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第2章・海賊編
第29話・海賊全滅
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(そんな得意気な顔をされても困るな。私の目にはハッキリと幽体の身体も見えているのだから)
高位の魔法使いには幽体状態のルインも見えてしまいます。空中にジャンプした瞬間に肉体と幽体にルインが分離したのはウェインには見えていました。このまま気付かないフリをして合格にしてもいいものの、それではこの先の戦いには勝つ事は出来ません。
「確かに合格だ。そのパイシーズを持つに相応しい実力だろうな」
「心にもない事を……それよりも5人。母さんと妹だ。約束通りに解放してくれ」
「それは無理だな。その2人は最後まで解放するつもりはないらしい。それに最初に解放するのなら赤ん坊か子供にしろ。お前が苦痛を受けて死ぬたびに、同じ苦痛を共有している。早く解放しないと廃人になってしまう。それでもいいなら、母親と妹以外の好きな人間を選べばいい。さあ、どうする?」
どうするもこうするもありません。選択権を与えているようで、実際には子供を選ばなければ、死ぬと言っているようなものです。
(ロッタさんとの約束は守れるのか……少なくともナッシュとエミオの2人を助けられるなら仕方ない)
「分かった。年齢が低い順に子供を5人解放して欲しい。それでいいんだろ?」
「賢明な判断だ。それが正解だと私も思うよ。念の為に言っておくが、次も与えられた指令を達成したら5人解放する。けれども、代償魔法を無意味に大量消費して、『残っている5人を解放してくれ』と言っても母親と妹は全てが終わるまで解放しない。くれぐれも馬鹿な事は考えないようにするんだな」
そんな事は言われなくても、やるつもりは微塵もありません。逆にウェインに言われなければ永遠に気付く事もなかったでしょう。
(今までの行動から、この男の目的は俺を強くする事で間違いない。問題は明らかに俺よりも強いのに、何でそんな事をするのかだ)
今の所はウェインに与えられた指令を黙々とやり続けているだけですが、その意味がいまいちハッキリしません。廃棄ダンジョンのモンスターの殲滅、凶悪な海賊の討伐と明らかに指令内容だけで判断すると、良い事をしているとしか思えません。
「なあ?これだけ協力しているんだ。そろそろお前達の目的を話してくれてもいいんじゃないのか。こっちは人質を取られているんだ。裏切ったり、誰かに話したりはしない。それとも何の目的もなく、ただ俺を振り回したいだけなのか?」
訳も分からずに言う事を聞き続けるのも、そろそろ限界です。今回は悪人とはいえ、人を殺しているのです。少しぐらいは教えてくれてもいいはずです。
「そうだな………答えてもいいが、まずはあの4隻の海賊船を如何にかするべきだろうな。こっちに向かって来ているぞ。あれだけ騒げば流石に気がついてしまうか。そのパイシーズの力を使えば水中をある程度は自由に動けるようになれる。けれども、デレスのようにレベルが上がる事はないから気をつけるんだぞ。さあ、行って来い」
確かに4隻の海賊船がこっちに向かって来ています。デレスの乗る本船よりも少ない人数だとしても、1隻30人程度、まだ120人は残っていると考えた方がいいです。
(今度は1人で残党狩りをさせるつもりか……まあ、そのままにしておくのも危険だろうからな)
船長と副船長が死んでも、海賊が崩壊する事はありません。次の船長が決まるとまた商船を襲うだけです。1人残らず倒す事で完全に根絶する事が出来るのです。
「……お前は見ているだけかよ」
「はっは、当たり前だろう。私はこれ以上強くなる必要はないからな。さて、10分だけ待ってやる。10分以内に倒す事が出来たら、街まで転移魔法で送ってやろう。1秒でも過ぎれば自分で帰るんだな。用意……スタート!」
自分で帰るなら、泳いで帰るか、小舟を漕いで帰るかです。どっちも戦闘後の身体には負担が大きいです。残った海賊の人数が120人の場合は、制限時間10分ならば、1人5秒で倒さないといけません。
(無理だな。残りの人数が60人以下だと祈るしかない)
陽が落ちて、もう海の上は暗くなってきています。この暗さの中で大勢と戦うのは圧倒的に不利です。船に設置されているランプの灯りだけが頼りですが、壊される可能性もあります。海の中に飛び込まれると逃げられる危険もあります。誰一人逃さずに殺すのは言うほど簡単な事ではありません。
ドォボン!と水飛沫を上げて、ルインは海に飛び込みました。
(力を示せ!《パイシーズ》)
腕輪に嵌め込まれた銀色の宝石が光ると、ルインの身体に魔法の力が流れ込みます。
(すぅ~はぁ~……なるほど、確かに呼吸は出来る。それに泳ぐというよりは浮遊している状態に似ているな。幽体状態と同じか)
ルインは水中で2、3回、深呼吸を繰り返した後に、その辺をグルグルと泳いでみます。どうやら、パイシーズの大体の能力は理解出来たようです。問題は水中ぐらいしか使い道がない事です。もう海以外の活躍はなさそうです。
ザァーザァーザァー! 海水を掻き分けて前に前に進んで行きます。地面を走るよりも、今なら泳ぐ方が速いです。
(船の底が見えた。まずは1番小さな船から襲う!)
4隻の船の中で一番小さいのは海上警備隊が用意した偽の商船です。グングンと泳ぐスピードを上げると海面から飛び出して、船の上に着地しました。
「うわぁー!……船長……じゃない⁈敵襲!」
水浸しのルインがいきなり海から飛び出して乗り込んで来ました。海賊達はビックリして悲鳴を上げてしまいましたが、よく同じ事をデレス船長もやっていたようです。すぐには攻撃せずにキチンと確認してしまいました。敵だと気付いた時は手遅れです。
「たったの5人?話にならない!」
拳を握り締めると一番近くにいた男を海に殴り飛ばしました。どんなに屈強な男でも水中では無力です。1人落とすと、水中で殴り殺して、また船に上がっては、1人落とします。
小さな船に乗っていた5人を水中で殴り殺すと、次は1番大きな船に向かいました。ルインは船の上でまともに戦うよりは、海に落とした方が確実に殺せると判断すると、自分よりレベルの低い海賊達を次々に海に投げ落として、殴り殺しました。
「ハァハァ!残りはレベル40以上が40人ぐらいか。そろそろ使わせてもらう。《アンミリテッド・キル》」
代償魔法《アンミリテッド・キル》発動‼︎
残り244人……。
残りは40人程度。でも、代償魔法の効果が切れるまでに倒すには、1人7秒で殺さないといけません。本当に時間制限は嫌になりそうです。
❇︎
ピチャピチャと海水を滴らせてルインがリーチマイケル号に戻って来ました。当然のようにウェインはいませんでした。とっくに10分は過ぎています。どう考えても最初から無理があったのです。
「何だあれは?手紙?」
船の上にはウェインが置いていっただろう手紙がありました。内容はだいたい想像が出来そうですが、ルインは念の為に折り畳まれた手紙を広げて中身を確認しました。
『10分を過ぎたので先に帰る。冒険者ギルドで経験値をもらい、昨日の宿屋で連絡を待て。 追伸、魔力が切れるとパイシーズは使えなくなる。小舟で帰る事をオススメする』と手紙には書かれていました。
グシャグシャ! ルインは手紙を握り潰すと海に放り投げました。
「わざわざ、ありがとうよ!」
ルインは小舟に乗り込むと、左右に付いている2本のオールを力一杯漕ぎ始めました。ダリアの街の方角はいまいち分かりませんが、遠くでちょっと光った気がします。街の灯りと信じて今は進むしかないでしょう。
❇︎
高位の魔法使いには幽体状態のルインも見えてしまいます。空中にジャンプした瞬間に肉体と幽体にルインが分離したのはウェインには見えていました。このまま気付かないフリをして合格にしてもいいものの、それではこの先の戦いには勝つ事は出来ません。
「確かに合格だ。そのパイシーズを持つに相応しい実力だろうな」
「心にもない事を……それよりも5人。母さんと妹だ。約束通りに解放してくれ」
「それは無理だな。その2人は最後まで解放するつもりはないらしい。それに最初に解放するのなら赤ん坊か子供にしろ。お前が苦痛を受けて死ぬたびに、同じ苦痛を共有している。早く解放しないと廃人になってしまう。それでもいいなら、母親と妹以外の好きな人間を選べばいい。さあ、どうする?」
どうするもこうするもありません。選択権を与えているようで、実際には子供を選ばなければ、死ぬと言っているようなものです。
(ロッタさんとの約束は守れるのか……少なくともナッシュとエミオの2人を助けられるなら仕方ない)
「分かった。年齢が低い順に子供を5人解放して欲しい。それでいいんだろ?」
「賢明な判断だ。それが正解だと私も思うよ。念の為に言っておくが、次も与えられた指令を達成したら5人解放する。けれども、代償魔法を無意味に大量消費して、『残っている5人を解放してくれ』と言っても母親と妹は全てが終わるまで解放しない。くれぐれも馬鹿な事は考えないようにするんだな」
そんな事は言われなくても、やるつもりは微塵もありません。逆にウェインに言われなければ永遠に気付く事もなかったでしょう。
(今までの行動から、この男の目的は俺を強くする事で間違いない。問題は明らかに俺よりも強いのに、何でそんな事をするのかだ)
今の所はウェインに与えられた指令を黙々とやり続けているだけですが、その意味がいまいちハッキリしません。廃棄ダンジョンのモンスターの殲滅、凶悪な海賊の討伐と明らかに指令内容だけで判断すると、良い事をしているとしか思えません。
「なあ?これだけ協力しているんだ。そろそろお前達の目的を話してくれてもいいんじゃないのか。こっちは人質を取られているんだ。裏切ったり、誰かに話したりはしない。それとも何の目的もなく、ただ俺を振り回したいだけなのか?」
訳も分からずに言う事を聞き続けるのも、そろそろ限界です。今回は悪人とはいえ、人を殺しているのです。少しぐらいは教えてくれてもいいはずです。
「そうだな………答えてもいいが、まずはあの4隻の海賊船を如何にかするべきだろうな。こっちに向かって来ているぞ。あれだけ騒げば流石に気がついてしまうか。そのパイシーズの力を使えば水中をある程度は自由に動けるようになれる。けれども、デレスのようにレベルが上がる事はないから気をつけるんだぞ。さあ、行って来い」
確かに4隻の海賊船がこっちに向かって来ています。デレスの乗る本船よりも少ない人数だとしても、1隻30人程度、まだ120人は残っていると考えた方がいいです。
(今度は1人で残党狩りをさせるつもりか……まあ、そのままにしておくのも危険だろうからな)
船長と副船長が死んでも、海賊が崩壊する事はありません。次の船長が決まるとまた商船を襲うだけです。1人残らず倒す事で完全に根絶する事が出来るのです。
「……お前は見ているだけかよ」
「はっは、当たり前だろう。私はこれ以上強くなる必要はないからな。さて、10分だけ待ってやる。10分以内に倒す事が出来たら、街まで転移魔法で送ってやろう。1秒でも過ぎれば自分で帰るんだな。用意……スタート!」
自分で帰るなら、泳いで帰るか、小舟を漕いで帰るかです。どっちも戦闘後の身体には負担が大きいです。残った海賊の人数が120人の場合は、制限時間10分ならば、1人5秒で倒さないといけません。
(無理だな。残りの人数が60人以下だと祈るしかない)
陽が落ちて、もう海の上は暗くなってきています。この暗さの中で大勢と戦うのは圧倒的に不利です。船に設置されているランプの灯りだけが頼りですが、壊される可能性もあります。海の中に飛び込まれると逃げられる危険もあります。誰一人逃さずに殺すのは言うほど簡単な事ではありません。
ドォボン!と水飛沫を上げて、ルインは海に飛び込みました。
(力を示せ!《パイシーズ》)
腕輪に嵌め込まれた銀色の宝石が光ると、ルインの身体に魔法の力が流れ込みます。
(すぅ~はぁ~……なるほど、確かに呼吸は出来る。それに泳ぐというよりは浮遊している状態に似ているな。幽体状態と同じか)
ルインは水中で2、3回、深呼吸を繰り返した後に、その辺をグルグルと泳いでみます。どうやら、パイシーズの大体の能力は理解出来たようです。問題は水中ぐらいしか使い道がない事です。もう海以外の活躍はなさそうです。
ザァーザァーザァー! 海水を掻き分けて前に前に進んで行きます。地面を走るよりも、今なら泳ぐ方が速いです。
(船の底が見えた。まずは1番小さな船から襲う!)
4隻の船の中で一番小さいのは海上警備隊が用意した偽の商船です。グングンと泳ぐスピードを上げると海面から飛び出して、船の上に着地しました。
「うわぁー!……船長……じゃない⁈敵襲!」
水浸しのルインがいきなり海から飛び出して乗り込んで来ました。海賊達はビックリして悲鳴を上げてしまいましたが、よく同じ事をデレス船長もやっていたようです。すぐには攻撃せずにキチンと確認してしまいました。敵だと気付いた時は手遅れです。
「たったの5人?話にならない!」
拳を握り締めると一番近くにいた男を海に殴り飛ばしました。どんなに屈強な男でも水中では無力です。1人落とすと、水中で殴り殺して、また船に上がっては、1人落とします。
小さな船に乗っていた5人を水中で殴り殺すと、次は1番大きな船に向かいました。ルインは船の上でまともに戦うよりは、海に落とした方が確実に殺せると判断すると、自分よりレベルの低い海賊達を次々に海に投げ落として、殴り殺しました。
「ハァハァ!残りはレベル40以上が40人ぐらいか。そろそろ使わせてもらう。《アンミリテッド・キル》」
代償魔法《アンミリテッド・キル》発動‼︎
残り244人……。
残りは40人程度。でも、代償魔法の効果が切れるまでに倒すには、1人7秒で殺さないといけません。本当に時間制限は嫌になりそうです。
❇︎
ピチャピチャと海水を滴らせてルインがリーチマイケル号に戻って来ました。当然のようにウェインはいませんでした。とっくに10分は過ぎています。どう考えても最初から無理があったのです。
「何だあれは?手紙?」
船の上にはウェインが置いていっただろう手紙がありました。内容はだいたい想像が出来そうですが、ルインは念の為に折り畳まれた手紙を広げて中身を確認しました。
『10分を過ぎたので先に帰る。冒険者ギルドで経験値をもらい、昨日の宿屋で連絡を待て。 追伸、魔力が切れるとパイシーズは使えなくなる。小舟で帰る事をオススメする』と手紙には書かれていました。
グシャグシャ! ルインは手紙を握り潰すと海に放り投げました。
「わざわざ、ありがとうよ!」
ルインは小舟に乗り込むと、左右に付いている2本のオールを力一杯漕ぎ始めました。ダリアの街の方角はいまいち分かりませんが、遠くでちょっと光った気がします。街の灯りと信じて今は進むしかないでしょう。
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