代償魔法《デッド・オア・キル》〜260人の命を背負う不死身の冒険者〜

もう書かないって言ったよね?

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第2章・海賊編

第26話・レベル161

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 ギィコ! ギィコ! 確かに海賊の片方が夜ぐらいには海賊船に着くだろうと言っていました。理由は船までの距離が遠いからではなく、この2人が交替しながらオールを漕いでいるからでしょう。要するに船のスピードが最初の頃と比べると遅くなっているのです。

(30分に1回は交替しているよ。これなら自分で漕いだ方が速いかもな)

 ルインはそう思いながらも『漕ぎましょうか?』とは決して聞かないようにしています。これから海賊船の船長を殺しに行くのに、体力を無駄に消費する馬鹿はいません。出来ればこの2人の体力も限界まで削っていた方が得策です。

「もっと速く漕いでください!船長が殺されたらどうするんですか!僕が舵を切るので2人でオールを漕いでくださいよ!」

 ルインの言う通りです。今日中に見つけて仕留める事が出来なければ、魔法使い達にデレスは殺されてしまいます。ルインに残された最大のチャンスは今日しかありません。

「ハァハァ、コルソン!コイツの言う通りだ。お前も漕げ!」

「おう!」

 緊急事態なので、いつもより頑張って漕いでいるようですが、それでも遅いです。ルインの指示通り仲間の1人を呼んで2人で漕ぎ始めました。さっきよりは確実に速くなりました。

(コルソンね。偽名かな?船が見えたらこの2人を殺して奪われた武器を取り返す。そして、アンミリテッドを使って、デレスと船に乗っている海賊全員を殺す。これで1回使用するだけで勝負は決まるはず。残る問題はどうやって街に戻るかだけ)

 でも、襲撃者が現れたらデレスが一目散に海に飛び込んで逃げる可能性もあります。だとしたら、この2人は殺さずに情報を話すとデレスに接近した際に、アンミリテッドの不意打ちで1発で決める方が逃げられるリスクは少なそうです。その場合は素手での攻撃ですが、ゴブリン程度ならば頭蓋骨ごと粉々に粉砕出来ました。1発では無理でも、2発、3発と叩き込めば倒せるはずです。

「あっ⁈船が見えました!あれですか?」

 遠くの方に船が何隻か見えました。船は錨を下ろして止まっているようです。見えるだけで5隻の船が見えました。

「ああ、あれだ。昨日奪った船が3隻と船長の船があの黒い帆船リーチマイケル号だ。どうやら間に合ったようだな」

 確かに間に合いました。そもそも魔法使いなんて船に乗っていません。でも、伝える情報は間違いありません。船長の命に関わる情報です。そう船長の命を狙う者がすぐ近くまで来ています。

 ❇︎

「おい!梯子はしごを下ろしてくれ!緊急事態だ!」

 ブン! ジャラジャラ! ガァン! 船の上から縄梯子が投げ落とされて来ました。海賊の1人が急いで縄梯子を使って船の上に上って行きます。ルインは用心の為か2番目に上る事になりました。

「そうか。ガセネタじゃないだろうな?嘘だったら場合はお前にも責任を取ってもらうからな」

 先に上った海賊が坊主頭のいかつい男と話していました。

「もちろんです。覚悟の上です。でも、同じ事があれば何度でも同じ事をします。俺達にとってキャプテンは命なんです!キャプテンに死なれたら、俺達も終わりなんです。そうだろ、皆んな!」

 うおおぉぉ! 野太い雄叫びが上がります。今は勝利を祝した宴会の最中のようです。船の甲板の上には50人以上の海賊達が集まっていました。

(予想よりも人数が多い。レベル56、64、63……どうやら、この3人が幹部か、船長だろうな。でも、あの男が走って報告したのはあの坊主頭の63か。あれが船長、いや副船長という可能性もある。どっちだ?)

 レベル64の方が副船長のベンジャミン・ブルックです。そして、目当ての船長デレス・ドミニケスはレベル63の方です。ゆっくりとルインに近づいて来ました。

「おお!遠路はるばる悪いな。早速だが魔法使いが2人ほど乗っているんだろう?どいつとどいつだ?早く殺して宴会の続きをしたいんだ。報酬は魔法使いを殺した後に金貨50枚でどうだ?魔法使いが居ればな。ぐっへへへへ」

 笑顔で歓迎してくれたと思ったら、すぐに表情が変わりました。デレスはルインの情報が本当か、嘘かすぐに確かめたいようです。魔法使いが居れば本当、居なければ嘘です。つまりは嘘だった場合はルインは殺されます。

(コイツが船長か……武器は持ってないけど、両手の拳が傷だらけだ。短気で喧嘩早いのは本当らしいな)

「すみません。昨日、街に着いたばかりで、デレス船長の顔を知らないもので、あなたがデレス船長ですか?」

「おいおい、これでも街では有名人なんだぜ!ぐぅへへへへ、何処の田舎からやって来たんだよ。俺が確かにこの船の船長デレスで間違いねぇよ。それよりも魔法使いはこの船には乗ってねぇのか?別の船に乗っているのなら乗れよ!連れて行ってやるよ!」

 デレスは自分の背中を指差して言いました。船で行くよりはデレスが泳いだ方が確実に速いです。ルインを背中に乗せて泳ぐつもりのようです。

(水中呼吸に水中移動能力、余程泳ぎに自信があるんだろうな。背中に乗れば確実に先制攻撃が取れる。でも、倒し切れなければ水中戦になるのか……だとしたら、船の上の方がまだマシかな)

「ええ、確かにここには居ないようです。別の船に乗っているようです」

「そうかそうか……それよりもお前が見た魔法使いの特徴を教えてくれよ。女か?男か?髪の色はやっぱり違うのか?お前にもしもの事があったら分からねぇだろ。先に教えておいてくれよ。なぁ?」

 少しルインを疑い始めたようです。デレスは魔法使いの特徴を聞いてきました。船に乗っている仲間の顔ぐらいは覚えています。身長、体型、年齢、髪の色、肌の色で大体の船員がどの船に乗っているか分かっています。特徴に合う人物がいれば確認して、特徴に合う人物が全くいなければ、ルインともう少しお話する必要がある事を意味します。

(短気以外の性格に、用心深いもありそうだな。それにコイツが船長なのは分かった。さっさと殺そう)

 代償魔法《アンミリテッド・キル》発動‼︎

 残り249人……。

 心の中で念じるだけで代償魔法は使えます。ルインのレベルは一瞬で51から151に上昇しました。

 ギュ! ブーン! ゴォパァーン‼︎ 右拳を握り締めると、酒臭い息のデレスの顔面に拳を叩き付けました。

「グッ‼︎……痛ってなぁ!」

 デレスはその場で軽くふらついただけで殆どダメージがないようです。

(なっ!レベル161⁉︎)

 ルインの魔眼にはデレスの本当のレベルが見えてしまったようです。一撃で殺せない訳です。

「っっつ……やっぱり嘘だったか。いや、本当か。お前が魔法使いだったようだな。レベル151なら俺と同じランク4か。痛い思いをしたのは久し振りだぜ!」

 ダァン! デレスは甲板を踏み壊して一気にルインとの間合いを詰めて来ました。

 一瞬の事です。回避は難しいです。ルインは両腕をクロスさせて腹部をガードするので精一杯でした。

 ブーン! ドォガァン‼︎ 強烈なデレスの右ストレートがガードの隙間を通ってルインの腹部にめり込みました。

「グッヘェッ!……ゴォホッ!ゴォホッ!」

(ぐっ、パンチの一撃が違い過ぎる)

 ルインは甲板の上に膝をついて咳き込みます。レベル差はほとんどありませんが、歴戦の戦士と比べたら、こっちは素人です。元々の身体能力と戦闘技術が違い過ぎるのです。

(はっは、なるほどな。ウェインが言っていたのはこの事か。確かに鍛えないと勝てない相手だろうな。素手の状態ならな!)

 ダッ! ルインはいきなり走り出しました。狙いはコルソンに預けた武器です。どう考えてもデレスは素手で倒せる相手ではありません。パワーや頑丈さならばデレスが上でも、スピードだけならそこまで差はありません。武器さえあれば勝機はあるはずです。

「おいおい、何だよ!魔法使いなら魔法使えよ!それとも魔法使いじゃないのかよ!」

(使えたら、とっくに使ってるよ!それよりもナックルダスターだと結局接近戦になるのか……15回か……)

 ウェインの予想通りに15回死ぬつもりはありません。最低でも残り2回。もしも殺された場合は《リライト》待機中の姿が見えない状態を利用して、デレスに接近して《アンミリテッド》で一気にその首を掻き斬って殺すつもりです。最低でも最高でも3回で勝負を決めてみせます。

 ❇︎


 
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