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第15話 中型恐竜トリケラトプス

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『その道を抜けたら、次は左に進んで』
「分かった」

 高層ビルと高層ビルの間の道を私は歩いている。
 ケイト達は振り切ったから、もう走らなくていいし、戦いの前に体力を消費する訳にはいかない。

『これが家族を捨てた人なんだね。本当に屑だね』
「何とでも言えばいい。ちまちま稼いでいられるか。それに私ががっぽりと稼げば、お前達もこんな危険な仕事をしなくていいんだ。長期的なリスクと短期的なリスク。危ない仕事をさっさと辞めさせるのも親の務めだ」
『私はこの仕事を楽しくやっているんだけどなぁ~』

 道案内をするパトリから辛辣な言葉が飛んでくる。
 完全無視を続けていると、ケイトとミアの声は無線機から聞こえなくなった。
 でも、私の声は聞こえているはずだ。親心は届いているはずだ。

「危ない仕事は大抵楽しいものなんだ。捕まったり、大怪我するまではな」
『じゃあ営業も危ない仕事なんだね。知らない人の家に押しかけて、高額でゴミを売り付ける仕事なんでしょう?』

 そんな営業がいるはずがない。そいつはただのヤバイ奴だ。

「何を言っているんだ? 営業はそんな犯罪みたいな事はしないぞ」
『でも、ケイトが言ってたよ。酔っ払ったギルが楽しそうに、馬鹿なお年寄りの家に、猫型ロボットを五台も売ってきたって自慢していたって。普通は一台でいいんじゃないの?』
「何を言っているんだ? 相手は独居老人だぞ。一台じゃ寂しいだろう」

 猫型ロボットの『猫クリーナー』は、三毛猫柄からヒョウ柄まで全十三色ある、我が社の大ヒット商品だ。
 普通の猫は部屋を汚すだけだが、猫クリーナーは家中を歩き回って、前脚の肉球に備え付けられた掃除機で綺麗にしてくれる。
 五台も置いておけば、新築のようにピカピカになる。しかも、空気洗浄機能付きだ。
 誰にも気づかれずに亡くなったとしても、周りに腐敗臭で迷惑をかける心配もない。
 独居老人必須のそんな高性能アイテムが、一台たったの千ドル(一般的な月収は三千五百ドル)だ。
 お値段以上の買い物が出来たと、購入者も私も喜んだ。
 
『……それって絶対に犯罪だよ。ギルは絶対にロクな死に方しないと思う』
「それを決めるのは神様とお客様だ。私は喜んで購入してくれたお客様達を信じている。きっと親切な営業マンさんを天国に連れて行ってくれるように、天国で願ってくれているはずだ」

 せっかく、猫クリーナーの説明をしたのに、パトリに購入意欲はないようだ。
 あの汚部屋には絶対に必要なアイテムだ。
 パトリは小金を貯め込んでいそうだから、買えない事はないだろうに。
 私の掃除時間が減るから、出来れば買って欲しい。
 
「ギル……」

 そんな家事時間の短縮を考えている私の元と、上空からパトリが降りてきた。
 手に持ったライフル銃で、今すぐに天国に連れて行ってくれるのだろうか?

「どうしたんだ?」
「このまま真っ直ぐに直進すれば、トリケラトプスがいるから、無線機の回収に来たんだよ」

 なるほど。冗談ではなく、本気で回収するつもりだったのか。

「それは困る。私がトリケラトプスを倒した時に連絡できないじゃないか」
「ええっ、でも、無線機を持たせたままだと、ギルの呻き声が聞こえてくるでしょう」

 嫌そうな顔でパトリは言っている。
 まだ死んでないし、お化けじゃないぞ。

「その時は無線機をオフにしていいから、助けに来なくていいから、念の為に持たせておいてくれ」
「駄目だよ。持たせておいたら壊れちゃうでしょう。無線機が一番高いんだから返して」
「分かった。返せばいいんだな!」

 そこまで言うなら返してやるよ。この人でなしめ。
 素直に首から無線機を外すと、パトリに手渡した。
 ペットじゃないんだ。元々、首に輪っかを付けるのは嫌だった。
 逆に清々した気分だ。今までありがとうございました。

「あっ、万が一に倒した時は車に戻ってね。大怪我した時は戻らなくてもいいから」
「はいはい。分かりました」
「でも、倒して大怪我した時は戻ってね。ギルの遺産は大切に使うから」
「ああ、這ってでも行くよ」

 その時は絶対に戻らない。

「じゃあ、ギル……料理美味しくなかったけど、いつもありがとう。元気でね」

 去って行く私にパトリが手を振っている。
 何だ、それは? 私は捨てられるペットか。

「まったく、なんて奴らだ。最初から私をここに捨てに来たんじゃないだろうな」

 無線機を回収して私を捨てると、パトリはケイト達の元に飛んで行った。
 無線機には録音機能がある。
 もしも私が死んだ時は、「ほら、一応は引き止めましたよ」とアピール出来る。
 万が一にも、私が呻き声を上げて、助けを求める声が録音されたら都合が悪い。
 そこまで考えて回収したとしたら、なんて恐ろしい奴らだ。
 きっと使うのは、部分的に切り取った会話だろうな。

「んっ、あれか……?」

 距離百五十メートル、道路前方に黄色い斑点模様を持つ、茶色い大きな生物が見えてきた。
 気づかれないように接近すると、私は素早く陥没した道路の穴に飛び込んで、観察を始めた。

「グロロロシュ。グロロロシュ」

 サイのような三本角の四足歩行の生き物は、鼻の上に短い角、両目の上に長い角を生やしている。
 大きさは体長八メートル、体高三メートル、横幅二メートルぐらい。
 体長二メートル、体高七十五センチのヴェロキラプトルと比べれば、かなりデカイ。

「確かに剣で倒すのは無理そうだ」

 角の生えた巨大な頭は頑強な兜だ。
 首回りには、盾のような扇状のシールドもある。
 正面衝突したら私はグシャと簡単に終わってしまう。
 道で偶然会っても、戦うつもりで会っても逃げ出したい気持ちになる。
 それでも、私は戦う。恐怖を乗り越えた勝利の先に栄光が待っている。
 神の祝福は挑戦した者にしかやって来ない。

「作戦開始だ」

 近くに落ちている小石を拾うと、周辺で一番高い建物を探してみた。
 あの巨体でも、二十階建て以上の建物に押し潰されたら一巻の終わりだろう。
 幸いな事に周囲にはデカイ建物が多い。地の利は私にある。
 よし、あれにしよう。あいつと私の墓場は決まった。
 高くはないが、二十五階建てのビルに決めると、私はトリケラトプスに小石を投げた。
 賽は投げられた。もう後戻りは出来ない。
 
「グロロロシュ?」

 コツン、コツンと転がって来た小石にトリケラトプスは気づいた。
 道路の穴から飛び出すと、私は大声で叫んだ。

「かかって来おおおおおおおい‼︎」
「グロロロシュ!」

 トリケラトプスが私に気づいて向かって来た。
 一か八か作戦はある。さあ、命懸けのビル倒しを始めるぞ。

 ♢
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