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第2章・海賊編

第27話・一撃の重み

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「ヒィ!こっちに何で来るんだよ!」

 ゴォト! コルソンは驚いて持っていた武器を甲板に放り投げて逃げました。いきなりルインがこっちに向かって来たのです。レベル32のコルソンならゴブリン同様に瞬殺されてしまいます。

「この野郎!その武器高かったんだぞ!壊れたらどうすんだ!」

 そういえばナックルダスターは昨日買ったばかりの新品です。なんでも買ったばかりの新品の時は必要以上に大事にします。でも、落とした程度で壊れるような金属製の武器はただの欠陥品です。それにルインは自分のお金を1ゴールドも使っていません。

 ガシィ! ルインは甲板の上に落ちているナックルダスター2個を拾うと左右の手に素早く嵌めました。

「おいおい、最近の魔法使いは肉弾戦もやるのかよ?でも、さっきの動きは素人と丸出しだったな。お前本当に誰だよ?」

(冒険者だとしても、クエストは無効、タダ働きだ。だとしたら、昨日殺した兵士か、冒険者の知り合いが妥当か……何にしても排除しねぇと落ち着かねぇな)

 デレスはルインに左手を右手より少し前に突き出して構えました。格闘技は一度もまともに習っていません。喧嘩と実戦で鍛えられた構えのようです。

(時間はまだ4分以上ある。レベルも身体能力もあっちが全て上。勝てる部分があるとしたら死ねる回数が多いだけか……はっは、一旦帰ってレベルを上げたくなるよ!)

 ダァン! ルインは甲板を踏み壊してデレスに向かって行きました。当然、レベルを上げる時間なんかありません。今逃せば次はありません。力も技術も勝てないのなら、根性で勝つしかありません!

 右腕を高く振り上げると、デレスの顔に向かって突き出します。まともにダメージが与えられるのはこの場所ぐらいです。

 ダァン‼︎ ブゥオ! 「《剛拳ごうけん》‼︎」 踏み込んだ左足が甲板を破壊します。左足を軸にデレスの右拳が真っ直ぐルインの腹に吸い込まれていきました。

 バキィン‼︎ 「ゴォハアッ⁉︎」 今の一撃でルインの肋骨が何本か折れたようです。ゴロゴロと木の甲板を吹き飛ばされて転がって行きました。

「ぐぅへへへへ、どうだ俺の拳の味は?気絶するほど美味いだろう?魔法使いどもの基本防御魔法を攻撃に応用したんだぜ!このパイシーズは本当に凄えよ!人間の俺に魔力まで与えてくれるんだからよ」

「ゴォボォ⁈ゴォボォ‼︎ハァッッ!ハァッッ!」

(何が起きた?何が起きた?)

 ルインは血を吐き出しながら、必死に意識を回復させようとしています。痛みで頭の中は真っ白です。自分に何が起こったのかも理解していないようです。

「凄えぜ!船長!さすがは最強だぜ!」

「殺せ! 殺せ! 殺せ!」

 周囲の海賊達も大盛り上がりのようです。誰もがルインが負けると確信しているようです。ただ1人を除いては……。

(《グラップス》か。身体の中に流れる魔力を1箇所に集めて、魔力の鎧を作る基本魔法だったな。並の武器だと傷も付けられないだろうな。奴の隠し球といったところか……さて、どうする、ルイン?)

 海賊達の中に黄色の宝石を嵌め込んだ金色の腕輪をつけている男が紛れていました。レベルは相変わらず54と中途半端な強さです。

「ゴォホ!ゴォホ!へっへへ、そんな女パンチ効かねぇよ。俺を殺したいなら男に生まれ変わって出直して来いよ。ハゲ女」

 どう見ても女パンチを喰らったダメージではなさそうです。何とか立ち上がったものの、足をガクガクさせて立っているのがやっとの状態です。

「そうか!そうか!だったら場所を変えた方が良いよな。スペシャル水中リンチタイムが始まりま~す!」

 ガシィ! ルインの身体を片手で掴むと持ち上げました。このまま海に放り込んで水中で少しずつ痛ぶるつもりのようです。

(それは予定通りではない。力を示せ《アリーズ》!)

 ヴーン! ルインが放り込まれるよりも早く船全体が結界の中に閉じ込められました。

 ブン! ガァン! ルインは海に向かって放り投げられました。けれども、見えない何かに打つかると甲板に垂直に落ちて来ました。

「おい!今何しやがった?魔法を使ったのか?」

 ルインは甲板の上で虫の息です。まともに返事も返せないようです。

(チッ、コイツじゃねぇか……まさか、仲間がもう1人乗っているのか?)

 コンコン! コンコン! あっちこっちで海賊達が船端の空中を叩いています。見えない壁が船全体を覆っているようです。

「船長!船全体に見えない壁があります。出られません!」

「閉じ込められた?見えない壁?ダンジョンの結界みたいなものか……だったら、《剛拳》‼︎」

 ゴォン‼︎ 魔力を右拳に集中させると全力の一撃を結界に打つけました。けれども、何の変化も起きないようです。結界は変わらずにそこにありました。

「クソッタレ!一撃じゃ壊せねぇか」

(ごめん、自殺するね。この身体じゃ戦えない)

 ドォス! ドォス! ルインは自分の心臓に左右のナックルダスターの短剣部分を突き刺すと、自殺しました。デレスが混乱している今が絶好チャンスです。

 代償魔法《リライト・デッド》発動‼︎

 残り248人……。

(フゥ、フゥ、よし!奴のすぐ後ろまで移動して、背後から短剣で両目を突き刺してやる!即死は無理でも、重傷ぐらいには出来るだろうよ!)

 今の幽体状態ならば誰の目にも見えません。完全な奇襲攻撃です。初見ならば誰も防ぐ事は出来ません。

 ゴォン‼︎ ゴォン‼︎ デレスは最大の一撃を何度も何度も見えない結界に打つけますが、効果はないようです。

「クソ!クソ!何だよコレ!俺を閉じ込めて餓死させるつもりかよ!クソッタレの冒険者ギルドめ!」

 デレスは冒険者ギルドの仕業だと思っているようですが、この結界を張っている人物はすぐ近くにいます。ギルドは全く関係ありません。

(《リライト》待機状態強制解除!《アンミリテッド・キル》発動!)

 残り247人……。

 シュン! ドォス!ドォス! デレスの背後にルインが突然現れました。瞬時に左右の短剣がデレスの両目を同時に突き刺して潰してしまいました。

「ギャアアアツッッッ!!!目が目が!アッギャアア!!!」

「船長!どうしたんですか!お前、何で動けるんだよ!」

 デレスは両目を押さえてつけて悲鳴を上げて苦しみ踠いています。どう考えても異常事態です。手下達も結界を壊す手を止めて、船長とルインの2人を見ています。船長を助けるべきですが、それが出来ると思うならもう動いています。

「どうした?このままだとお前達の大事な船長が俺に殺されるぞ。誰も助けに来ないのか?はっは、安心しろよ。殺すのはコイツ1人で十分だ。」

 ダァン! ザァンザァン! 左右の刃で隙だらけになったデレスの身体を切り刻んでいきます。残り時間は4分もあります。何十回、何百回斬れば死ぬかは分かりませんが、死ぬのはもう決定事項です。

「ゔぁつ!アグっ!止めろ!頼む!もう海賊はやめる!アギャ!やめて!」

 そんな言葉は聞きたくありません。信じるつもりもありません。失った目なら魔法の力で別の目と交換する事が出来ます。もしも再び目が見えるようになったら、海賊に戻る事は目に見えています。

「いいぞ。ルイン・バンクス。殺すのなら容赦するな。血の一滴も残さず身体から流させろ」

 ルインの猛攻は続きます。上半身を中心に背中や胸を切り刻み続けます。両腕でガードしようとすれば今度は腕を乱暴に何度も切り刻みました。

「痛い…もう嫌だ…」

「ハァハァ!お前も疲れただろう?そろそろ眠っていいぞ!」

 ダァン! ドォスン‼︎ ルインはデレスの背中に飛び乗ると、首を左右同時に短剣で深く突き刺しました。

「あぐっガァ!あっ、あっ……」

 ドォサァ! デレスは血だらけの甲板の上に前のめりに倒れました。首をかなり深く刺したのにそこまで血が吹き出ませんでした。まだデレスの赤文字は消えません。完全に死ぬまでもう少し時間が必要なのでしょう。残り時間は1分を切りそうです。海賊の中でレベルが高い者から優先的に殺さないと時間が勿体なさそうです。

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