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第2章・海賊編

第28話・試練

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「行け!行け!ビビってんじゃねぇぞ!アイツを殺らなきゃ、全員殺されるんだぞ!」

 副船長のベンジャミンが残った全員でルインを倒すよりに激を飛ばします。自分が狙われている事はルインの動きを見れば分かります。

 ザァンザァン! ドォゴォ! ルインは向かって来る海賊達をナックルダスターの刃で斬り裂き、拳で殴り飛ばします。海賊達のレベルはほとんどが40~50の間です。低いのはレベル30と相手にもなりません。

(厄介なのはレベル51より上で、戦闘技術が高い数人だけ。多分、レベル30程度はアンミリテッドも使わずに勝てるはず。モンスターとの戦闘経験もかなり少ないだろうな)

 ルインの予想通り、レベル30程度は冒険者としての活動が1~2年程度がほとんどです。それなりの戦闘経験はあるものの、殺されるような強敵とは戦った事もないはずです。安全なクエストをパーティで達成してレベルを上げるような、仲良し冒険者達です。

 ゴォン! ゴォン! 結界を壊そうとまだ頑張っている人がいるようです。船長のデレスが死んだのに相変わらず結界は消えずに健在けんざいです。50人以上の海賊が最後の1人になるまで、この結界は消えそうにないです。

 ガァン! ギィーン! 副船長はルインの拳撃を愛刀のカトラスで受け止めると、力で弾き返しました。

「はっ、はっはは!魔力切れか?船長もそうだったが、魔力が切れたんだろ!お前ら!今がチャンスだ、ブチ殺せ!」

 アンミリテッドの効果が切れたようです。レベルが元の51に戻ってしまいました。海賊達はこのチャンスを見逃してはくれないようです。

(《アンミリテッド・キル》発動!……それよりも1人も現れない。今ので代償魔法は4回目。なんでいつものように島の人間が現れないんだ?)

 残り246人……。

 代償魔法の効果が切れると、ルインは躊躇なく次を使用しました。これで4回目、つまりは4人死んだ事になります。迷えばより多くの犠牲者が必要になります。もう迷う事はなさそうです。

 ゴォフ! バァギ! ブロードソードを持った髭の海賊と、ダガーを持った赤バンダナの海賊が勇敢にルインに斬り掛かって行きましたが、呆気なく殴り飛ばされました。

「グゥヘェ‼︎……副船長~、め、メチャクチャ強いです!」

「そんな訳ねぇ!油断してんじゃねぇぞ!死ぬ気でブチ殺せ!」

 ダッダッダッ! 手下にはそんな事を言いながら、自分は戦わないようです。船の上には逃げ場はないのに何処かを目指して走って行きました。

(あの腕輪だ!あれを嵌めれば勝てるんだよ!お前ら死にたくなかったら、しっかりと時間稼ぎするんだぞ!)

 ベンジャミンは船長デレスの死体を目指して走ります。パイシーズの腕輪を嵌めれば、一発逆転出来ると思っているようです。

「おい!お前!船長の腕輪を外してこっちに投げろ!早くしろ!」

 デレスの死体の近くには、血の付いた剣を持った男が立っていました。副船長の声が聞こえたはずなのに、全く動こうとしません。

「お前で7人目か。この腕輪は強者の素質がある者にしか扱えぬ。欲しければ力尽くで奪ってみるんだな」

 男が持つ剣の切っ先が、ベンジャミンにゆっくりと向けられていきます。副船長と戦うつもりのようです。

(レベル54?ステファン?ダニー?いや、アイツはあっちの船か……誰だ?)

「おい、お前誰」

 ヒュン! ザシュ‼︎ フードの男が剣を軽く振り払っただけで、ベンジャミンの首が宙に跳ね上がりました。

「資格はなしか……さて、あっちも片付いたようだな」

 ドォスン! ナックルダスターの刃が海賊の首に深く突き刺さりました。ルイン1人で40人以上の海賊を殺しました。そして、残りはたったの1人しかいないようです。甲板の中央にフードの男が立っていました。

「レベル54か……ウェインか?」

 こんな所にいるレベル54は、コイツぐらいしかいません。フードを取ると蒼い髪の見慣れた顔がそこにありました。

「ふっふ、この船の場所がよく分かったな。もう少しかかると思っていたが、意外と優秀らしい。それとも運が良かっただけか。さて、時間が勿体ないな。このパイシーズを使うに値するか試させてもらうぞ!」

「何言ってんだ!俺には戦う理由はない!」

「私にはある。構えろ!死ぬぞ!」

 ヒュン! 右腕の黄色の宝石が輝くと、ウェインの姿が一瞬で目の前から消えました。

「なっ⁉︎」 (消えた⁈いや、転移魔法か!)

 ザァン! 突然、ルインの背中に衝撃が走りました。気が付いた時には剣で切られていました。

「ぐぅガァッ⁉︎この野朗!」

 ブン! 背後を思い切り殴り付けましたが、もう誰もいません。ウェインはまた消えたようです。

「おい!戦う理由は何だ?俺はそんな宝石は欲しくない。さっさと約束通りに島の人達を5人解放しろ!解放したら戦ってやるよ!」

 ヴーン! 甲板の上に黄金に輝く魔法陣が出現しました。魔法陣の上からウェインが現れました。

「はっはははは、確かにその通りだな。……だが、こちらの目的を先に済まさせてもらおうか。残り2分以内にこの腕輪に触れる事が出来れば合格。私は殺すつもりはない。痛め付けるだけだ。もう一度言う!さあ、かかって来い!」

(チッ、聞く耳を持たないか!……転移魔法を使えるのは確実だろうな。それで一瞬で別の場所に移動する事が出来る。でも、欠点はある。こっちが常に移動していれば追い付かれる事はない。あくまでも長距離移動用の魔法で実戦向きの魔法じゃない!)

 ダッダッダッ‼︎ ルインは一気にデレスの腕輪に向かって走ります。この距離と今のスピードならば5秒もあれば触れる事が出来るはずです。

「正解だが、遅いな」

 ダァン! ドォゴォ! ウェインは軽く踏み込んだだけでルインの目の前に移動しました。左の拳を握り締めると、ルインの腹部を強打しました。

「ゴォホッ⁉︎」 (速い⁉︎)

 ブン! ブン! ウェインの攻撃は止まりません。レベル54の速さではありません。レベル151のルインが避けるだけで精一杯です。

「どうした?避けるだけか?早く攻撃して来い!」

 右、左、下からと目にも止まらないスピードでウェインの両拳が襲い掛かって来ます。どう考えても攻撃スピードが違い過ぎます。

「ハァッ!フゥッ!クッ!」 (ほとんど攻撃は見えない!喰らわないように大きく避けるだけで精一杯!反撃が無理なら……力の全てを移動に使う!)

 ルインはウェインの挑発には乗らないようです。大きく後方に飛び退くと、冷静に周囲を見渡して使えるものが落ちていないか探しました。

(海賊の死体を盾に使う……落ちている剣を投げつける……いや、制限時間は残り1分もない。さっきみたいに自殺して幽体化すればウェインには気づかれない。でも、死んだと分かればデレスの死体を持って移動するかもしれない。自殺も難しいか……今の最善の手はこれしかないか)

 ガシィ!と海賊の死体を左手で持ち上げると右手で落ちているブロードソードを拾いました。死体を盾にして最後の賭けに出ました。

(死体を盾にしたか……考えられる動きは、死体を投げる、上に飛ぶ、剣を投げる、そのまま突っ込む……どれも作戦とは言えないな。思い付いた事をやっているだけか。まあ、こんな所だろうな)

 ウェインはルインの行動の意味をそう結論したようですが、どうやら違うようです。ルインは走りながら海賊の首をブロードソードで斬り裂きました。喉から大量の血が流れて来ました。

「受け取れ!」

 ブン! ウェインの足元に向かって血が流れる死体を投げつけました。どう見ても嫌がらせです。近くにある死体を掴むと、また、首を斬り裂くとウェインに向かって投げつけました。

「……どういうつもりだ?足元を血で滑りやすくしているつもりか?だったら無意味だぞ。それが最後の手だとしたら、正直言ってガッカリだ。もう少し楽しめると思ったんだがな」

「ああ、その通りだよ。ただの嫌がらせだよ」

 返り血を大量に浴びたルインは全身血だらけです。もう誰の血か分からない状態です。ウェインに向かって走りながらも、落ちてる死体を見つけて拾うと首を斬り裂いてウェインに投げつけました。

(ハァハァ!ハァハァ!もう少しだけ耐えてくれよ……)

 ルインはもう動くのも限界のようです。死体を持ち上げるたびに、死体で隠すようにして、左手のナックルダスターの刃で自分の身体を突き刺していました。最後の力を振り絞り、死体を持ったまま甲板の床を思い切り蹴って、上空12mの高さに飛び上がりました。

 代償魔法《リライト・デッド》発動‼︎

 残り245人……。

 ポタポタポタ! 上空からウェインに向かって血の雨が降ります。すぐに死体とルインが真上に落下して来るでしょう。でも、もうルインは上空で死んでいます。落ちて来るのは2つの死体です。

(《リライト・デッド》待機状態強制解除!)

 上を見ていたウェインの足元に突然、ルインが現れました。その右手はデレスのパイシーズの腕輪にしっかりと触れていました。

「おい、何処を見ている?合格か?」

 ❇︎




 



 
 
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