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第10話 プラスドライバーで恐竜解体

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「ハァ、ハァ、やっと終わったぁー」

 大汗かいて私はヴェロキラプトル四匹をキャンピングカーまで運んだ。
 途中でアビリティリングのエネルギーが切れないか心配だったが、数時間程度の運搬作業では問題ないようだ。

「遅過ぎ。さっさと解体して、夕食作って」

 休憩時間二十秒。
 キャンピングカーから出て来たケイトが、次の仕事を言ってきた。
 クビにはなってないようだが、一度に出来る仕事は一つだけだ。
 それに私はお前達の飯炊きジジイじゃない。言う時は言ってやる。
 今の疲れた私が出来るのは、夕食作りだけだ。

「飯は作る。解体作業はその後でもいいだろう。私は疲れているんだ。そんなに解体したいなら自分でやればいいじゃないか」
「あんた一人じゃ解体できないでしょう。私が教えてやるから、さっさとやればいいの。それとも、また下手くそな土下座でも見せたいの?」

 なっ! コイツは父親を怒らせる天才なのか?
 いやいや、落ち着け。最初から私をイジメる為に雇ったのは分かっている。
 わざと怒らせる事を言って、挑発したいだけだ。
 怒ったり、反抗したりするだけ、娘を喜ばせるだけだ。

「分かった。土下座して、解体すればいいんだな?」
「えっ?」

 私はそう言うと地面に素早く跪いて、タタァ~ンと流れるような高速土下座を終わらせた。
 あまりの速さに常人の目には、膝を付いて腕立て伏せをしたようにしか見えなかったはずだ。

「さあ、解体するぞ」
「はぁっ? 娘にそんな姿見せて恥ずかしくないの?」

 高速土下座を終わらせて、素早く立ち上がった私にケイトは呆れている。
 望み通りのものを見せてやったのに、まだイジメ足りないらしい。
 この欲しがり屋さんめ。もう土下座を見せるつもりはないぞ。

「何が恥ずかしいんだ? その恥ずかしい土下座のお陰で、お前は大きくなれたんだぞ。お前の身体の八十パーセント以上は、私が土下座して稼いだ金で作られているんだからな。この土下座を恥ずかしいと思うなら、自分自身の存在自体も恥ずかしいと思いなさい」
「馬鹿じゃないの! 家族の中で恥ずかしい存在は横領して浮気したあんただけよ」

 はい、仰る通りです。
 これ以上は無駄口を叩かない方がよさそうだ。
 私は口ではなく、手を動かす事に決めた。

「確かに私は恥ずかしい父親だった。これからは恥ずかしくない父親として頑張るつもりだ。さあ、解体を始めようか」
「また都合が悪くなると別の話に切り替える。頑張ります、努力します、具体的に何をどう頑張るのか全然言ってない。頑張るって都合のいい言葉ね」
「今から解体を頑張ろうとしているじゃないか」
「あぁー、はいはい。じゃあ、まずは皮を剥いで。この皮は耐久性に優れているけど、街でも同じ物は作れるから、別に捨ててもいいわよ。母さんがあんたを捨てたみたいにね」

 なっ、何だと⁉︎ コイツはいつもいつも私を馬鹿にしやがって。
 オリビアの奴は私の言う事を素直に聞いていたのに。

「ほら、見てないで、さっさと解体してよ。あんたを解体してもいいのよ」

 超面倒くさそうな感じだが、怒らせるだけじゃなく、解体を教えるつもりはあるようだ。
 ケイトはヴェロキラプトルの茶と黒の縞々皮を刃渡り十センチのミスリルナイフで切っていく。 
 血はまったく流れず、マネキンから服を脱がしているように皮を剥いでいく。
 皮の下から青白いツルツルのミスリル金属のボディーが見えてきた。

「こ、こんな感じか……おっ! 意外と簡単に切れるんだな」

 私もケイトと同じように、ヴェロキラプトルの背中にミスリルナイフを突き刺す。
 スゥーッと尻尾に向かって切り、次に頭に向かって切った。
 あとは皮を引き剥がすだけだ。
 
「ここまでは簡単に出来るのよ。ここから先は工具がないと無理。まずは身体のどこかに小さな穴が四つあるから探してみて。だいたい同じ場所にあるから胸の下あるはずよ」

 四匹の皮を剥ぎ終わると、ケイトはヴェロキラプトルの胸を指差して言ってきた。
 言われた通りに青白い胸の辺りを探してみると、五センチの正方形を描くように四つの穴が開いていた。

「胸の下……ああ、これの事か」
「そうそれ。あとはプラスドライバーを使って、ネジを外していけばいい。四角い板が外れるから、あとは体内の魔石が見えるまで、それの繰り返し」

 ケイトは厚さ三センチの正方形のミスリル板を取り外して、私に見せた。
 ミスリル板が外れた正方形の空間には、また四つの小さな穴が開いている。

「なるほど。板を外していけばいいんだな。何枚ぐらいあるんだ?」
「だいたい四枚よ。四枚外したら、三センチぐらいの黒い魔石が見えるから、それを外したら解体は終わり。慣れたら五分もあれば出来るから、十分以内に終わらせて、夕食をさっさと作るように」

 以上で解体の説明は終わりのようだ。
 慣れた手つきでケイトはネジを外して、板を外していく。
 十分という制限時間から、二匹は解体してやるから、さっさと飯を作れという事らしい。
 今まで三人娘で自炊していたのなら、自分達で作ればいいのに、ジジイを余程こき使いたいらしい。
 作ったら作ったらで、「微妙」「普通」「不味い」しか言わないんだから、誰でもいいだろうに。

「はい、終了ぉーー。まだ終わってないの?」
「あと少しだ……」
「これだからジジイは。やっぱり雇うなら若い方がいいわね。ジジイは臭うし、五月蝿いし、遅いし」
「気が散るから話しかけるな」
「独り言よ。気にせずにさっさと解体して」

 ケイトは手早く二匹の解体を終わらせると、二匹目の解体中の私に野次を飛ばしてきた。
 魔石を外すのに、ネジを十二本も外すとは聞いていない。
 私は四十代の代表選手じゃないんだ。手先の器用なジジイもいる。
 私の事は馬鹿にしてもいいが、ジジイを馬鹿にしたら駄目だろう。
 全世界にいるジジイに今すぐに謝罪するべきだ、と心の中で思う事にした。
 これ以上はくだらない事で言い争って疲れたくはない。
 解体が終わっても、私には夕食づくりという激務が残っている。

 ♢
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