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第2章・海賊編
第23話・真夜中の戦い
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ルインはケーキやドーナツに飽きると、お腹一杯になるまで唐揚げと酢魚を食べました。重たくなった腹をさすりながら、ベッドの上にゴロンと横になります。これ以上は食べられません。ウェインには時間がある時には身体を鍛えろと言われましたが、ゴブリン達を194匹も倒したのです。今日はもう指一本も動かしたくありません。
「《パイシーズ》か……確か魚座の事だったよな。水中呼吸に水中移動能力の付加。話を聞く限りだと魔法具の一種だろうな」
(確かに水中呼吸と水中移動能力が本当なら凄いだろうけど、魔法具を使うなら必ず魔力が必要になる。だったら時間制限や使用回数があるはず。多分、アンミリテッドと同じだろうな。つまりは隙や弱点は必ず存在する。上手くそこを突けば勝てる。………多分)
身体は動かしませんが、頭は動かします。誰かに海賊デレスを倒される前に、デレスを見つける必要もあります。おそらくはデレスを倒して、パイシーズと呼ばれる宝石を奪うのが今回の課題なのでしょう。デレスを倒すだけ、もしくは宝石を手に入れるだけでは、約束の5人の解放は無かった事にされる可能性があります。倒して奪う!これをルインが必ず自分でやる必要があります。
「海賊船という事は乗組員もいる。だとしたら1対多数も考えないといけない。しかも討伐推奨レベルは128。どう考えてもこちらが不利。やっぱり他の冒険者と手を組んで動くのがベストなんだろうな」
(アンミリテッドを使えばレベルは151まで上げられる。推奨レベルは超えているから問題ないと思う。でも、ウェインは15回ぐらいは死ぬと言っていた。つまり推奨レベル以上の難しいクエストだと思った方がいいだろうな)
でも、15回です。ウェインは『何度死んでも絶対に無理』とは言わずに15回死ぬと言いました。という事はやり方次第では必ず勝てるという事を意味しています。
「ふぁ~~、今日はもう疲れた。詳しい作戦は明日の朝に冒険者ギルドで聞けばいいさ。船がなければ探せないし」
大きな欠伸をすると、ルインは考えるのも放棄して寝る事にしたようです。布団をかぶって目蓋を閉じました。海賊は海の上にいます。ルインの言う通り、船がなければ探せません。分からない事を考えるよりは身体の疲れを取る方が良さそうです。今日は熟睡出来そうです。
❇︎
❇︎
❇︎
ザァバァン!ザァバァン!と波を蹴散らして黒い帆船が真っ暗な海上を進んでいます。目の前にはさっきまで灯りを付けていた商船がいます。見つかってから、灯りを消しても手遅れです。
「キャプテン!どうします?このままだと街の沿岸に逃げられますぜ!」
浅黒い肌の青年が海賊船の船長にどうすればいいのか聞いています。どう見ても男は若いです。ルインとほとんど同じ年齢ぐらいなのに海賊船で働いています。探せばもっとマトモな仕事もあったでしょうに。スリルと興奮を求めて悪事に手を出してしまったのでしょう。もう後戻りは出来ないようです。
「ぐぅへへへへ、ちょうど良いじゃねぇか♪助けに来た警備船を沈めれば、ゆっくりと積荷を奪えるんだからな。構わねぇ!このまま追跡しろ。でも、見失ったら覚悟するんだぞ。お前を海の底に沈めてやる。ぐぅへへへへ…」
「…へ、へい!もちろんでさ!おい、テメェら!絶対に見失うんじゃねぇぞ!」
これが冗談ではない事は船に乗っている全員が知っている事です。海賊船リーチマイケルの船長《デレス・ドミニケス》は冷酷な人間です。レベルはたったの63ですが、たった1人で格上の兵士や冒険者を何人も殺していました。まさに海上では無敵の強さを誇っていました。
(やっと運が回って来たな。このパイシーズがあれば俺は無敵だ!あの女には感謝しないとな)
デレスの右手首には金の腕輪が嵌められています。腕輪の中央には銀色に輝く不思議な宝石が嵌っていました。
「今日は大量だな!おい‼︎船を止めろ。近づき過ぎると大砲で船が沈められるぞ!俺1人でいい。警備船が沈んだら迎えに来いよ!」
遠くの方に2隻の警備船が見えました。どうやら、あの商船は海賊を誘き寄せる罠だったようです。ザァブン!とデレスは真っ暗な海に飛び込みました。警備船との距離はまだ600~700mはあります。どんなに泳ぎが得意な人でも4~5分ぐらいはかかります。
(へっへへ、力を示せ!《パイシーズ》)
銀色に輝く宝石が妖しく光ると、水中に5つの魔法陣が出現しました。デレスのレベルが63からグングンと上がっていきます。本来ならば犯罪を犯した者は冒険者登録は破棄され、レベルも封印されます。でも、それは捕まった冒険者だけです。デレスは何とか捕まらずに海の上を逃げ続けていました。
(さあ、経験値稼ぎだ。皆殺しにしてやるぜ。もっともっと強くなれば、誰も俺を捕まえる事が出来なくなる。そしたら、海賊は辞めて、今度は陸で暴れてやる。もう逃げ続けるのはウンザリなんだよ!)
筋肉質の太い手足を使い、水中を凄まじい速さで進みます。デレスは700m程の距離を1分もかからずに泳いでしまいました。警備船の船底は金属の板で補強されていました。前回、木の船底を素手でぶち壊したので対策してきたようです。
ブン! ガァン! 右拳を握り締めて、船底の鉄板を強打しました。けれども、デレスの渾身の一撃は弾かれました。右腕を振って痛がっています。
(かぁ~!流石に硬いな。それに沈めるのは勿体ねぇな。予定変更だな。船に乗っている奴らを殺して、船を奪うとするか)
❇︎
「あん?船底に何か当たったようだぞ。岩礁か?」
「そんなドジはしませんよ」
「だったら……」
船底の異変に船上の兵士と冒険者が気づいたようです。レベル60~80前後の総勢20名です。これだけの精鋭を集めれば、推奨レベル200以上の討伐クエストも達成可能です。
ボォギィン‼︎ 突然船の上で何かが折れる音が響きました。暗闇の中からズルズルと何かを引き摺りながら濡れた服の男が現れました。
「こんばんは、皆さん。この辺は海賊が出るらしいので早く陸に引き返した方がいいですよ。ぐっへへへ、もう遅いか」
デレスは死んだ兵士を引き摺っています。さっきの音は兵士の首が折られた音のようです。
「ずぶ濡れじゃないか、デレス。また泳いで来たのか?それとも、乗る船を間違えたのか?ここはお前の船じゃないぞ」
「おいおい、《ケビン・グレタス》。ダリアの海上警備主任じゃないか!あんたみたいな大物が直々に来るなんて、俺も出世したもんだ。うんうん、今度お袋に教えてやらないとな。きっと泣いて喜ぶぜ」
「お前が死んでくれた方がもっと喜んでくれるんじゃないのか?お袋以外にも大勢な。抜刀!包囲!絶対に海に逃がすな!」
ケビン・グレタスは34歳になるダリアの街の海上警備主任です。そのレベルは84と兵士の中でも高い方です。デレスとは2度目の戦闘です。前回は逃げられてしまいましたが、今回は逃がすつもりはありません。剣を持った兵士と冒険者がデレスを完全に包囲しました。
「悲しいなぁ~、あの時の俺のレベルは63。まあ、あの時も全然本気は出していなかったけどな。なあ、ケビンさん。今の俺のレベルが見えるかい?俺だったら見えていたら絶対に戦わないだろうな」
(レベル?63にしか見えない。どういう意味だ……)
残念ながら誰もデレスの本当のレベルが見えなかったようです。その日、3隻の警備船が沈められた事で、デレス・ドミニケス関連のクエストは全て破棄される事になりました。
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「《パイシーズ》か……確か魚座の事だったよな。水中呼吸に水中移動能力の付加。話を聞く限りだと魔法具の一種だろうな」
(確かに水中呼吸と水中移動能力が本当なら凄いだろうけど、魔法具を使うなら必ず魔力が必要になる。だったら時間制限や使用回数があるはず。多分、アンミリテッドと同じだろうな。つまりは隙や弱点は必ず存在する。上手くそこを突けば勝てる。………多分)
身体は動かしませんが、頭は動かします。誰かに海賊デレスを倒される前に、デレスを見つける必要もあります。おそらくはデレスを倒して、パイシーズと呼ばれる宝石を奪うのが今回の課題なのでしょう。デレスを倒すだけ、もしくは宝石を手に入れるだけでは、約束の5人の解放は無かった事にされる可能性があります。倒して奪う!これをルインが必ず自分でやる必要があります。
「海賊船という事は乗組員もいる。だとしたら1対多数も考えないといけない。しかも討伐推奨レベルは128。どう考えてもこちらが不利。やっぱり他の冒険者と手を組んで動くのがベストなんだろうな」
(アンミリテッドを使えばレベルは151まで上げられる。推奨レベルは超えているから問題ないと思う。でも、ウェインは15回ぐらいは死ぬと言っていた。つまり推奨レベル以上の難しいクエストだと思った方がいいだろうな)
でも、15回です。ウェインは『何度死んでも絶対に無理』とは言わずに15回死ぬと言いました。という事はやり方次第では必ず勝てるという事を意味しています。
「ふぁ~~、今日はもう疲れた。詳しい作戦は明日の朝に冒険者ギルドで聞けばいいさ。船がなければ探せないし」
大きな欠伸をすると、ルインは考えるのも放棄して寝る事にしたようです。布団をかぶって目蓋を閉じました。海賊は海の上にいます。ルインの言う通り、船がなければ探せません。分からない事を考えるよりは身体の疲れを取る方が良さそうです。今日は熟睡出来そうです。
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ザァバァン!ザァバァン!と波を蹴散らして黒い帆船が真っ暗な海上を進んでいます。目の前にはさっきまで灯りを付けていた商船がいます。見つかってから、灯りを消しても手遅れです。
「キャプテン!どうします?このままだと街の沿岸に逃げられますぜ!」
浅黒い肌の青年が海賊船の船長にどうすればいいのか聞いています。どう見ても男は若いです。ルインとほとんど同じ年齢ぐらいなのに海賊船で働いています。探せばもっとマトモな仕事もあったでしょうに。スリルと興奮を求めて悪事に手を出してしまったのでしょう。もう後戻りは出来ないようです。
「ぐぅへへへへ、ちょうど良いじゃねぇか♪助けに来た警備船を沈めれば、ゆっくりと積荷を奪えるんだからな。構わねぇ!このまま追跡しろ。でも、見失ったら覚悟するんだぞ。お前を海の底に沈めてやる。ぐぅへへへへ…」
「…へ、へい!もちろんでさ!おい、テメェら!絶対に見失うんじゃねぇぞ!」
これが冗談ではない事は船に乗っている全員が知っている事です。海賊船リーチマイケルの船長《デレス・ドミニケス》は冷酷な人間です。レベルはたったの63ですが、たった1人で格上の兵士や冒険者を何人も殺していました。まさに海上では無敵の強さを誇っていました。
(やっと運が回って来たな。このパイシーズがあれば俺は無敵だ!あの女には感謝しないとな)
デレスの右手首には金の腕輪が嵌められています。腕輪の中央には銀色に輝く不思議な宝石が嵌っていました。
「今日は大量だな!おい‼︎船を止めろ。近づき過ぎると大砲で船が沈められるぞ!俺1人でいい。警備船が沈んだら迎えに来いよ!」
遠くの方に2隻の警備船が見えました。どうやら、あの商船は海賊を誘き寄せる罠だったようです。ザァブン!とデレスは真っ暗な海に飛び込みました。警備船との距離はまだ600~700mはあります。どんなに泳ぎが得意な人でも4~5分ぐらいはかかります。
(へっへへ、力を示せ!《パイシーズ》)
銀色に輝く宝石が妖しく光ると、水中に5つの魔法陣が出現しました。デレスのレベルが63からグングンと上がっていきます。本来ならば犯罪を犯した者は冒険者登録は破棄され、レベルも封印されます。でも、それは捕まった冒険者だけです。デレスは何とか捕まらずに海の上を逃げ続けていました。
(さあ、経験値稼ぎだ。皆殺しにしてやるぜ。もっともっと強くなれば、誰も俺を捕まえる事が出来なくなる。そしたら、海賊は辞めて、今度は陸で暴れてやる。もう逃げ続けるのはウンザリなんだよ!)
筋肉質の太い手足を使い、水中を凄まじい速さで進みます。デレスは700m程の距離を1分もかからずに泳いでしまいました。警備船の船底は金属の板で補強されていました。前回、木の船底を素手でぶち壊したので対策してきたようです。
ブン! ガァン! 右拳を握り締めて、船底の鉄板を強打しました。けれども、デレスの渾身の一撃は弾かれました。右腕を振って痛がっています。
(かぁ~!流石に硬いな。それに沈めるのは勿体ねぇな。予定変更だな。船に乗っている奴らを殺して、船を奪うとするか)
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「あん?船底に何か当たったようだぞ。岩礁か?」
「そんなドジはしませんよ」
「だったら……」
船底の異変に船上の兵士と冒険者が気づいたようです。レベル60~80前後の総勢20名です。これだけの精鋭を集めれば、推奨レベル200以上の討伐クエストも達成可能です。
ボォギィン‼︎ 突然船の上で何かが折れる音が響きました。暗闇の中からズルズルと何かを引き摺りながら濡れた服の男が現れました。
「こんばんは、皆さん。この辺は海賊が出るらしいので早く陸に引き返した方がいいですよ。ぐっへへへ、もう遅いか」
デレスは死んだ兵士を引き摺っています。さっきの音は兵士の首が折られた音のようです。
「ずぶ濡れじゃないか、デレス。また泳いで来たのか?それとも、乗る船を間違えたのか?ここはお前の船じゃないぞ」
「おいおい、《ケビン・グレタス》。ダリアの海上警備主任じゃないか!あんたみたいな大物が直々に来るなんて、俺も出世したもんだ。うんうん、今度お袋に教えてやらないとな。きっと泣いて喜ぶぜ」
「お前が死んでくれた方がもっと喜んでくれるんじゃないのか?お袋以外にも大勢な。抜刀!包囲!絶対に海に逃がすな!」
ケビン・グレタスは34歳になるダリアの街の海上警備主任です。そのレベルは84と兵士の中でも高い方です。デレスとは2度目の戦闘です。前回は逃げられてしまいましたが、今回は逃がすつもりはありません。剣を持った兵士と冒険者がデレスを完全に包囲しました。
「悲しいなぁ~、あの時の俺のレベルは63。まあ、あの時も全然本気は出していなかったけどな。なあ、ケビンさん。今の俺のレベルが見えるかい?俺だったら見えていたら絶対に戦わないだろうな」
(レベル?63にしか見えない。どういう意味だ……)
残念ながら誰もデレスの本当のレベルが見えなかったようです。その日、3隻の警備船が沈められた事で、デレス・ドミニケス関連のクエストは全て破棄される事になりました。
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