没落令嬢カノンの冒険者生活〜ジョブ『道具師』のスキルで道具を修復・レベルアップ・進化できるようになりました〜

12日目

護衛依頼・街観光

　朝、カノンが冒険者ギルドに行くと、配達と護衛の仕事が両方待っていた。
　昨日の時点で明日出発すると、護衛依頼を頼んだ依頼人全員に連絡したそうだ。

「おお、凄い！　これが飛行船か！」
「くっ、削り取れない！」

　クリスタル飛行船に乗っている、商人や旅行中の金持ちが騒いでいる。
　一部の乗客がナイフで、飛行船の壁を削り取ろうとしている。
　払った護衛代を取り戻したいようだ。

「もうすぐ着きますよぉー」
「早すぎるだろ！　もう一周しろ！」
「すみません。苦情は受け付けますが、我が儘は受け付ていません」
「何だと！」

　飛行船の御者はカノンだが、護衛役はウェインだ。
　娘一人に任せられないと、特別経営相談役に娘の護衛を任された。
　村や町や街に乗客が降りるついでに、配達もやれば問題ないそうだ。

「ふぅー。我が儘な依頼人の相手は疲れるよ」
「そうですね。商品なら私が作れるから、商人はもう乗せなくていいんじゃないですか？」
「ははっ。それは無理だよぉー。今度は旅行者のフリして乗るだけだから」

　町の出入り口に、依頼人を送り届けたウェインが戻って来た。
　特別経営相談役から認め印を預かっている。
　わざわざ冒険者ギルドまで送り届ける必要はない。
　依頼人の署名を貰えば、それで依頼は完了だ。

「ウェインさん、昼ご飯です」
「あー、疲れたぁー！　これなら素材調査した方がマシだよ」
「そうですね。素材採取はほとんど終わったから、次は調査です」
「いや……普通は終わらないよ」

　最後の依頼人を送り届けて、二人は休憩した。
　金を払うからと、目的地を変更されて、予定よりも遠くまで来てしまった。

「うまっ⁉︎　これ何の肉？」
「ミノ、じゃなくて加工した牛肉です」
「お酒だけじゃなくて、肉も渡した方が絶対に良いよ！」
「分かりました。帰ったら相談役に相談します」

　美味しい肉にウェインが驚いた。昼ご飯は牛肉ステーキ、パン、ジュースだ。
　酒は飛行船を利用した依頼人全員に、降りる時に渡している。
　商人と金持ちに無料で渡して宣伝させるようにと、特別経営相談役に指示された。
　
「それよりもこのまま帰るのは勿体ないよ。せっかく遠くの街まで来たんだから、武器屋とか素材屋でも回らない？　知らない物が見つかるかもしれないよ」
「確かにそうですね。珍しい果物や野菜がありそうです」
「よし、これも採取調査だ！　頑張って二人で調査しよう！」

　ウェインはただ遊びたいだけだ。色々と理由を作って、二人で街に遊びに出かけた。

「カノンちゃん、この武器良いと思わない？」
「えーっと、大した剣じゃないですよ」
「え？　300万の剣だよ。凄い剣なんだから」

　武器屋の店主に頼んで、ウェインは一番高い剣を見せてもらった。
　カノンに買ってもらおうとアピールしている。だが最近作った魔法剣の方が凄かった。
　剣のステータスを確認して、購入しないと決めた。

「うーん、凄い武器はないですね」

　その後も防具屋、装飾品屋と回るが、カノンの装備が強力すぎる。
　気にいる商品が見つからない。そんなカノンにウェインが何となく言った。

「市販の品で満足できないなら、もう伝説の武器じゃないと駄目だね」
「その伝説の武器はどこに売ってるんですか？」

　カノンはお金ならあるから、伝説を買うつもりらしい。
　普通に売っている場所を聞いている。

「カノンちゃん、売ってないから伝説なんだよ。素材調査と同じで、あるのか、ないのか分からないんだよ」
「そうなんですか？」

　もちろん売っている場所はない。
　世間知らずのカノンに、ウェインは優しく教えてあげた。
　だけど、カノンは道具屋で買った本の中に、そんな感じの本があったような気がする。
　今は仕事中だから、あとでゆっくり確認するしかない。

「お土産にお菓子でも買って帰ろうか？」
「そうですね。二人が喜びそうです」

　午後3時。街の観光調査は終わりみたいだ。
　そろそろ帰らないと、特別経営相談役に娘を連れ回したと怒られる。
　ルセフ兄妹用にお土産を買うと、午後7時に冒険者ギルドに到着した。

「やっと帰って来たな！　待ってたぞ！」
「俺達に毒酒飲ませて、上級冒険者だと？　しかもコソ泥野朗が職員だと？」
「やりたい放題やりやがって覚悟しろよ！」

　帰って来た二人を、怒った冒険者達が熱烈に歓迎している。
　悪酒から回復して元気になったようだ。