摘んだ花でこしらえた花輪をブランにプレゼントしました。
「お金がなくても、ここの花は摘んで遊べるの。だからここが好きなの」
「なかなかの腕前だ、おいくらだい?」
「いらないわ、でも、よかったらまたサンドイッチを一口食べさせてほしい」
「なんだ、そんなこと。もちろんいいよ、明日も持ってくるよ」
それから、ふたりはお昼ご飯をいっしょに食べる仲になりました。
少女はいつもブランの作る料理を楽しみに待っていました。残ったものは少女が家に持って帰り、家族とわけて食べました。
「すこし肥えてしまったみたいで、服がきゅうくつになってきたの。」
はずかしそうに少女は言いました。たしかに、やせっぽちであった少女は肌がつやつやとして、健康そうになっていました。
「それなら、このお金で新しい服を必要なぶんだけ仕立ててもらいなさい。服屋は僕のことが嫌いだけれど、君のことは嫌いではないはずだ」
ブランは惜しげも無く、少女に持っているお金をたくさん手渡しました。少女はびっくりしましたが、感謝し、ブランのお金を受け取りました。
次の日、少女があまりにきれいな格好をしてきたので、ブランはしばらく昨日の少女と同じ人物だと気がつきませんでした。
少女は着飾るとほんとうに美しくなりました。きれいなワンピースも、かわいいイヤリングも、帽子も。
ブランはどきどきして、すっかり緊張してしまいました。
「ブランさんがくださったお金があまりに大金だから、いろいろ買えてしまったの。両親もきょうだいもいいものが着られるわ。ありがとう」
「いや……それは、よかった……」
それから、会ってもあまりブランがしゃべらない上、前よりも食べないのを見て、少女はだんだん心配になりました。
「ブランさん、どうしたの?元気がないみたい。どこかお悪いの?」
「どこも悪くないよ」
「ブランさん、では何か不満があるの?」
「不満なんてないさ……」
言いかけたところで、ブランははっとしました。むかしの自分が不満でいっぱいだったことを。なぜ、いまこんなに穏やかな気持ちなんでしょう。
お金の貯金があるからでしょうか。
いや、昔大金持ちになったとき、お金では何も豪華なものは結局そろいませんでした。でも今それが欲しいともブランは思いません。
いいお家でなくとも、住み慣れた家がいちばん愛しいし、レストランよりも自分の料理の味が口に合います。ほめてくれる相手もいます。
服も、着心地のいいおじいさんのお古や、おじいさんがブランへと世話を焼き買ってくれたものがたくさん家にあるのでした。
ブランはいまとても幸せなのだと知りました。
そのなかで望むことは、自分と会って笑いかけてくれる、おじいさんや、少女です。
彼が天国でおだやかでいられますように。
彼女が幸せでいてくれますように。
なんて自分は幸せな人間になったんだろう、とブランは思わず泣きました。
「どうしたの?ブランさん」
少女はわからず、ブランを心配しました。
「なんでもないよ、とても幸せだと、泣いているんだよ」
「まだ泣くのは早いわ、ブランさん」
「どういうことだい?」
「わたしね、とびきり綺麗な、白いドレスを頼んであるの。明日出来上がるから、ここに着てくるわ。だからね、あのね、ブランさん……」
また少女も恥ずかしくなり、だまりこんでしまいました。
「白いドレスを?結婚式みたいだな」
「その通りよ、結婚式をやるの。結婚式ごっこでいいわ、ブランさんはその日だけ付き合ってくれるだけでいいの。夢だったから、叶えたいの。ブランさんが好きなの」
ブランはそれを聴き、びっくりしてしまいました。
「どうして、ぼくなんかを相手に?」
「だって好きなんだもの。おいやかしら?」
「いやなんてとんでもない。びっくりしたけど、でも、とてもうれしいよ。」
少女の顔がかがやきました。お化粧をしなくても、着飾らなくても、彼女のよろこぶ顔はほんとうにかわいいなあとブランは思いました。
「ごっこじゃなくて、本物にしよう。ちゃんと、本物の指輪を、持ってくるよ」
少女の手をとり、ブランは言いました。
ふたりは、その翌日、草原で、おじいさんのお墓に見守られながら、結婚式をあげました。
ふたりだけ、そう思っていたら、ブランが大急ぎで飛び込んだ宝飾店に居合わせたフランがその話を聞き、お祝いに家族でやってきました。また、少女の家族も用意をして待っていました。彼らはブランに感謝していましたから、娘が幸せそうなのを泣いて喜びました。
フランとその子供達の合唱隊はお祝いの歌をブランに歌い、ふたりの結婚式はとてもあたたかく幸せなものとなりました。
ブランは幸せで泣きながら、フランの結婚を祝えなかったことを詫びました。
「いいのさ、そんなこと。あのとき祝えなかったから、今のきみがあるんじゃないか。今のきみが幸せなら、いいんだよ、ぼくは何も気にしていないよ」
「どういうことだい?」
「ぼくたちの結婚式のとき、服屋の、ぼくらへのプレゼントを君が踏んづけなかったら、ブランはきれいな服を買えたし、きっと違う未来になっていただろう」
「そうかもしれない」
「ぼくの今もブランが作ったんだよ。貧乏だったとき、ぼくが熱を出して、ブランはその日パンとスープをわけてくれた。雨の日で、雨宿りするところを、ブランが探してくれた。あれは、本当に助かったよ」
「そんなことを、しただろうか、覚えていないよ」
ブランはとまどいますが、フランはにっこり笑って、君は命の恩人だとうなずきました。
「確かだよ。君のいいところだよ。君は料理の才能があるそうだから、今度ぼくにも食べさせてほしいな。いっそレストランを開くっていうのはどうだい?みんな、きっと喜ぶよ」
「名案だわ!」
フランの案に少女が飛びつき、ブランは幸せでくらくらしました。
それから、小さな町にはブランのレストランがオープンしました。
レストランは大人気。ブランもたくさんの弟子をとり、妻とも仲良く楽しく暮らしました。
月に一度、友人のフランが夜のショーで歌を歌いにきます。
おじいさんが好きだった花がいつもテーブルに活けてあります。
いつかの昔、フランの願いを訊ね、ブランの願いを訊ねた老人が、そっと隅の席に座り、料理に舌鼓を打ち、フランの歌を聞き惚れ、つぶやきました。
「こんなに幸せなことはない」。
*おしまい*
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