病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?

文字の大きさ
41 / 70

第四十一話 決着を付けに来た

しおりを挟む
 果物狩りを成功させたピーちゃんは冒険者ギルドには向かわずに、そのまま灰竜山を目指した。
 何か理由があると思ったら、単純な理由だった。

『果物とドラゴン両方持っていく』

 お姉さんを驚かせたいだけだった。
 それに単純だから、ドラゴン大きすぎて収納袋に丸ごと入らないのも忘れている。
 鱗の一枚でも取って、ボロボロのミイラピーちゃんになって倒してきたって言いなよ。
 みんな優しい目で信じてくれるよ。多分ね。

『決着を付けに来た』

 空を飛び回る灰色ドラゴンを見上げて、ピーちゃんはカッコよく言った。
 でも、距離が五百メートルぐらい離れているから誰にも聞こえてない。

『よし、今のうちだ……』

 ううん、聞こえないのを確認したみたいだ。
 そして、信じられないことを始めた。身体に泥を塗り始めた。
 ピーちゃん! それ一番最初に使って失敗した手だよね!

『これで大丈夫。巣の中で待ち伏せして、寝たところを倒してやる』

 何故だろう。作戦はすごく良いのに失敗する姿しか見えない。
 狭い巣穴で一対一の戦いを繰り広げる姿が想像できない。

『風の指輪。僕に力を貸して』

 だけど、その姿は僕にしか見えない残像だった。
 ピーちゃんが両脚の風の指輪に願った。
 身体に風の膜が張られて、泥が身体から剥がれないように固定した。

『いつの話してるんだ?』とピーちゃんに怒られた。

 そうだった。昔の可愛いピーちゃんはもうどこにもいない。
 今のピーちゃんは強気で生意気な自称勇者だ。

 地上スレスレを飛んでいき、山の壁ギリギリを上に向かって飛んでいく。
 あっちこっちで逃げ回っているから、飛行技術も急上昇している。

 目的の巣穴が見えてきた。
 下付近の穴は雑魚ドラゴンの巣穴だから入らない。
 入るなら一番上か上付近の巣穴だ。もちろんピーちゃんの個人的な意見だ。
 実際は下の方が強いドラゴンの巣穴の可能性もある。

『ここにしよ』

 頂上までまだまだあるけど、家が入るような大きな巣穴に飛び込んだ。
 見つかる前に手頃な巣穴で妥協した。

 ピーちゃんにとっては三度目の挑戦だ。
 今日のピーちゃんは負けるつもりも油断もまったくない。
 巣穴の奥まで行くとバターナイフを咥えて床に待機した。
 卑怯者だと言われてもいい。今日のピーちゃんは勇者じゃなくて暗殺者だ。

『ん?』

 獲物がやってくるのを気配を消して待っていると、翼を力強く羽ばたかせる音が近づいてきた。
 でも、その音がやけに多い。まるで一匹ではなくて、数十匹いるような感じだ。

『おい、鳥。久しぶりだな。お前が来るのを待ってたぜ』
『‼︎』

 灰色ドラゴンの喜んでいるような声が巣穴の奥に向かって飛んできた。
 見つかってるみたいだね。どの辺からか知らないけどモロバレだよ。

『だ、大丈夫、入ってきたところをやってやる!』

 バターナイフ咥えているクチバシが震えているよ。
 本当に大丈夫なの? ナイフ落としたりするんじゃないの。

『おい、鳥。出て来いよ。それともこのまま焼き鳥になるか? こっちは焼きでも、ミンチでもどっちでもいいんだぜ』

 巣穴の入り口に真っ赤に燃える炎が見えた。
 灰色ドラゴンが口を開けて、炎を吐き出そうとしている。

『だ、だ、大丈夫、入ってきたところを……』
『焼け死ね——”ファイヤーブレス”』
『ピィ~~‼︎』

 ピーちゃ~~ん‼︎ 巨大な炎の息が解き放たれた。
 巣穴の中を炎が隙間なくおおい潰した。
 逃げ場のない密室で青い小鳥は炎に包まれた。

『”バードストライク”』

 違った。炎の中からピーちゃんが飛び出してきた。
 焼き鳥にはならなかった。いや、焼き鳥にはなりたくなかった。

『し、死ぬかと思った!』

 ミンチになりたいみたいだ。
 巣穴の外に灰色ドラゴン達が待ち構えていた。

『ああ、その通りだ。今日は逃さないぜ——”ドラゴンクロー”』
『‼︎』

 巣穴から飛び出した直後のピーちゃんに、真っ赤に燃える右前脚の三本爪が振り下ろされた。
 慌てて超加速を使用して、何とか回避したけれど、他のドラゴンが大きな身体で立ち塞がった。

『通行止めだ』
『ピィ⁉︎』
『こっちも通行止めだ』
『こっちもな』

 動揺するピーちゃんをあっという間にドラゴン達が取り囲んだ。
 巨大な肉の壁に閉じ込めたつもりだとしたら甘すぎる。
 ピーちゃんなら、わずかな隙間さえあれば通り抜けられる。

『ま、真っ暗になった!』

 あっ、ないみたいだ。
 灰色ドラゴン三匹が外の光が入らないぐらい身体を密着させている。
 完全に閉じ込められてしまった。

『このままペシャンコミンチにしてやる』

 でも、ピンチのチャンスだ。
 視界は暗くても目の前にドラゴンの肉がある。
 今こそレベルアップした力の見せどころだ。

『見えないならもういい』

 迫ってくる肉壁に怯えるのをやめた。
 目を閉じるとピーちゃんは、クチバシに咥えるバターナイフに全神経を集中させた。
 超加速もバードストライクもまともに使えないぐらいの超接近戦だ。
 その状態でナイフを振り回す首だけを超加速させた。

『”超加速”』
『ぐがぁ……!』

 ドラゴンの肉を切り裂いた。切られた痛みで肉壁の密着がゆるんだ。

『ミンチになるのは誰だって?』

 スッと目を開けると、腹から赤い血を流すドラゴンに向かってピーちゃんが言った。
 もう勝利まで見えているようだ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...