49 / 50

第49話 久し振りの一流営業マンの仕事

しおりを挟む
「いらっしゃいませ」

 木製の外開きの扉を開けて、店内に入った。
 すぐに青色の木製カウンターから茶色い髪の若い男の店員が挨拶してきた。
 白いエプロンに、青生地の花柄シャツを着ている。
 フレンドリーな庶民的な店のようだ。

「……」

 白と水色のチェック柄の床。少し冷えた店内には、波の音を思わせる音楽が流れている。
 店員は一人、客はゼロ。商品は格安の黒魔石のアビリティリングが棚に大量に置かれている。
 しかも、『レンタル可能』のポスターまで壁に貼られている。

 明らかに運動不足の観光客が、海を楽々と泳ぐ為だけに商品を置いている。
 ここはファクトリー(工場)じゃない。完全にショップ(ただの店)だ。

「こんにちは。魔石の買取りで店長と話がしたいんだが、居るかな?」

 ここの店長なんて知りもしない。
 知らない会社に入る時は、まずは社長と話がしたいと言え。
 大抵の平社員は警戒して、丁寧な対応をしてくれる。

 ただし、営業という身分がバレた瞬間に、態度は大きく変わってしまう事がある。
 なので、横柄な態度を取らないように要注意だ。

「えっーと、店長は連絡すれば、二十、三十分で来ますけど。すみません、うちは買取りはしてないはずなんですけど……」

 椅子に座って雑誌を見ていた店員は、立ち上がると困った顔をしている。
 こっちも普通の店で困っている。魔石を買取りしてない店で売れるはずがない。
 だが、それでも結果を出さなければならない時がある。それが今だ。
 
「ああ、それは知っている。レアな魔石が手に入ったから、店長に見てもらおうと思ってな」
「へぇー、そうなんですか? どんな魔石なんですか?」
「これだ。おそらく未発見の魔石で間違いないと思う」

 レアという言葉に店員は少し興味が出たようだ。
 なので、カウンターの上に青魔石を置いてみた。

「触ってもいいですか?」
「もちろん」
「へぇー、青色の魔石なんですね。初めて見ました。黒と灰色しか見た事ないんですよね」

 店員は落とさないように両手に持って、覗き込むように青魔石を見ている。
 濃い青ではなく、薄い青なので、空色とも海色とも言える。
 
「でも、その魔石をアビリティリングに嵌めても何の反応もないぞ」
「えっ? それだと、ただの石ころと同じじゃないですか」

 価値を上げてから、自分で一気に叩き落とす。
 店員は持っていた魔石を宝石のように見ていたが、私の言葉で石ころを見る目に変わった。
 むしろ、魔石だと言って、ガラス玉を売ろうとしていると疑っているかもしれない。

 だが、これでいい。相手は買う気がそもそもない。
 私が言う前に欠点をあれこれと探して、断ろうとするのは営業経験で分かっている。
 価値は上げてから、下げる。そして、更に跳ね上げる。
 そうする事で価値は錯覚を利用して倍に出来る。
 もちろん、跳ね上がらない事も多々ある。

「そうなんだ。だからこそ困っているんだ。せっかく苦労して手に入れた魔石が使えないと、ただの石ころと同じになってしまう」
「でも、俺にはどうする事も出来ませんよ。この店はレンタルショップみたいなものだし、買取りも出来ませんから……俺でよかったら、二千ドルまでなら出せますけど?」

 やっぱりレンタルショップ……まあ、それは言われる前に分かっていた。
 店員が頑張って、自腹で二千ドルで買取ってくれるらしいが、黒魔石で五百ドルだ。
 そんな値段で売れるはずがない。

「いやいや、嬉しい申し出だが、何だか分からない魔石をそんな大金で売れるはずがない。キチンとどういう物なのか調べようと思ってね。この店の店長さんなら、この町で調べられそうな人を知っていると思って、紹介してもらおうと思って来たんだよ」

 店員の気分を害さないように、丁寧に買取りの申し出を断った。
 この店での高額買取りはまず無理だ。店長が来たとしても、おそらく二万ドルが限界だろう。
 ならば、やる事は一つだ。この店の人脈を頼るしかない。
 
「そういう事なら、この近くにリングの修理業者がいますよ。俺なんかよりも詳しいと思います。案内しましょうか?」
「いいのか? 仕事中だろう」
「大丈夫ですよ! 客はゼロだし、車で往復七分程度の距離です。パパッと行けば問題ないです。一応、店長にもメールで連絡しておきます」

 良心的な店員が携帯電話でメールを送り始めた。
 修理業者なら、確かに店員よりは詳しそうな専門家だ。非常に助かる。

 あと思いつく問題があるとしたら業者の規模だな。
 小さな建物で個人経営しているか、そこそこ大きな建物で従業員を雇っているかだ。
 出来れば、ショップからショップには移動したくない。

「悪いね、助かるよ。良かったら、これでトロピカルジュースでも飲んでよ」
「いえいえ‼︎ 悪いですよ!」

 私はズボンのポケットから財布を取り出して、百ドル札を店員に渡そうとする。
 でも、店員は受け取るつもりはないようだ。かなり遠慮している。
 ここが女と男の違いだな。男は金に警戒する。女は金に無警戒だ。

「遠慮しなくていい。君は仕事中で仕事をしているんだ。ボランティアじゃないんだ。相談料と案内料と紹介料としては妥当な金額だ。むしろ、少ないかもしれない。受け取らない方がおかしい」
「そうなんですか? そういう事なら、ありがとうございます」

 ほとんど無理矢理に百ドル札を受け取らせた。
 良心的な青年に渡したので、天国の神様の評価もアップだな。
 汚い金をばら撒くのは非常に気持ちが良い。
 共犯者が増えて、罪の意識がどんどん薄れていく感じがする。

「いやいや、こちらこそ、君のお陰で助かりそうだよ」
「そんな事ないですよ。それと俺の名前はスタンリーです。友人はスタンと呼んでいます」
「スタンリー、スタンだな。よろしく、スタン。私はギルバード、家族からはジジイと呼ばれているが、出来れば、ギルと呼んでくれ」

 店員のスタンと軽く握手を交わしてから、私達は店の外に出た。
 店の外に待機させている車と運転手に、修理業者の所まで連れて行ってもらう。

「ケイト、こちらはスタンさんだ。これから、修理業者の所に案内してもらって、この魔石を調べてもらう事になった。五分程で着くから、そこまで運転してくれ」
「よろしくお願いします」
「五分……」

 店に入って五分を過ぎて、八分経過していた。
 更に追加の五分で、ケイトはキレている。
 紹介したスタンと一緒に私の顔面に拳を叩き込みそうだ。

「そう。だったら、早く乗って」

 でも、そこを我慢して大人の対応をしてくれた。
 ムカついても人前では、私は殴らないようだ。
 そうだ。やれば出来るじゃないか。我慢は大事だぞ。

 ♢

 ケイトは修理業者の所まで黙って運転すると、眼鏡とサスペンダーと一緒に私達を降ろした。
 そして、「終わったら、車に戻って来るように」と言って、車でミアとパトリの所に帰っていった。
 今日は海辺のレストランで、ワインは我慢しないといけないらしい。

「工場長をちょっと呼んで来ますね」
「よろしく頼む」

 私に一声かけてから、スタンは工場の中に入っていった。
 スタンに案内された修理業者は、そこそこ大きな建物を持つ修理業者だった。
 横幅五十メートル、奥行き百二十メートル、高さ十二メートルぐらいはある。
 平坦な三角屋根の神殿風の建物は、外壁は薄い橙色をしている。

 でも、古めかしい外壁とは違い、内部は最近の機械で溢れている。
 金槌やノコギリを持って来て、修理される心配はしなくてよさそうだ。

「ギルさん、お待たせしました。工場長のエメットさんです」
「こんにちは、ギルバートです。魔石の鑑定をしてもらいたく、お伺いさせてもらいました」

 スタンが灰色の作業着を着た四十八歳ぐらいの男を連れて来た。
 暑いのか上着のボタンを外して、中に着ている黒いシャツが見えている。
 黒髪の短い坊主頭に同じ長さの無精髭が生えているが、左手の薬指に指輪が嵌められている。
 仕事一筋のダラシがない人間ではなさそうだ。

「堅苦しい挨拶はいい。うちは船の製造と修理を主にやっている。当然、船に魔石を使うから多少は詳しいが、分からん事もある。まずは物を見せてくれ。協力できるか、出来ないかは見ないと分からん」

 挨拶して、軽く握手でもしようとしたが、素気無く断られた。
 差し出した右手が虚しいが仕方ない。こういう反応は慣れている。
 まずは眼鏡とサスペンダーの二体を紹介するとしよう。

「これが魔石を持っていた生物の金属です。金属を調べれば何か分かると思います」

 工場長を鉛色の二体のリアルマネキンの前に案内して、私の意見を言ってみた。

「確かにその通りだ。金属分析器なら、うちにもあるから直ぐに調べられる。もちろん、データとして登録されている金属以外は分からんだろうがな」
「よろしくお願いします」

 工場長は何度も分からん時は分からないと言ってくる。
 期待するなという意思がヒシヒシと伝わる。
 期待を絶対に裏切りたくないタイプの人間なのだろう。

「少し削るが問題ないな?」
「構いません。それと……これも調べてくれませんか」
「何だ、それは?」

 工場長はサスペンダーの身体を削るみたいだ。コンコンと叩いたり、撫で回している。
 その工場長に魔石を守っていたトゲトゲの一本を見せてみた。

「このトゲでこの人形を本物の人間のように操っていたんです。もしかすると、違う金属かもしれません」
「ふぅーん、まあいい。一つも二つも大した違いはない。六分もあれば、結果は分かる。その間に魔石の話でも聞かせてくれ」
「分かりました。二分程度に省略して話します」

 工場長は私からトゲを受け取ると、金属分析器の前に移動していく。
 従業員の一人がサスペンダーの小指をナイフで削って、金属を採取している。
 私がやる事は二分に省略した作り話を話すだけだ。

 ♢
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。 これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

神罰カウントが見える追放技師は、兵器開発を断って辺境港で遺物工房をひらく

蒼月よる
ファンタジー
反宗教国家の遺物管理局で働いていた技師ジンは、危険な接続実験を止めたせいで「臆病者」として追放された。 彼には遺物の危険度――神罰までの目盛りが見える。 流れ着いた辺境港アルヴァスで、壊れたポンプを直し、止まった航路灯を点け、生活道具だけを作る小さな工房を始めるが、評判はすぐに軍と闇市場へ届いてしまう。 「兵器にしろ」と迫る圧力。 「便利なら危険でもいい」と進める上層。 数字が赤くなる前に、守るべきは誰の暮らしか。 追放技師の逆転工房譚。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

処理中です...