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第16話 恐竜を使ったビルの解体作業

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「やぁっ! やぁっ! やぁっ!」

 二十五階建て高層ビルの入り口まで走ると、剣で植物のツタに覆われた入り口を急いで切っていく。
 人一人通れる程度の空間を開けると、身体をねじ込んで薄暗い建物の中に入った。
 後ろを振り返ると、トリケラトプスがこっちに向かって突進してきていた。
 猪突猛進、予想通りに向かってきてくれた。

 やはり装備品の魔石に反応するようだ
 恐竜達の食事は魔石やミスリル金属だ。
 私からは美味しい匂いや気配がしているのだろう。
 急いで入り口から建物の奥に避難する。
 数十秒、入り口を破壊し、植物のツタを引き千切りながら、トリケラトプスが入って来た。
 
 作戦は簡単だ。建物の中で暴れていれば、衝撃で勝手にビルが崩れてくれる。
 最初は小さなビルを倒して、ドミノ倒しのように大きなビルを倒していって、倒す方法も考えた。
 でも、ドミノは途中で止まってしまう可能性がある。
 この作戦も正直上手くいく可能性は低い。
 ビルが真っ直ぐに崩れずに、斜めに崩れたら終わりだ。
 それでも、この作戦しか方法はないと思う。
 誰も協力してくれないから仕方ない。

「グロロロシュ!」

 トリケラトプスが唸り声を上げ、地響きを轟かせ、床と内壁を粉砕しながら向かってくる。
 攻撃パターンは三メートルを越える強靭な角を振り回し、突き刺すだけの単純なものだ。
 そんなに長さは必要ないはずだ。攻撃範囲が無駄に広過ぎる。
 迂闊に近く事も出来ないので、横方向に全力ダッシュで回避するしかない。
 その結果、また建物の外壁を突き破って、トリケラトプスが外に出て行った。
 出て行った瞬間にビルが倒れたら、私は凄いマヌケだな。

「ハァ、ハァ、ハァ、もうそろそろか……」

 全力ダッシュに、緊張と興奮でトランクスまで汗でビショビショだ。
 既に数カ所、天井から瓦礫の塊が降ってきている。
 トリケラトプスに壊させる外壁は出来るだけ、四隅を避けるようにしている。
 四隅を壊すと、何となく斜めに倒れそうだからだ。
 四方にある建物の外壁には、計十一個の穴が開いている。
 大量の埃が舞う室内に、新鮮な空気と光が補給される。
 建物を内部から支える内壁も柱もボロボロだ。もう倒れてもいいはずだ。
 
「グロロロシュ!」
「戻って来た」

 建物に向かって、ドォス、ドォスと重い足音が近づいて来る。
 外壁の穴から、わざと姿を見せて、ギリギリまで引きつけてから、全力で回避する。
 三、ニ、一……ドガーン!

 やっぱり開けた穴からは入りたくないようだ。外壁を突き破って入って来た。
 天井から積み重なった瓦礫の塊が落ちてきた。上層階のダメージも深刻そうだ。
 ビキビキと外壁のヒビが縦横に広がっていく。崩れるのは時間の問題だ。
 崩れるまで、あと一回、二回、最高でも三回ぐらいだと思いたい。

「ヤバイな」

 外壁を壊す必要は一回もなさそうだ。むしろ、壊す方が危ない。
 ビキビキ、ギギギギギギィ、バキィーン‼︎
 建物の壁や柱の至る所から、不気味な悲鳴を聞こえ始めた。
 崩壊までのカウントダウンが始まったようだ。

「グロロロシュ! グロロロシュ!」

 室内でゆっくりと反転したトリケラトプスが、突撃を始めようとしている。
 もうそれは駄目だ。外壁を突き破って、外に出られたら困る。

 そして、私もまだ外に逃げ出す事は出来ない。
 早々に外に逃げ出せば、トリケラトプスが追って来る。
 崩れるギリギリまで待ってから逃げないと、瓦礫で押し潰す事は出来ない。
 チキンゲームに負けた臆病者は、何も手に入れる事は出来ない。

「グロロロシュ!」

 私はトリケラトプスの前に立ち塞がると、バサッとスーツの黒い上着を脱いだ。
 上着を両手で持って、ヒラヒラと闘牛士のように構える。
 恐怖なんてものは慣れでどうにかなる。仕事で恐怖なら何度も経験した。
 体が震え、声が出せない場面など、いくらでもある。
 ビルが倒壊するその瞬間まで、トリケラトプスの全意識を私の上着に向かわせてやる。

「掛かって来いや」
「グロロロシュ‼︎」
 
 興奮したトリケラトプスが頭を大きく振って、襲い掛かってきた。
 金属生物に感情という上等なものが付いているのか分からない。
 それでも、最初から最後まで私に敵意を向け続けるだろう。
 二本の大きな長い角が、左から右に振り払われてきた。
 当たれば一撃で全身粉砕骨折の場外ホームランだ。

「舐めるな!」

 鍛えた高速土下座で床にベッタリと、うつ伏せに這いつくばる。
 背中の上を巨大な二本角が通過していく。
 これが土下座の力だ。素早く立ち上がると、正面を見た。
 トリケラトプスの左目の角が、私の頭上に振り下ろされる瞬間だった。

「くっ!」

 避けるなら、右と左のどちらかだった。
 そして、私が選んだのは左だった。

「グロロロシュ!」

 ズガァン‼︎ 私が立っていた床が左角の先端に砕かれた。
 床材が弾け飛び、埃が舞い、私は右角と左角の間に閉じ込められた。
 ピンチでチャンス……そして、狙い通りだ。
 槍のように長過ぎる右角に私はしがみ付いた。
 ビルが壊れる寸前まで絶対に離さない。

「グロロロシュ! グロロロシュ!」
「ぐおおおおお! ぬおおおおお!」

 上下左右にブンブン振り回される右角に懸命にしがみ付く。
 角を床や天井、内壁に打つけて、私を叩き落とそうとする。
 角の真ん中辺りは比較的安全圏だった。そのお陰でなんとか耐え切れた。
 でも、もう限界だ。腕の力が抜けた瞬間、振り飛ばされてしまった。

「があっ、ぐうっ、くぅぅぅぅぅ!」

 宙を飛び、床に打つかり、転がって、床の瓦礫に打つからずに転がっていく。
 運が良いのか、悪いのか分からない。
 距離が開いてしまったら、突撃攻撃が来てしまう。
 両手足に力を入れて、床に爪を立てると、転がらないように急ブレーキをかける。
 そして、止まった瞬間、前を見て、トリケラトプスを探した。
 まだ、角を振り回している最中だった。私を振り飛ばした事に気づいていない。

「……」

 なるほど。
 私は持っていた黒上着を、近くにあった手頃なサイズの瓦礫に静かに被せた。
 念の為に剣も置いておこう。これで問題ない。
 身代わりの準備が出来たので、急いで脱出しよう。
 走ったら気づかれそうだから、這いつくばって逃げないとな。
 
 コソコソと赤ん坊のように床を這って、一番近くにあった外壁の穴から外に出た。
 穴から建物の中を見ると、私の上着にトリケラトプスが近づいているところだった。
 安物のリクルートスーツだったが、最後にお値段以上の良い仕事をしてくれそうだ。
 さて、ビルが崩壊する前に離れよう。

「グロロロシュ! グロロロシュ!」

 ガラガラガラ、ガシャン‼︎ ガシャン‼︎
 建物から離れてから、約二分後。
 轟音を立てながら、二十五階建ての高層ビルは、予定通りにほぼ真っ直ぐに崩れていく。
 建物の中から、トリケラトプスの悲痛な声が聞こえてくる。
 大量の瓦礫に押し潰され、苦しんでいるのだろう。

「ふぅぅ……発掘作業の方が大変そうだな」
 
 私は黒ネクタイを緩めた。ちょっとだけ休憩しよう。
 ビルの崩壊が落ち着いたら、発掘作業開始だ。
 これで魔石が壊れていたら、上着と剣を犠牲にして、大量のミスリルを手に入れただけになる。
 まあ、それでも十分に元は取れるはずだ。
 私の大勝利だな。

 ♢
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