代償魔法《デッド・オア・キル》〜260人の命を背負う不死身の冒険者〜

もう書かないって言ったよね?

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第1章・廃棄ダンジョン編

第7話・廃棄ダンジョン

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 冒険者ギルドに10万ゴールドを払うと、早速《魔眼》の手術を受ける事になった。まあ、手術と言っても大袈裟なものではない。小さな眼鏡のレンズを目に張り付けるようなものだ。

「お待たせしました。では説明を始めさせてもらいます」

 案内された部屋で待っていると、40代前半ぐらいのギルドの男性職員がやって来た。手に持っている小瓶にはピンク色の液体が入っている。どうやら、これが魔眼のレンズのようだ。

「目に魔法の液体を数滴垂らす事で、数十分後にはレベルが見えるようになります。効果は半永久的ですが、何事も例外があります…」

 男性職員は魔法薬の説明をしながら、ルインの両目にピンクの液体を数滴垂らしました。

「高レベルの魔法攻撃を受けた場合。毒などの有害な物質を摂取した場合。魔眼の効果を消し去る魔法を受けた場合…」

 はぁ~~、さすがに説明が長い。魔法の目薬を垂らされてから、もう数十分は経っている。そろそろお昼頃になりそうだな。

「…あれ?何か見える。16?」

 目の前の男性職員の頭上には赤い数字《16》が浮かんでいた。もしかすると、これがレベルなのかもしれない。

「見えましたか。では登録完了です。冒険者と言っても基本的に行動は自由です。けれども、最低限のルールが存在します。あまりにも度が過ぎる行いをすると冒険者登録の破棄、レベルの封印もあります。よく考え、気を付けて行動してください」

「ありがとうございます。それでは失礼します」

 やっと冒険者登録が完了した。制限時間はたったの1週間。さっさとレベル上げに行かないといけない。狙うなら廃棄ダンジョン…あそこなら誰にも邪魔される事も迷惑もかける事はないはずだ。

 ダンジョンには《人工ダンジョン》《天然ダンジョン》《廃棄ダンジョン》の3つがある。有料なのは人工ダンジョンだけで、残りの2つは危険だが無料である。

 特に廃棄ダンジョンのモンスターは全て狩り尽くしても、誰も文句は言わない。人工ダンジョンの成れの果てが廃棄ダンジョンである。飼育しているモンスターの管理に失敗すると、モンスターが強くなり過ぎたり、増え過ぎたりする。そうなると、多くの経営者が手間と費用がかかるダンジョンを放棄するようになる。それが廃棄ダンジョンである。

 これは酷いな。《ゴブリン小鬼》の大量繁殖に失敗して、新種の《ゴブリングール仲間の死体を喰う小鬼》が生まれてしまっている。やるなら、このダンジョンだろうな。

 廃棄ダンジョンの情報は一般に公開されています。危険なダンジョンに間違って入らないようにする為でもありますが、廃棄ダンジョンの多くは、しばらくすればダンジョン内の食糧が無くなって、モンスターが飢えて死んでいきます。経営者の中には食糧が無くならないように工夫している人もいますが、それは少数派です。

 通常は数年間放置すれば、廃棄ダンジョンもまた使えるようになります。でも、腕に覚えのある冒険者達に情報を流す事で、冒険者達が無償でモンスターを狩り尽くしてくれます。数年間も待たずにまたダンジョンが使えるようになるという利点が経営者にある訳です。

 ルインの装備は手製のアイアンダガーだけです。しかも、市販の物とは違い、刃が分厚く、重量もあります。短剣というよりも、手斧やなたに分類されそうです。ただ形状だけで言えば間違いなく短剣になるでしょう。

 さてと、どうしようか…。昼ご飯を食べてからでも、15時までには廃棄ダンジョンに到着出来る。少し装備や回復アイテムを見ていこうかな。

 残りのお金は《2万ゴールド》程度です。先の事を考えると、節約しないといけませんが、お腹は減ります。それに防具がないのは心細いです。せめて心臓を守る胸鎧は欲しいものです。

 ❇︎

 お昼ご飯に750ゴールドの日替わり定食を食べると、廃棄ダンジョンに徒歩で向かいます。唐揚げ、ポテトサラダ、コーンスープ、パン2個と高いのか、安いのか微妙な料金設定です。

 さて、人工ダンジョンと廃棄ダンジョンの多くは、街の近くにあります。わざわざ遠くて不便な場所にダンジョンを作っても誰もやって来ません。あくまでも商売が目的です。

 本来ダンジョンとは、安全に快適にレベルアップする場所であって、罠が仕掛けられていたり、倒せないモンスターが徘徊する天然ダンジョンは絶対に駄目だと、ダンジョン経営者達は豪語しています。

「あれがそうか…」

 目の前には古びた城が建っていました。おそらくは没落した貴族から買い取った古城に、つがいのゴブリンを押し込んで繁殖させたのでしょう。

 元々ゴブリンは妖精に分類されます。今では純血のゴブリンは少ないです。旧時代にゴブリンが他種族と交わった事で、今の醜悪で凶暴なゴブリンが誕生したと言われていますが、事実は誰にも分かりません。ただ確かな事は、混血のゴブリンは排除するべき危険なモンスターだという事です。

 確かダンジョンには結界が張られていて、中からモンスターが逃げ出せないようになっているらしいけど、どういう仕組みかは非公開なんだよな。

 結界を張っているのは冒険者ギルドです。冒険者ギルドに申請すれば、少し高額の費用を払えば何処でも結界を張ってくれます。とくに人工ダンジョンを作るときは、必ず結界を張る必要があります。結界がないダンジョンは天然ダンジョンか、登録されていない違法ダンジョンです。

 ガサガサ! ガサガサ!

(エモノ、キタ。エモノ、キタ)

 背の高い雑草が生い茂る庭を通って、古城の玄関を目指して進みます。庭にはモンスターはいないようです。

(おかしい?さすがにモンスターが1匹もいないはずはない。だとしたら…)

 周囲を警戒しながら、右手に持つアイアンダガーを強く握ります。ゴブリン達が気配を消して隠れている可能性が高いです。

 ただのゴブリンならば飢えて死んでいる可能性はあります。でも、今回のゴブリンはゴブリングールです。簡単には死なないアンデッド系のモンスターです。

(死ネ)

 ブン!

 草むらに隠れていたゴブリンの1匹が、ルインに向かって、骨で作った投げ槍を放り投げました。

 ドォス!

「…っう‼︎何だこれは?」

 右肩に嫌な痛みが走ります。白い投げ槍が突き刺さりました。ルインは飛んで来た白い骨槍に気づく事も出来ませんでした。

「コイツ、ヨワイ。コロセル。楽シイ」

 ガサゴソ! ガサゴソ!

 ワラワラとゴブリン達が草むらの中から現れて来ました。手には先の尖った白い骨槍を持っています。食べた仲間の骨を加工する知恵ぐらいはあるようです。
 
(レベル6~14か…くそ!油断した)

 ゴブリン達の姿が見えて、やっとレベルが見えました。最低でレベル6、最高でレベル14です。それに今見える焦げ茶色の肌のゴブリン達はただのゴブリンです。ゴブリングールではありません。

「ハヤク、食ベル。ボスに、見ツカル前に、喰オウ」

(やっぱり出口は塞がれているか…それに右肩の痛みがドンドン酷くなっている。逃げるなら城の中に入ってから、隠れて隙を見つけるしかないのか…)

 汚らしい涎を垂らしながら、ゴブリン達が近づいて来ます。ざっと数えただけで11匹以上はいるようです。戦っても勝てる可能性はありません。

 ダンジョンの出入り口はゴブリン達に塞がれて逃げられません。草むらの中には、まだゴブリンが多数隠れている可能性が高いです。草むらを通るのも危険です。城の中には、さらに沢山のゴブリンやゴブリングールがいると予想出来ます。

 逃げ場はなしか…死んでも《リライト・デッド》で生き返るらしいが、本当かどうかはまだ分からない。まだ死んだ経験がないはずだ。クローリカの話では死んでからも幽体状態で最大30秒間だけ移動出来るらしい。本当ならば、この場所で死んでダンジョンの出入り口を目指せば逃げられる。残りは258回。絶対に皆んなの命を無駄には出来ない。

 ❇︎
 


 
 

 



 

 
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