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第2章・海賊編

第25話・海賊船への道

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 キョロキョロ! 男は周囲を念入りに警戒した後に話し始めた。こんな路地裏にいるのは怪しい人間か、元気なだけの男です。

「俺はトレイン。お前の名前は何だ?そのレベルなら冒険者やってんだろ」

「俺はルイン。冒険者で、昨日この街に着いたばかりなんだ。歓楽街で遊ぼうと思っていたんだけど、手持ちの金貨はたったの1枚。困っていたら妙な噂話を聞いてね。海賊に情報を売れば金貨10枚も貰えるんだろ?良い情報があるんだ!」

(……聞いてもいないのにベラベラと説明しやがって……コイツ!相当に遊びたいんだな。気持ちは分かるぜ)

 勘の鈍い男で助かりました。まだ疑われていないようです。でも、気をつけないとバレてしまうかもしれません。必要以上の事は話さない方が良さそうです。

「それは商船の情報の値段だよ。関係ない話を持っていっても意味ないぜ。さてと、どんな情報なんだ?」

「命に関わる情報だよ。それ以上は言えない。あんたを信用していない訳じゃないけど、話した後に情報を持ち逃げされたら最悪だろう。直接、会って話すよ。もちろん貰った情報料の半分はお礼に渡すよ。当然だろ?」

(命に関わる情報ねぇ?最低でも金貨20枚ぐらいの価値はありそうかもな。その半分か……)

「スゥ~~、ハァ~~……よし、行こうか!港の近くに小舟がある。そこにいる2人の男が海賊船まで案内してくれるはずだ。そこまでは連れて行ってやるが、その後はどうなるか分からねぇ。それでもいいか?」

「もちろん!」

 トレインは大きく深呼吸するとルインを海賊達に会わせる事を決めました。命に関わる情報が本当ならば金貨20枚どころか、30枚は貰えそうです。連れて行くだけでその半分が貰えるなら、こんな楽な儲け話はありません。

 ザッザッザッ! ルインはトレインの後をついて行きます。最初から目的の場所が南部の港にあると分かっていたら、無駄な時間とお金を使わずに済みました。そもそも、ウェインが現れないのがおかしいのです。普段ならばとっくに現れていい頃です。

(サボっているのか、試されているのか……とりあえず、もうアイツの手助けは必要ないな。デレスを見つけて……あれ?デレスってどんな奴なんだ?)

 ルインは今頃、気がついたようです。海賊船に乗る事だけに集中し過ぎて、肝心のデレス・ドミニケスの情報はほとんどありません。分かっているのは、強くて男だという事だけです。

(とりあえず、船の中で一番レベルが高い奴がデレスだろうな。そいつを殺せばいい)

 なんとなく思い付いた作戦ですが、これが一番デレスを殺す確率が高そうです。まあ、どうしても誰が船長のデレスか分からない場合は皆殺しにすればいいだけです。元々、相手は海賊です。手加減する必要はありません。それだけの悪事をやっているのです。

 ガヤガヤガヤ! 今の時間帯は晩ご飯用の食材を買う為に沢山の地元住民と飲食店のシェフがやって来ているようです。大いに市場は人混みで賑わっていました。

「そういえば船長のデレス・ドミニケスってどんな男なんですか?やっぱりかなり強いですよね!」

 やっぱり気が付いてしまうと、気になるようです。まだ、目的の場所に着くまでしばらく時間がかかりそうです。雑談を装えば聞けそうな雰囲気です。

「何だ、そんな事も知らなねぇのか。デレスはこの街の元冒険者だよ。元々は漁師だったんだが、昔から短気で喧嘩早けんかばやくてな。それで冒険者に転職したんだが、そっちでも上手くいかなかったらしい。今は海賊に落ち着いているけど、いつまで続くか正直分からねぇな。はっは、次は盗賊か、山賊だろうよ」

「へぇーー、そうなんですか」

(肝心の容姿が1つも分からない。漁師で性格が短気な奴は結構いるし)

 もっと情報を集めたいのに時間切れのようです。小舟の前にガラの悪い若い男が2人立っていました。

(レベル32とレベル36……デレスが元冒険者ならば金に困っている冒険者を海賊に引き込む可能性もあるだろうな)

 2人のレベルは街の住民と比べると高い方ですが、そのレベルは冒険者1、2年目程度です。汗水流して危険なモンスターと戦うよりは、楽に稼げる海賊行為が、若者達には魅力的に見えたのかもしれません。

「ふぅわぁ~、トレインか……誰だよ、そいつは?」

 男の1人が大欠伸をした後に聞いてきました。昨日の夜、警備船を襲ってから帰って来たばかりなのか、とても眠そうにしています。

「へい!どうも船長の命に関わる情報があるらしいんです。念の為に連れて来ました!」

「へぇ~、そうか。もう行ってもいいぞ。あとはこっちでやっておく」

「へい!今後ともよろしくお願いします」

 ペコリ! ダッダッダッ! トレインはペコペコと頭を何度も下げながら走って帰っていきました。どうも下っ端感が半端ない奴です。

「さてと、船長には俺達が伝えておくよ。有益な情報なら金もこの場で払う。それなら文句ないだろう?」

(意外と警備は厳重なんだな。簡単には船までは連れて行ってくれないか……)

「それは出来ません。あなた達2人のうち、どちらかが魔法使い協会のスパイの仲間かもしれません。魔法使いの顔を知っているのは俺だけです。船にもう乗り込んでいるので早くしないとヤバイと思いますよ」

 当然、嘘です。魔法使い協会が動くのはもう少し後のはずです。でも、効果覿面てきめんのようです。

「俺も魔法使い協会が動くのは今朝聞いたよ。でも、実際に動くのは数日後だろ?」

「いえ、その情報は嘘のようです。警備船が沈められた場合は、油断している所を狙うと、昨日の閉店前の冒険者ギルドで職員と魔法使いが話しているのを聞いてしまいました。少なくとも2人、魔法使いが船にもう乗って居ます。船長が殺られたら、全員絞首刑ですよ!」

「ちょ、ちょっと待ていろ!2人で話すから!」

(ハァハァ!ハァハァ!こんな才能があったなんて)

 自分に嘘を吐く才能があった事にルインは驚きました。でも、最近は日常的に嘘を吐いているので、ただ慣れただけです。

 冒険者ギルドの情報も海賊達は手に入れる事が出来るようです。そういう情報も買取っているのでしょう。船長が短気な性格なので手下も馬鹿だと思っていましたが、意外と隙も油断も少ない賢い組織のようです。今もルインを船に連れて行くか、信用出来るか、仲間同士で話し合っています。

「分かった。船に連れて行くが、手持ちの武器があれば預からせてもらう。流石にそこまでは信用出来ないからな。それと名前を教えてくれ。名前が分からないとボスに紹介出来ねぇからな」

「ルインです」

「分かった。俺達の名前は聞くんじゃねぇぞ。聞いても偽名か、話せねぇけどな。さあ、乗れ。ちょっと時間はかかるが夜までには着くだろうよ」

 武器のアイアンダガーとナックルダスターを渡すと、ルインは2人の男と一緒にユラユラと揺れる小舟に乗りました。4人乗りの船ですが、頑張れば6人は乗れそうです。ちょっとした食糧の運搬に使っているのかもしれません。

 ギィコ! ギィコ! 1人が船に座って、左右に1本ずつあるオールを軽快に漕いで船を進めます。もう1人は船尾で舵を切っています。まだまだぎこちない漕ぎ方です。多分、元漁師ではありません。

(船に乗るのは久し振りだな。何だか島に戻った気分になるよ。でも、これから人殺しをしないといけない。多分、いっぱい殺す事になるだろうな)

 相手は海賊ですが人間です。沢山殺したゴブリンは人と似ている姿の亜人系モンスターでした。言葉も話していました。でも、殺す事になんの戸惑いもありませんでした。海賊とゴブリンは内面だけならどちらも醜悪なモンスターです。殺す事に戸惑ってはいけません。

(もしかすると、廃棄ダンジョンのゴブリンを大量に殺させたのは、海賊を殺す予行練習だったのかもな。人型のモンスターを殺すのに慣れさせれば、海賊も殺せると思っているのなら大間違いだけど)

 人は人。モンスターはモンスターです。見た目で判断してはいけないですが、醜悪な外見のモンスターと人間はやっぱり違います。内面の醜さを見る事が出来ない以上は外見で判断するしかありません。例えどんなに醜い内面を持っていても美しい人間はいます。そうクローリカのような人間が……。

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