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第5話 身体能力を上昇させる腕輪

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 私の仮採用が決まると、キャンピングカーは町を離れて、荒れ果てた荒野を進んでいた。
 浮遊システムを搭載した車ならば、揺れる事はない。でも、壁を走れる訳ではない。
 運転席にキチンと座って、前方に障害物がないか警戒しないといけない。
 避けないと普通に車が壊れてしまう。

「安全な街から離れる事になるとはな……」

 車を運転しながら、この先に何が待っているのかと考えると不安になってしまう。
 世界が崩壊してから数百年……今の人類は円形の巨大な街に住んでいる。
 そして、円の中心部を街と呼び、中心部から離れた外周部を町と呼んでいる。
 当然、中心部の街に住んでいる人間、つまりは私は勝ち組だった。
 それが今では町でもない【廃都】に向かっている。

「はい、旧式だけど念の為に持っていて」
「これは……」

 助手席にケイトが座ると、三センチ程の黒色の宝石がはめ込まれた、青白い金属の腕輪を渡してきた。

「それはミスリル金属と魔石を使った【アビリティリング】。身に付ければ身体能力が向上して、物理耐性も上がる……というよりも、あんたの会社でも作っていた物だから知っているでしょう」

 ケイトはちょっとだけ説明すると、やめてしまった。
 私がお客様だったら、商品の説明を途中で終わらされたら、買う気が失せてしまう。
 
「確かに我が社の商品の一つでもあるから知っている。それよりも私にゴミ漁りをさせるつもりなのか? あんな危険な場所で……」

 これから向かう廃都の街には、旧時代の様々な物が放置されている。
 保存状態が良くて原型を留めている物、歴史的な価値がある物……。
 とにかく金になりそうな物を探して持ち帰れば、金になる。
 だが、そんなに簡単に金を稼げる方法があるなら、誰でもやっている。
 やる人間が少ないのは何かしらの理由がある。その理由は命の危険があるからだ。

「何が我が社よ。平社員の癖に偉そうに。とにかくお金が欲しいなら働いて。掃除しても運転しても、お金にはならない。そんな事は分かっているでしょう」
「それはそうだが……」

 専業主婦に給料は出ない。生活費を過剰に請求して、私の給料を横領していなければだ。

「私はあんたを養うつもりはない。母さんに仕送りをするつもりよ。あんたの所為で困っているし、あんたも責任を感じているなら、稼いだ金の半分は送るべきよ」

 ケイトがそんな事を考えているなんて、考えもしなかった。
 でも、その役目は夫であり、父親である私の役目だ。
 誰にも渡すつもりはない。

「そうか……でも、お前は仕送りする必要はない。私一人で十分だ。子供がそんな事を気にする必要はない」
「ひゅ~、カッコいい! でも、ギルっち。仕事はそんなに甘くはないよ。これから行く廃都【サンディエルゴ】には【恐竜】がいるんだから。小父さんにはキツイかも」

 親子の真面目な会話に野次馬ではなく、野次猫が割り込んできた。
 後ろを軽く振り返ると、L字ソファーで、のんびりと寛いでいるミアが見えた。
 
「ふっ、問題ない。こう見えても取引先の接待で、ゴルフから草野球まで活躍していた。同年代に比べたら運動能力には自信がある」

 廃都の街に恐竜や怪物が生息しているのは周知の事実だ。
 怪物に見つかれば、人間や獣人は容赦なく殺されてしまう。
 まあ、アビリティリングで身体能力を高めれば、それなりに対抗できる自信はある。
 
「へぇ~、そうなんだ。だったら恐竜倒した方がお金になるかも。倒して解体すれば、体内から【魔石】が取れるから」
「魔石狙いか。確かにそっちの方が——」
「無理無理、このジジイだと返り討ちに遭うだけだし」
「なぁっ!」

 せっかくやる気になっていたのに、ケイトが無理だと言ってきた。
 いつもそうだ。ケイトは私がお礼と謝罪しか出来ない無能な人間だと決めつけている。

「大丈夫だって。私達でも小型恐竜は倒せるんだから、ギルっちでも倒せるよ。それに邪魔な恐竜がいない方が、仕事しやすいでしょう?」
「まあ、そうだけど……このジジイだとねぇー」

 私の意見に肯定的なミアと違って、ケイトは冷ややかな目で私を見ている。
 その青い瞳は雄弁に無理だと言っている。
 私の父親としての評価は三年前から変わらず、最低評価のままらしい。

「大事な役目を素人に任せられない気持ちは分かる。でも、やらせてみないと無理かどうかは分からないだろう? 一回だけチャンスを与えてくれてもいいんじゃないか?」
「なに勝手に要求してんのよ。あんたは与えられた仕事をやればいいの。恐竜を倒したいなら、キチンと与えられた仕事をやり遂げて評価を上げる事。それが仕事の基本でしょう」
「あっ、あぁ……その通りだな」

 私はこれ以上は何を言っても無駄だと素直に諦めた。
 ケイトの言っている事は間違ってない。
 新入社員にいきなり大きな仕事は任せられない。
 やっぱり、まずは雑用から始めるのが基本だ。

「もぉ~、二人とも仲が悪いなぁ~。家族ならもっと仲良くしないとダメだよ。私ん家はもっと仲良いよ。ほらほら、妹も弟も可愛いもんだよぉ~」
「ほぅ……ミアの所は結構な大家族なんだな」

 ミアがニヤニヤと嬉しそうに写真を見せてきた。
 写真にはミアを中心に、三人の猫耳付けた子供達が映っている。
 身長はミアが一番高いので、ミアが四人兄弟姉妹の長女らしい。

「そういう事。あんたが一人で失敗するのはいいけど、失敗したら私達が危険な目に遭うの。ミアは家族の為に稼がないといけないし、私もパトリも命懸けで仕事をしたいとは思っていない。くれぐれも自分勝手な行動をして、迷惑かけないように。どうせ、あんたは責任なんて取れないんだから」
「なんだと⁉︎」

 今はミアの家族写真を見て、ほのぼのしている最中なのに、何故、この雰囲気でブチ切れられる?
 この険悪な雰囲気だと、ケイトも小さい頃は可愛かったんだぞ、なんて言えなくなるじゃないか。

「そんなに念押ししなくても、家族の大切さは分かっている。馬鹿な真似をするつもりはない」
「はぁぁ……あんたの口から家族が大切とか言われても説得力がないのよ。浮気はするし、娘には家出されるし、会社の金は横領するし——」
「待て待て待て! お前が家出したのは、お前の意思だろう。私は家から出て行けとは一言も言ってないぞ!」

 浮気と横領は確かにした。
 でも、何でもかんでも私の所為にされる訳にはいかない。
 家出は私の責任ではないと強く否定する。
 
「そういう雰囲気の家庭を作ったのは、あんたでしょう。あんたの所為よ」
「いいや、お前の所為だ。私はお前達の為に休日も仕事を頑張っていたじゃないか」
「家族を放置してね」
「放置だって? 毎年誕生日を祝って、プレゼントも買っていたじゃないか」

 家族の為に二十四時間、平日休日関係なく頑張った。
 手が届く距離に一緒にいるだけが家族じゃない。
 心の中では常に家族と繋がっていたつもりだ。

「そのぐらいは友達でもするし。少なくとも最近三年間は何も貰ってない」
「それはお前が家出したからだろうが。私はサンタクロースじゃないんだ。居場所も分からない娘に、プレゼントなんて送れるはずがない」
「にゃはははは! どっちも言っている事に説得力ないよ。自分が正しい正しいばかりだよ。せっかく一緒にいるんだから、もっと仲良くした方がいいよ」

 私とケイトの喧嘩をニヤニヤと傍観していたミアが、我慢できなかったのか笑い出した。
 確かに私はケイトの理想的な父親ではなかったかもしれない。
 でも、それを言い出したらケイトも、私の理想的な娘じゃなかった。

「こんな自己中ジジイと仲良くなんて無理よ」
「ふん、それはこっちの台詞だ」
「まあまあまあ。生きていれば取り返せるから、これからなんじゃないかな? 幸いな事に時間がたっぷりとあるんだから、さっさと仲直りしなよ」

 ミアは私とケイトを仲直りさせたいようだが、それは無理だ。
 何年も続いている親子戦争は、そう簡単には終結しない。

「こいつが本気で謝ったら考えてやるわ。病的に謝り慣れているから、心に一切響かないけどね」
「ふん、悪い事もしてないのに謝れるか」
「にゃゃ……面倒くさい親子だなぁ~。まったくもぉ~」

 ミアはソファーにドサァッと寝転んだ。
 これ以上は付き合いきれないようだ。

 男には父親には譲れないものがある。
 私は家族に一度も謝った事がない。
 それは私の誇りであり、正しさの証明である。
 そう簡単に嘘でも謝る事は出来ない。

「はぁぁ……私も疲れた。とりあえず、私が言いたい事はしっかり働けって事。危険を冒さず安全第一でね」

 んっ? もしかして私の心配をしているだけなんじゃないのか? 
 でも、素直に心配していると言うのは恥ずかしいから、不器用な態度を取っていた訳か。
 なるほど。だとしたら、ここは私が素直になれない娘の気持ちを汲んでやらないとな。

「あぁ、分かっている。ケイト、ありがとう。これは大事に使わせてもらうからな」

 私はケイトから受け取ったアビリティリングを右腕に付けると、百二十点満足の笑顔でお礼を言った。
 これで少しは親子の関係が良くなる、きっかけになるかもしれない。

「なに? 気持ち悪い顔。それ壊したら罰金払ってもらうから。でも、ジジイの使用済みだと、壊れたのと一緒か」
「なんだと!」
「それ弁償してもらうから」
「誰が払うかぁ!」

 前言撤回だ。
 こんな父親を汚物認定している最低の娘とは、仲良くなる必要はない。
 もう私情は一切挟まずに、上司と部下の関係を貫いてやる。

 ♢
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